第30話 「狼姫と、秘密の花園」
「仕方ないじゃないか。お互いに長を務める身だし、こうして誰もいない時間を作るしか無いんのだから」
「そ、それはそうだけどぉ……」
「それに、学校が良いって言ったのはキミだよ未来。悪い子は、どっちだろうね?」
「ひゃあっ……!?」
風紀室の机の上で。
朝日ヶ丘先輩の上に跨った十七夜月先輩が、はだけた素肌に唇を落とした。
それに学園のアイドル的存在である生徒会長は誰も聞いた事がないような甘い声を上げる。
その光景を、俺と咲蓮は扉の隙間から覗いていて。
……いや、目を離せなくなっていたんだ。
「未来、キミは無防備すぎるよ。その小柄ながらに豊満な肉体で学校中を駆けまわってさ。他の男子がキミをどう見ているか知っているのかい?」
「ふぇぇっ!? き、急になに!?」
「その無自覚さも危ないね。うん、風紀違反だ」
「なっ……やっ……ひゃぁん……っ!」
つーぅ、っと。
風紀委員長は悪い部分を取り締まるように朝日ヶ丘先輩の大きな胸の膨らみを指でなぞる。
それに先ほどよりも大きな声で悶える様はとても扇情的だった。
「莉子先輩。強い」
「つよ……いや、強いって言うか……いや……」
俺の顔の下で、咲蓮が呟く。
確かに強いけど、何ていうか場の雰囲気とかやっている事も相まってエロいという感想しか生まれてこなかった。
風紀委員長が取り締まりと言う名目で生徒会長の身体を弄っている。
しかも学校の風紀を取り締まる本拠地である風紀室のど真ん中でだ。
これを秘密の花園と呼ばずに何と呼ぶのだろうか?
「……未来。好きだよ」
「ふぇっ!? い、今の流れでそれ言うのぉ!?」
「未来が可愛いんだから仕方ないじゃないか」
「り、理由になって無いよぉ……!」
そのペースは終始十七夜月先輩が圧倒していて、朝日ヶ丘先輩はやられっぱなしだった。
以前俺が朝日ヶ丘先輩に似ていると言われた理由が少し分かった気がする。
……確かに俺も、最近は咲蓮にやられっぱなしだった。
「ああ、世界一可愛いボクの未来。もっとその可愛い顔を見せて」
「い、嫌って言っても見る癖にぃ……。莉子ちゃんの、馬鹿ぁ……」
恥ずかしさで朝日ヶ丘先輩は顔を隠す。
その仕草も、十七夜月先輩を燃え上がらせるには十分だったようだ。
「二人とも。すごく仲良し」
「え、あ、そ、そう……だな……」
そんな二人が乱れ始める姿を見て、咲蓮がボソッと呟いた。
俺は何て返したらいいか分からずに、適当に相槌を打ってしまう。
「良いな」
「い、良いっ!?」
だから。
続いたその短いながらもインパクトがある言葉に、思わず声を荒げてしまった。
慌てて俺は自分の口を手で塞ぐ。
どうやら先輩方は秘密の花園に夢中なようで、それには気づいていないようだ。
でも、まさか。
咲蓮にもそういう気持ちがあるとは。
健全な高校生だしむしろそれが正常な事なのだが、いつも子犬というか子供のように抱きついているせいでとても意外だった。
……そうなると。
俺はひょっとして、異性として見られていないのではないだろうか。
「莉子ちゃん……いじわるしないで、そろそろぉ……」
「ふふっ、仕方ないね未来は」
ドキドキとガッカリが交互に俺を襲っている頃。
朝日ヶ丘先輩と十七夜月先輩は次のステップに進もうとしていた。
このまま見ていて良いのだろうか……。
俺だって健全な男子高校生だ、本音を言えばめちゃくちゃ見たい。
でも隣と言うか下には咲蓮がいる。しかも日ごろからお世話になっている先輩方の交わりなんて、これからどう接すれば良いのかも分からなくなるかもしれない。
風紀委員の立場を使い、取り締まるべきか。
でも取り締まっているのは不純異性交遊であり、同性の場合はどうなるのだろう。
「けど、良いのかい?」
そんな事で悩んでいると、十七夜月先輩は不敵に笑みを浮かべて。
「このままだと、可愛い後輩二人に全部見られちゃうよ?」
「……ふぇ?」
机の上で。
朝日ヶ丘先輩に跨りながら、扉から覗く俺と咲蓮に笑いかけてきたんだ。
それは秘密の花園を舞う綺麗な蝶ではなくて、巣に引っかかる獲物を前にした蜘蛛のようで――。
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!??」
――綺麗な蝶そのものな朝日ヶ丘先輩は、俺と咲蓮を見て。
今まで漏れていた甘い声が嘘のような、特大の悲鳴を上げるのだった。