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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第二章 狼姫の風紀活動

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第28話 「狼姫と、すにーきんぐ」

「総一郎。こっち」

「ま、待てって!」


 咲蓮が俺の手を引く。

 手を洗った直後。まだハンカチで拭いていないのだが、そんな事は関係が無いようだ。

 長い廊下を抜けて、咲蓮は迷うことなく階段を上へあがる。

 そしてまた廊下へと繋がる門で急停止をし、ひょこっと顔を出すようにして覗き込んだ。


「……誰もいないよねー?」


 するとそこには、今さっき見たばかりの朝日ヶ丘先輩の姿があった。

 挙動不審な生徒会長は、一つ一つ教室を覗きながら誰もいない事を確認している。


「…………凄いな。本当にいた」

「未来先輩。さっき下から上がってくる足音した」

「おぉ。咲蓮、何だか探偵みたいだな」

「えへん」


 お互いに階段の角から朝日ヶ丘先輩を覗いているので分からないが、多分咲蓮は誇らしげな顔をしていると思った。

 ちょっとだけ、朝日ヶ丘先輩の匂いを辿ってきたとか言い出しかねないなと思っていたのは内緒である。


 流石にそこまで言ったら本当にイヌ科になってしまうしな。


「……まあ、流石にいないかー」


 そんな事を考えている間も、朝日ヶ丘先輩は全ての教室を回っていた。

 学校の見回りは風紀委員の役目なのだが、何故生徒会長である朝日ヶ丘先輩が見回りをしているのだろうか。

 それに今はテスト期間で、下校時刻から既に三時間以上が経過している。

 

 謎は深まるばかりだった。


「……いないよね?」

「っ!?」

「わっ」


 ふいに朝日ヶ丘先輩が後ろを向いた。

 反射的、いや直感的に俺は咲蓮を抱き寄せる。

 もう少し反応が遅れたら見つかっていただろう。


 ……いや、隠れる必要は無いのだが。

 何故か身体が勝手に動いたんだ。


「……ふぅ。気のせいかぁ」


 しとしとと窓の外を降る雨の音。

 静寂に包まれた校舎の中、少し離れた廊下で呟いた朝日ヶ丘先輩の声が聞こえた。

 そこから動き出した足音が少しずつ小さくなっていく。

 どうやら見つからずに済んだようだった。


「ほふひひほふ。ふふひひ」

「っ!? す、すまん……っ!」


 俺の腕の中で。

 抱きしめられた咲蓮がふがふがと口を動かす。

 手のひらに触れる吐息、そして腕に広がる咲蓮の柔らかさ。

 咲蓮を抱き寄せた際、思わず彼女の口を手で塞いでしまった事に今になって気がついた。


「ぷはっ。ご褒美、まだ早いよ?」

「今のはご褒美じゃなくて、見つかりそうになったから仕方なくだな……」

「そうなの? 嬉しかったけど」

「そ、その話はまた今度で良いか!? あ、朝日ヶ丘先輩を見失ってしまうから!」

「うん。また今度ね」


 嬉しかったって何だ嬉しかったって何だ嬉しかったって何だ!?

 こっちがやらかしたと思ったのに真顔でそういう事言うの、本当に反則だ。

 いくらだっこされるのが好きでも、口を手で塞ぐのはこう……なんか駄目だ!!


 風邪とは別の理由で熱くなる顔を悟られないように、今度は俺が咲蓮の手を引く。


「あ、あっちは特別教育棟か……」

「うん。総一郎、記憶喪失?」

「…………一応の、確認な?」


 誤魔化すように呟いた言葉を丁寧に咲蓮が拾う。

 拾ってほしくはないタイプの拾い方をされて、違う意味で顔が熱くなった。


 視界の先。

 廊下の一番奥で、朝日ヶ丘先輩の金色の髪が角へと消えていくのが見える。

 拾われてしまったのでもう言う必要は無いのだが、その先は階段ではなく特別教育棟へと向かう渡り廊下だった。


「未来先輩。生徒会室に戻るのかな」

「どうだろうな。それにしてはソワソワしてるし、妙に早足だが……」


 俺と咲蓮も少しだけ歩く速度を上げて、朝日ヶ丘先輩を追う。

 特別教育棟は理科室や音楽室と言った特別教室の他に、生徒会室や俺達が所属する旧視聴覚室を改造した風紀室がある場所だった。

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