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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第二章 狼姫の風紀活動

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第27話 「狼姫と、挙動不審」

「ったく……咲蓮の奴、何考えてるんだ?」


 男子トイレで用を済ませた俺は、溜息と共に自然と言葉が漏れた。

 いくら熱が出た俺を心配してくれているとはいえ、二人で一緒に男子トイレに入るなんてアウトもアウト、大アウトである。

 もし仮に侵入を許していたら、咲蓮の事だから最悪の場合個室の中にまでついてきたかもしれない。


 そう思うぐらい、今日の咲蓮は俺にベッタリだった。

 これもテスト期間と不純異性交遊の疑いで見回りが強化されたせいで、必然的にご褒美の回数を減らすしか無かったからだろうか?

 

「……まあ、今それを考えても仕方ないか」


 全部元通りになった時の反動が少し怖いけど……それはその時に考えよう。

 そう気持ちを新たにして、俺はトイレの手洗い場で手を洗っていた。


「総一郎」

「うおおっっ!?」


 すると背後に。

 俺の視界だと鏡に、咲蓮が映りこみ話しかけてきた。

 思わず飛び跳ねそうになった蛇口の水を止めて、俺は大急ぎで振り返る。


「さ、咲蓮っ!?」

「うん」


 もちろん幽霊なんかじゃない、本物だ。

 だからこそ、大問題だった。

 いくら手洗い場とは言え、いくらもう用を足し終えたとは言え、ここは男子トイレの中なのだ。

 

「待っていてくれと言った筈だが!?」

「待った。じゃ、なくて。こっち」

「こっちってなんだおいっ!?


 有無を言わさず。

 咲蓮は濡れたままの俺の手を掴んで男子トイレの入り口へと引っ張っていく。

 外に出るのは状況的に健全なのだが、咲蓮と一緒に外に出ると言うのは傍から見たら不健全でしかない。

 テスト期間かつ放課後になって数時間後の校舎なのでもう生徒はいないだろうが、それでも目撃されたら大変な事になってしまうのだ。


「ほら、あれ」

「あ、あれ!?」


 男子トイレの出入り口から顔を出すようにして、咲蓮が廊下の奥を覗き込む。

 何が何だか分からないまま引っ張られた俺は、何が何だか分からないまま咲蓮に倣って顔を出して廊下の奥を見るしかなった。


『…………』


 するとそこには、見知った女子生徒の姿があったんだ。


「朝日ヶ丘先輩……?」

「うん。未来先輩」


 その小さな背丈と反比例する大きな胸、そして流れる金色ブロンドの髪は遠目からでも見間違う筈が無い。

 この学校の生徒会長、朝日ヶ丘未来先輩である。


 放課後の学校。

 もう他の生徒は帰っている筈なテスト期間の夕方に、朝日ヶ丘先輩がいたんだ。


「何で、朝日ヶ丘先輩がまだ学校にいるんだ?」

「分からない。でも、何か困ってるみたい」

「困ってる?」


 咲蓮は俺を見上げ、首を横に振る。

 その言葉に疑問を感じた俺は、もう一度男子トイレの出入り口から廊下を覗き込んだんだ。


『…………!?』


 遠巻きからだとよく見えないが、咲蓮の言いたい事はなんとなく伝わってきた。

 朝日ヶ丘先輩はしきりに左右を確認したりして、見るからに挙動不審なのである。

 それは少なくても、つい先日体育館で見た、凛々しくも華やかで可憐な生徒会長の姿では無かったんだ。


「凄く、キョロキョロしてるな」

「何か探してるのかな?」

「どちらかと言えば、周囲を気にしているようだが」

「じゃあ、隠れて正解だった?」

「……男子トイレに隠れようとする以外は、な」

「むぅ。総一郎は、厳しい」


 朝日ヶ丘先輩には絶対に聞かれる距離でも無いのに、俺と咲蓮は小声で話す。

 そうしなきゃいけないと感じたのは、普段とは違う朝日ヶ丘先輩の様子のせいだった。


『…………!!』


 何度も周囲を見渡した朝日ヶ丘先輩が、廊下の奥から姿を消す。

 どうやらその先の階段へと向かったようだ。


「行っちゃったね」

「……だな」

「でも、何かいつもと違ったね」

「……だな」

「心配だから、行こ?」

「……だな。って、咲蓮!?」


 その様子を、男子トイレの出入り口から覗いていた俺達。

 当然、このまま何事もなく終わる筈も無いのである。

 誰にでも優しいけれど実は我が強くわがまま姫な咲蓮は、俺の手を引いて、廊下の奥から階段へと消えていった朝日ヶ丘先輩を追いかけ始めるのだった。

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