第21話 「狼姫と、生徒会長」
六月も中盤。
俺と咲蓮が名前で呼び合っているのが周知されて、早くも二週間が過ぎた。
当然ながら不純異性交遊をしている生徒は見つからず、咲蓮による距離感の近いスキンシップを見るのにも皆が慣れてきた今日この頃。
俺達全校生徒は、体育館で各委員会代表による一学期の活動実績報告会に参加していたんだ。
「以上が、風紀委員の活動だよ。一年生も二年生も三年生も、等しく新しい環境での一学期だった筈だ。今は六月。慣れてきた分、気が緩み、誘惑に負けてしまう事もあるだろう。だが今年度は全校生徒一同大変優秀で、まさに模範とも言える学生生活だった。例年この時期は見回りを強化するけれど、違反者はゼロ。これはとても誇らしい事だと、風紀委員を代表してボクが保証するよ。皆、お疲れさま」
体育館の壇上にて。
堂々とした演説を終えた十七夜月先輩が言葉の最後に笑みを浮かべると、それを見ていた生徒達から拍手が巻き起こった。
流石は三年生の中で生徒会長と人気を二分している風紀委員長である。
堅苦しく、そして退屈になりがちな活動報告を分かりやすく手短に済ませ、最後は聞いてくれた生徒達を褒める事で一体感を生み気持ち良く終わらせる幕引きは見習うべきところばかりだった。
「莉子先輩。凄い」
「……だな」
壇上の脇、体育館の端には各委員会の代表とその補佐が立っている。
風紀委員の補佐は俺と咲蓮で、十七夜月先輩のスピーチを見た俺たちは素直に感心していた。
「ありがとうございました。これにて、各委員会の活動報告を終わります。それでは最後に、生徒会長お願いします」
司会を務める女子生徒の声が体育館中に響く。
今この場だけは生徒達の独壇場だ。
生徒個人個人の自主性に重きを置いている我が校では、度々こうして教師の手を離れて生徒が企画し生徒だけで進行するイベントが多く存在する。
だからこの場にいるのはほとんどが生徒で、顧問の先生が少数いるだけだった。
そして最後に。
壇上に現れたのは、この学校で一番の有名人――。
「みんなーっ! お疲れさまーっ! 長い長い集会だったけどみんなちゃんと聞いてて偉かったよーっ! 最後に私、朝日ヶ丘 未来が終わりの挨拶やっちゃうよーっ!!」
――生徒会長、朝日ヶ丘未来の登場で。
体育館中がライブ会場のような熱狂に包まれた。
「おおっ! みんな今日も元気だねー! これは放課後の部活でもパワーありあまっちゃうんじゃないのー! でもざんねーん! 今日から辛い辛いテスト週間だから部活はお休みでーすっ! みんなー! 真面目に帰って勉強するんだよー?」
主に男子生徒から、はーいと野太い声がする。
まるでアイドルとのコールアンドレスポンスのような一体感だ。
一目見て分かる通り、生徒会長の人気の秘訣はその天真爛漫な明るさとその見た目の良さである。
体育館の照明に照らされて輝く金色ブロンドの髪は地毛で、彼女がハーフなのをこれでもかと象徴している。
クリっと大きな青い瞳に高い鼻と整った顔立ち、背は低めながらも小動物のような愛くるしさを振りまいているのに胸は大きいと絶妙な美のバランス感。
それでいて男女問わず守りたくなる容姿をしながら、愛される要素しか持っていない天性の明るさを全生徒に振りまくその姿は、男子を中心に絶大的な人気を得ていたんだ。
「未来先輩。今日も元気」
「……だな」
そんな大人気な生徒会長の姿を見て、また俺と咲蓮は感心していた。
さっきまで真面目だった体育館の集会は完全にライブ会場と化していて、それを止める者も嫌な顔をするものも誰もいない。
全員が彼女の一挙手一投足に見入っていたんだ。
「じゃあ今日の集会はおーわりっ! 一番後ろにいる三年生から順番を守って教室に帰るんだよー! 一番の先輩なんだから、カッコいい所を後輩に見せなくっちゃねー!!」
そして十七夜月先輩のスピーチ以上の拍手の後に。
委員会の活動報告会は大盛況の中、終了となった。
朝日の生徒会長。
夜月の風紀委員長。
そんな名前通りの通り名で、二人は対照的に、だけど絶対的に呼ばれている。
そんな生徒会長に期待されているのが、孤高の狼姫と呼ばれている咲蓮だ。
近い内に咲蓮は、風紀委員から生徒会に正式に加入するだろう。
だから俺はそれを応援しつつも、どこか遠い存在だと思っていたんだ。
「よーし! 次は二年生も退場していこっかー! 一年生のみんなは最後まで待ってられて偉いぞーぅ!!」
生徒会長は腕をぶんぶんと振りながら、二年生に退場するように煽る。
俺はそんな朝日ヶ丘先輩を見て、つい先日に言われた言葉を思い出した。
『――柳クンと生徒会長が似ているように、咲蓮クンはボクと似ているから、かな』
対となる存在の、風紀委員長。
十七夜月先輩に言われた、その言葉を。
そして同時に思うんだ。
俺と生徒会長、どこも似てないだろう……と。




