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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第二章 狼姫の風紀活動

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第20話 「狼姫と、似た者同士」

 朝に突発的な撮影会が起きたものの、俺と咲蓮のお互いの名前呼びは想像以上にそのまま受け入れられた。

 もっと騒がれると思っていたから、とても拍子抜けである。


 そんなこんなで、一安心と言えば一安心なのだが。

 一つだけ、予想外な出来事があったんだ。


「総一郎。次は移動教室、一緒に行く」


 教科書を両手に抱えた咲蓮が俺の前に立ちはだかる。

 そんな筈は無いのだが、尻尾がブンブンと振られているような勢いだった。


「総一郎。外は暑い、水分補給大事」


 校庭で体育が終わった後。

 咲蓮が俺の腕を掴んで水道場へ連行してくる。

 そんな筈は無いのだが、首輪を引っ張りリードする姿が見えた。


「総一郎。食堂のご飯はとても美味しい。一緒に食べよ」


 昼休み。

 有無を言わさず咲蓮と一緒に食堂で昼食を食べることになる。

 好きなものを食べる時の咲蓮は、何度も頷く癖があるらしい。

 そんな筈は無いのだが、多分待てと言っても咲蓮は待たないと確信した。


「総一郎。ファンクラブの皆に今朝のツーショット画像貰った。待ち受けにしよ?」


 放課後。

 スマホを持った咲蓮が駆け寄ってきて、俺に画面を見せてくる。

 言わずもがなその距離はゼロで、スマホの画像よりも隣にいる咲蓮が気になってしょうがない。

 そんな筈は無いのだが、灰色ウルフカットの頭にピコピコと犬耳が生えているような気がして――。


 ◆


「あっはっはっはっは。中々愉快な事になってるねぇ」

「……笑い事じゃないんですが」


 旧視聴覚室を改造した風紀室の机に座る十七夜月先輩が笑う。

 何を考えているか分からない深い黒色の瞳も、今だけは楽しんでいるのだと理解できた。


「咲蓮の奴、事あるごとに俺の名前を呼んで近づいてくるんですよ……」

「信頼されているようで、なによりじゃないか」


 そのなによりが問題だった。

 今までがお預けだったかのように、咲蓮は理由を見つけては俺にくっついてくる。

 だっことかそういう仕草は流石に無いのだが、急にこんな距離を縮められると気が気ではなかった。


「柳クンは嫌なのかい? 咲蓮クンと仲良くなる事が」

「それは……」


 俺だって嬉しいに決まっている。

 ただ少し、その勢いに圧倒されているのもまた事実で。


「難しい顔だ」

「……え?」

「柳クン。キミは物事を深く考えすぎる傾向がある。慎重で冷静な事は美徳だが、時には理屈より気持ちを優先した方が良いとボクは思うよ。それこそあの堅物な生徒会長と同様の性格と言って良いだろう。もちろん、悪い意味でね」


 おもむろにまた机の上に座って足を組み、その組んだ足に肘を立てて口元に手を当てた先輩が不敵に笑う。

 色白で綺麗な足が露出するけれど、その不敵な笑みから一切目が離せなかった。


「風紀委員は不純異性交遊を取り締まるが、不純じゃないのなら何も言わないよ」

「……それは、どういう?」

「あっはっは。それぐらい自分で考えて答えを出したまえよ。キミはボクが期待する可愛い可愛い後輩なのだからね」


 最後に。

 期待を込めてか十七夜月先輩は俺にウインクを送ってくる。

 だけどその期待は今までやってきたどの風紀活動よりも重かった。


「さて、呼び出して悪かったね。外で咲蓮クンを待たせてしまっているし、そろそろ行ってあげると良い。安心してくれたまえ。キミたちの評判は上々で、風紀は思ってた以上に良くなりそうだ」

「……分かりました」


 笑顔で俺を見送る先輩に背を向けて、風紀室の外へと歩き出す。

 でもその途中で、気になった事が一つあった。


「あの、十七夜月先輩。何故今日は俺だけを呼んだんですか? 中間報告なら咲蓮も一緒にいた方が良いでしょうに」

「ふむ。確かにキミが言ってる事は正しいと言えるだろう。でもね、物事には全て理由があるんだよ。例えば、ボクとしては次の風紀委員長へ推しているキミに成長してもらいたいからとか――」

「とか?」


 十七夜月先輩は、一息間を置いて。


「――柳クンと生徒会長が似ているように、咲蓮クンはボクと似ているから、かな」


 そう、意味深に笑う。

 でもこの時の俺は、十七夜月先輩の言葉の意味がよく分からなかったんだ。

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