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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第二章 狼姫の風紀活動

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第19話 「狼姫と、撮影会」

「サ、サレン様どういう事ですかいつも通りって!?」

「柳とどういう関係なんです!?」

「い、いつから……いつからなんですか柳さん!?」


 ホームルーム前の朝の教室。

 咲蓮による俺への突然の名前呼びに、ファンクラブ代表仲良し三人娘は大きく動揺していた。その大声は教室中に伝播して、俺達は一気に注目の的になる。


「いつも通りはいつも通り。総一郎には風紀委員で色々とお世話になってる。ぶい」


 何がぶいなのか、咲蓮は表情一つ変えずに右手でピースサインをする。


「じゃ、じゃあ風紀委員でご一緒してた時から二人は隠れて名前呼びで……!? つまり、一年生の時からずっとですか!?」

「そうとも言うね」


 そうとしか言わない。

 咲蓮が全部をペラペラと説明しなくても周りが聞きたい事を三人が聞いてくれているので、口下手な咲蓮にとってはとっても楽そうだ。


「私のあだ名は色々あるけれど、同じ風紀委員同士なら名前で呼び合うべき。総一郎は一緒に学校の風紀を取り締まる相棒だから。ふふん」


 咲蓮の口角が少しだけ上がる。

 どうやら俺の事を公の場で総一郎と呼べて嬉しいらしい。


「な、なるほど。相棒ですか……!」

「風紀委員同士だから、変な事は一切ないと……!」

「つまり、お二人で協力して学校の風紀を守っていたって訳ですね……!」


 良いのかそれで?

 ある意味で素直、ある意味で盲目過ぎるファンクラブ代表三人娘は咲蓮の言葉に納得してしまった。

 チョロい。チョロすぎる。

 咲蓮の言う事なら何でも信じてしまいそうなチョロさだった。


「ですが……どうして隠していたんですか?」

「うん。良い質問」


 三人の中で一番俺に絡んでくる率が高い大人しめな女子が質問する。

 当事者だけど、置いてけぼり過ぎて俺も良い質問だと思ってしまった。

 それに咲蓮は少しだけ十七夜月先輩風味の、俺以外には誰にも伝わらない物真似をしながら答えていく。


「今までの私は色々な部活の助っ人で忙しかったから、風紀委員の仕事は全部総一郎にやってもらってた。それじゃあ対等な立場の相棒とは言えない」

「つ、つまり……?」

「これからは、莉子先輩のお願いで私も風紀委員として全力を出す」


 ――ジャキーン!

 そんな効果音が聞こえてきそうなぐらいの勢いで、咲蓮はカバンから取り出した『風紀』と書かれた腕章をワイシャツの左腕部分に取り付けた。

 これに関しては無表情でも分かるレベルの、渾身のドヤ顔だった。


「こっ、神々しい……!」

「風紀という二文字が凛々しさを何百倍にも押し上げている……!」

「り、莉子先輩ってあの風紀委員長の十七夜月莉子先輩ですよね!? 今の生徒会長と永遠のライバル関係でこの学校のツートップな風紀委員長のお願いって事は、これからは柳さんとサレン様の最強タッグで学校の風紀を守られるという事ですか!?」


 ファン一同、大盛り上がりである。

 咲蓮の腕章姿が珍しいのか、拝んだりスマホで撮影を始めたりめちゃくちゃ早口でその凄さを説明したりしていた。


「総一郎も。腕章」

「お、俺もか!?」

「うん。風紀委員だもん」


 風紀委員だからって、いつも風紀の腕章をしている訳ではない。

 だけど咲蓮がやりたがっているので、俺もカバンから腕章を取り出してワイシャツ左腕に取り付ける。

 するとそれを見た咲蓮が、椅子に座る俺の腕を掴んで無理やり立たせてきた。


「これでお揃い。むふー」

「キャー! サレン様とても素敵ですー!」

「図体のデカい柳と並ぶことで細さが際立ってる!」

「柳さんも雄々しさが存分に引き立てられてますよー! 目線! 目線こっちにくださーい!!」


 何だこれ。

 腕章を付けた俺と満足気な咲蓮が並び、写真撮影が始まってしまった。

 大興奮のファンクラブ代表達の熱に充てられてか、俺も私もと次々にクラスメイト達がスマホを片手に近寄ってくる。


「総一郎。教室の風紀はこれでバッチリ」

「……むしろ乱れてないか、これ?」


 急遽始まってしまった、俺と咲蓮のお揃い風紀腕章見せつけ撮影会。

 そのせいかおかげか、俺達の関係についてツッコむ者はいなくなりこの場は丸く収まった。


 俺と咲蓮が並んでポーズを取ってる写真が、クラスメイトやファンクラブ伝手に学校中に広まってしまったという……致命的な一点を除いて。

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