閑話1 『狼姫と、お母さん』
※ヒロイン、咲蓮視点
「発表が! あります!!」
「ただいま。お母さん」
「おかえり咲蓮! 重大発表があるよ!」
「どうしたの?」
夜。
私が家に帰ると、お母さんのテンションが凄く高かった。
雪みたいに綺麗な長い白髪を揺らしながら小躍りする姿は、ちょっと可愛い。
「なんとなんとー! じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃか……じゃんっ!!」
お母さんは長い長いセルフドラムロールで空気をバンバン叩いてる。
これだけ嬉しそうだから、きっとお父さんの事だと思う。
「今日はパパが早く帰ってくるよ!!」
「おー」
やった、当たった。
私が小さく拍手をすると、お母さんは嬉しそうにエプロン姿のまま飛び跳ねる。
「だから今日はパーティです!」
「一週間ぶりのパーティだね」
お父さんは凄く仕事が出来る人みたいで、とても忙しい。
いつも家に帰って来るのが夜遅くだから、今日みたいに帰って来るのが早いとお母さんはとても喜ぶ。
お父さんとお母さんがニコニコしていると、私も嬉しい。
「咲蓮の好きなものも、いっぱい作ってあるよ!」
「やった」
お母さんはドヤ顔でサムズアップする。
淡い色の瞳がキラキラと輝いていて、子供みたい。
高校生になった今でも一緒に買い物に行くと姉妹に間違われるぐらいで、凄く綺麗で可愛いお母さんは私の自慢のお母さんだ。
「しっかり手を洗って待っててね! 今作ってる所だから!」
「はーい」
うおーってお母さんは短い廊下を全力疾走で駆け抜けてリビングに向かっていく。
お母さんは凄く元気。
昔は病弱で儚げだった反動だって、お父さんが言ってた。
「じゃぶじゃぶ」
そんなお母さんの嬉しさに影響されて、私も鼻歌を歌いながら手を洗う。
お父さんもお母さんも優しいから、大好き。
「総一郎。大丈夫かな?」
手を洗って、うがいもした後。
ふと、総一郎の顔が頭を過ぎっちゃった。
風紀委員会で莉子先輩の話を聞いてから、凄く難しい顔をしてたから。
いつもは私が元気を貰ってるから、明日は私が元気をあげたいな。
「お母さんお母さん」
「どうしたの咲蓮? つまみ食いは駄目だよー?」
リビングに行って、奥のキッチンにいるお母さんに話しかける。
つまみ食いは駄目って言ってるのに、自分は味見をしていてズルかった。
「好きな人に元気になってもらうには、どうしたら良い?」
「…………」
「お母さん?」
後で私も味見させてもらおう。
そう思いながら聞いてみると、お母さんは固まっちゃった。
「……咲蓮」
「うん?」
「その話、詳しく聞かせてー!」
「うわわっ」
かと思えば、すっごい目をキラキラさせてキッチンを飛び出して来た。
お父さんが早く帰って来るって言った時と同じぐらいキラキラしている。
「お母さん。料理は?」
「大丈夫! 後はパパが帰ってきたら盛り付けるだけだから! それより今は咲蓮の話だよ! 任せて! ママそういうの凄く得意なんだ!!」
「そうなの?」
「うんっ!!」
お母さんに背中を押されて、私は一緒にソファに座る。
お母さんは凄く嬉しそうに、子供みたいに大きく頷いていた。
「どうやら咲蓮にも、パパとママのお話をする時が来たみたいだね……!」
「お父さんとお母さんのお話……聞きたい」
「しょうがないなー! ちょっとだけだよー?」
そう言ってお母さんは嬉しさで左右にゆさゆさ揺れながら、私にお父さんとお母さんの昔話を聞かせてくれた。
お父さんとお母さんは、凄く仲良し。
だから私もしっかり話を聞いて。
総一郎ともっと、仲良くなりたいな。
第一章 狼姫の日常 完
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第二章 狼姫の風紀活動