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いつもクールで完璧美人な孤高の狼姫が、実は寂しがり屋で甘えん坊な子犬姫だと俺だけが知っている  作者: ゆめいげつ
第一章 狼姫の日常

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第15話 「狼姫と、風紀委員」

 特別教育棟四階にある旧視聴覚室。

 規則的に並ぶ長机の奥には壇上があり、今は使われていないスクリーンが壁に埋め込まれている。昔はプロジェクターを使用しての授業用の場所として使っていたので、この部屋に窓はない。

 入り口の扉も壇上からは一番遠い場所に一カ所しかなく、機密性は学校の中でトップクラスに高い場所だろう。


 ここが、俺達が所属する風紀委員に与えられた教室。

 通称、風紀室と呼ばれる場所だった。


「やあ風紀委員の諸君。よく来てくれたね」


 そんな一般の生徒が絶対に訪れないであろう旧視聴覚室の壇上に一人、女子生徒が堂々と立っていた。

 腰より長い艶のある黒髪はまるで大和撫子を体現したかのようで、道行く者は必ず彼女に振り返るだろう。

 不敵な黒の瞳はこの風紀室に集まった二十人以上の風紀委員を前にしても臆する事は無く、むしろ飄々とした余裕を感じさせていた。


「全員が一堂に会する久しぶりの会合だからね。改めて自己紹介をさせてもらおうかな? ボクは十七夜月 莉子(かのう りこ)。キミたちが所属する風紀委員の長をやらせてもらってるよ」


 十七夜月莉子。

 初見では絶対に読めないであろう珍しい苗字を持つ彼女は、三年生で俺たち風紀委員の代表だ。

 その圧倒的なカリスマ性は三年生の中だと現生徒会長と人気を二分する程である。


「本当ならこの流れで副会長の紹介といくんだけどね。生憎季節の変わり目で体調を崩して療養中なんだ。だから今日は代役として、今後の風紀委員を代表するであろう二人に並んでもらっているよ」


 十七夜月先輩はチラッと左右に視線を送る。

 すると二十を超える視線が、()()()()に向けられたんだ。


「まずはカレ。二年生の柳総一郎クンだ。カレは精力的に毎日我が校の風紀の取り締まりに尽力してくれていてね、気は早いが次の風紀委員長の最有力候補だとボクは思っているよ」

「……買いかぶり過ぎですが、期待に応えられるように頑張ります」


 やたら評価が高い十七夜月先輩の紹介に続いて、俺は手短に挨拶をする。


「あれが噂の柳先輩……」

「校則違反者は必ず検挙するって言う……」

「その手腕で一年生の時には既に三年生の問題児を全員更生させたとか……」

「なんでも風紀委員の活動を一日も休んでいないらしい。生粋の大和男児だ……」


 すると、俺とはあまり関わりのない一年生がざわつき出した。

 しかしそれは出自不明の噂ばかりで、どれもこれも嘘っぱちである。

 強いて言うなら、風紀委員の活動を一日も休んでいない事ぐらいしか本当じゃなかった。


「あっはっは。キミも有名になったものだねぇ」


 それでも隣に立つ先輩にとっては面白いらしく、ニヤニヤと笑っている。


「そしてそんな柳クンと双璧をなすのがカノジョ。同じく二年生の赤堀咲蓮クンだ。諸君も知っての通り、成績優秀で運動神経抜群、容姿端麗と非の打ち所がないカノジョは風紀委員にこそ在籍しているが日夜他の部活から助っ人として引っ張りだこだ。それでいて現生徒会長にもスカウトされていてね、将来的には我が風紀委員と生徒会の架け橋になってくれると期待しているよ」

「よろしくね」


 その流れで、十七夜月先輩は俺の反対側に立つ咲蓮の紹介をした。

 当然ながら俺より長い紹介の後に、咲蓮はとても短い挨拶をする。


「本物の狼姫だ……」

「近くで見るの、風紀委員に入った時以来かも……」

「風紀委員長とはまた違った綺麗さがあるよな……」

「風紀委員会に所属していながらも活動の場所を一つに定めないのが、狼姫の孤高っぷりを表してるよね……」

「他に次の生徒会長になれる逸材、この学校にいないよな……」


 そして俺の時よりもざわつくのは当然の事で、その全てが俺の時と違って真実で溢れていた。これには納得しかないし、そもそもこの二人と俺が並んでいるのが少し場違いな気もする。


「うんうん。諸君が騒ぎたくなる気持ちもわかるよ。だけど挨拶はここまでにして、ここからは真面目な議題といこうか」


 先輩は笑顔で頷くが、すぐに真剣な表情と声音に変わった。

 見るもの全てを飲み込みそうな黒の瞳が、壇上の前に並んでいる他の風紀委員を一瞥すると和やかな雰囲気が厳格なものに変化していく。


「これはまだ、教師しか知りえない情報だ。風紀委員に所属する者として、みんな。他言無用で頼むよ」


 返事は無い。

 それだけ全員が真剣に、風紀委員長の言葉を待っていたんだ。

 そしてそんな十七夜月先輩が言っていた教師しか知りえない情報というのは、朝のホームルームで少しだけ担任の先生が漏らした言葉と同じだろう。


 それを思い出した俺も、次に続く言葉を聞き逃さないように集中する。


「単刀直入に言うと、我が校で不純異性交遊を行っている生徒達がいるらしい」


 その言葉に、風紀室の中はざわついた。

 何故なら不純異性交遊は他の学校でもそうだろうが、進学校である我が校においても明らかな校則違反だからである。


「このご時世だ。教師達も大事にしたくないみたいでね。一般の生徒達には秘密裏に、ボク達風紀委員で対処してくれないかと依頼があったんだ」


 そしてこれは、教師達の依頼でもあるらしい。

 つまり俺達二十人を超える風紀委員で、不純異性交遊をしているという生徒を探し出せという事である。


「そこでまずは校内の見回り人数の大幅増加……と、いきたい所なんだけど事態はそんなに甘くなさそうなんだよねぇ」

「と、言うと?」


 やれやれと、十七夜月先輩は大きな溜息をつく。

 その大げさな仕草に、俺は思わず聞き返してしまった。


「それが今回の一件は、学校近辺にいる住民からの苦情で発覚したらしいんだよ」


 でも、返ってきたその内容は――。


「朝っぱらから歩道橋の上で、人目もはばからず抱き合う生徒がいる……ってね?」


 ――身に覚えしか無い、明らかに俺と咲蓮の事だった。

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