第101話 「狼姫と、美少女グランドクロス」
「塗り、合いっこ……!?」
「少年漫画みたいな反応をありがとう。総一郎くんっ!」
聞き慣れない日本語に俺が戸惑うと朝日ヶ丘先輩はパァッと表情を明るくさせる。
いったい何が彼女の原動力になっているかはまるで分からない。
だけど素直に朝日ヶ丘先輩の提案に乗っかるのも、何かマズい気がしたんだ。
「た、確かに日焼け止めは重要なのかもしれませんが……き、着替える前とかに濡れなかったんですか!?」
「ちっちっち、甘いよ総一郎くん。私と莉子ちゃんの夜の営みぐらい甘いねっ!」
「反応しにくい例えやめてもらえませんっ!?」
ドヤ顔で何を言ってるんだこの人は……。
ついさっき、斑鳩宮さんの想いを聞いたばかりなのに気まずい事この上ない。
いや斑鳩宮さんがいなくてもそんな猥談一歩スレスレなトークは気まずいのだが!
「日焼け止めはね、野外露出だから良いんだよ……!」
「なんか俺の知ってる『お外』と違う事言ってませんか!?」
「まあそれはそれとして、塗る前に咲蓮ちゃんが総一郎くんに会いに飛び出していっちゃったってのもあるんだけどね」
「欲望の後に正論ぶつけてくるのズルくないですか?」
完全にペースを朝日ヶ丘先輩に握られてしまっている。
朝日ヶ丘先輩の企みはともかくとして、確かに咲蓮の綺麗な肌が日焼けで痛んでしまうのは大問題だ。
だけど、塗り合いっこは流石に……。
「――揺れたね? 誠ちゃん!」
「こんな事もあろうかと、ビーチマットをご用意しました」
「あっはっは! 柳クンは夢中になると周りが見えなくなるからねぇ」
「うん。莉子先輩、そこが総一郎のいいところ」
「何してるんですか!? いや、咲蓮まで何してたんだ!?」
朝日ヶ丘先輩がパチンと指を鳴らす。
そんな欲望と破天荒という言葉が似合う彼女に視線と意識を奪われていた俺の横で、咲蓮と十七夜月先輩と斑鳩宮さんの三人がパラソルの下にビニールのマットを敷いていた。
咲蓮と十七夜月先輩はともかくとして、斑鳩宮さんはどんな事を想定してこれを用意していたのだろうか?
ていうか折り畳めるにしても、こんなに大きなマットを何処に隠してたんだ?
「見て総一郎。ひんやり、つるつる、気持ち良い」
「お、おぉ……」
ほんの少し口角を上げたドヤ顔で。
咲蓮は青と白のマットにうつ伏せで寝ころび、その肌触りを全身で楽しんでいる。
水着とは言えほとんど下着と露出度が変わらない格好で目の前に寝転がられるのは、目のやり場にとても困った。
「じゃあ、決まりだねっ!」
「はい?」
「初めてな柳クンの為に、ボクと未来が塗り方の手ほどきをしようじゃないか」
「はいっ!?」
気づけば俺は、二人の先輩に囲まれていた。
片や最初からいた、胸元猫穴フリルな水着の朝日ヶ丘先輩。
片や一仕事終えた、胸元が左右開いている際どいレオタード水着の十七夜月先輩。
「総一郎が塗ってくれる。わくわく」
「わくわくでございますね」
そして、そんな俺の前でうつ伏せに寝転がる灰色ビキニの咲蓮と、その奥でしゃがみ込み頷いている執事服姿の斑鳩宮さん。
「さあさあ総一郎くんっ!」
「キミの手で、咲蓮クンの柔肌を守ろうか?」
「総一郎。いつでも、良いよ?」
「がんばれがんばれ、でございます」
大きなパラソルの下でも狭いと思えるぐらいに。
絶世の美少女四人に囲まれた俺は、完全に……四面楚歌だった。




