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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

リンゴ売りのお婆さん(たぶん絶対に義母)が、私に真っ赤なリンゴを売りつけに来たんですけど、これ、絶対に毒入ってますよね!?

作者: 大濠泉


◆1


 私、エルザ・ブランド公爵令息夫人は今、郊外の小さな森の中にある山荘にいる。

 ドンドンと戸を叩く音がしたので、ベッドから起き上がって玄関に出てみた。

 すると、腰の折れ曲がった皺くちゃのお婆さんがいた。

 赤いリンゴがいっぱい詰まった、大きな籠をかかえている。

 お婆さんは、ニンマリと笑う。


「美味しい、美味しい、熟れたリンゴだよ。

 買わないかえ? お嬢さん」


 どうやら、リンゴ売りのお婆さんが、私が療養している山荘にまで訪問販売に来たらしい。

 でも、このお婆さん、金髪に褐色の瞳で、古めかしい黒服をまとっているけどーー明らかに……。


(お義母様ですよね!?

 これまで私を散々、イビリ倒してこられた。

 それが、いったいどうして??)


 お義母様ーードミア公爵夫人は、皺一つ発見しただけでも大騒ぎする性格をしている。

 そんなお義母様が、醜い老婆の行商人に変装してまで、腰も曲げて、(しゃが)れ声で、リンゴを売りつけに来るだなんて。


(これは、なにか良からぬことを企んでるに違いないわ……)


 (いぶか)る私を相手に、彼女は長々と口上を述べ続ける。


「ほら、ごらん。栄養たっぷりな、真っ赤でみずみずしい、このリンゴたちを。

 このリンゴを食べたら、お嬢さんのバラ色の頬もさらに明るくなって、真っ赤な唇にも潤いが出ること間違いなしだよ。

 美しいお肌にも、磨きがかかるよ」


 お義母様がわざとらしい笑顔を寄せてくるので、思わずツッコミを入れたくなる。


(リンゴを食べただけで、どんだけ効用があるのよ!?

 いくらなんでも、盛りすぎですよね?)


 でも、こらえた。

 それを見て、お義母様は、勝手に私が(ひる)んだと解釈したようだ。

 行商のお婆さんに扮したお義母様は、さらに顔を寄せて息を吐きかけ、


「きれいなお嬢さんだから、このリンゴ、全部あげるよ」


 とまで言う。

 リンゴが詰まった籠を、私の身体にグイッと押し付けてくる。


「申し訳ありませんが、結構です」


 私は両手を伸ばして、籠ごと押し除ける。

 でも、お婆さんは諦めない。


「あらあら。あなたのようなお嬢さんには、ますます美しくなってもらいたいの」


 お婆さんに扮したお義母様は、優しいことを言ってくれる。

 夫であるホール公爵令息のもとに嫁いで以来、一度も聞いたことがないセリフだ。


「たしかに、美味しそうなリンゴなんだけど……」


 つい、話を合わせてしまった。

 すると、お義母様は、褐色の瞳を爛々と輝かせる。


「食べたくなってきたでしょう?

 (かじ)ってごらん。

 お嬢さんが気に入ったのなら、お代は要らないよ」


 あまりの迫力に押し切られて、うっかり籠を手に取ってしまう。

 すると、お義母様は、お代を取ることもせず、クルリと背を向け、籠ごと置いて立ち去ってしまった。

 最後まで、老婆に変装しているのが、私にバレてない、と思っていたようだったーー。


◇◇◇


 私、エルザ・マインツは、貧乏伯爵家の一人娘だった。

 お父様は私が幼い頃に亡くなり、お母様が代理主人としてマインツ伯爵家を切り盛りしていた。

 でも、そのお母様も病気で亡くなり、今後、どうしたら良いのか、私は途方に暮れた。

 このとき、私は十八歳。

 成人に達してはいるものの、突然、お母様が亡くなったので、家督相続に関する明確な遺言がなく、かつまた私が女性だったため、マインツ伯爵家の当主にすんなり収まりそうもなかった。

 生活のため、このままマインツ伯爵家の寄親であるブランド公爵家に、侍女として雇ってもらうしかない、と思い悩んでいた。


 すると、いきなり、そのブランド公爵家の令息であるホール様から求婚された。

 ホール・ブランド公爵令息は、舞踏会でダンスを踊ったあと、私の前で片膝をつく。

 そして私の手を取り、指輪を差し出した。


「貴女のダンスは、じつに美しい。

 長い金髪を風になびかせて舞い踊り、白い雪のような肌が輝く。

 赤い唇は情熱を表し、蒼い瞳は冷たい静謐を湛えた湖のよう。

 ぜひ私の手を取って、生涯、一緒に踊らせてください」


 ホール公爵令息は、金髪を掻き分け、かなり恥ずかしいセリフを吐く。

 でも、そうした彼のちょっと気取った仕草にも、私は慣れっこだった。

 寄親貴族の令息である彼とは、幼い頃からの顔見知りだ。


 彼のお父様で、現在の当主であるブランド公爵閣下は、現役の政務官僚だ。

 ここしばらくは引退しないだろう。

 だから、私がホール公爵令息と結婚しても、彼はしばらく家督が継げないので、私も公爵夫人にはなれない。

 公爵令息夫人ということになる。


 でも、「若奥様」として、ブランド公爵家の方々は、私を快く迎え入れてくれた。

 ブランド公爵家の奥様にして、お義母様であるドミア・ブランド公爵夫人も、私の結婚を喜んでくれた。


「私がいろいろお料理を教えてあげるわ。

 特に、我がブランド公爵家伝統のアップルパイ。

 今後はあなたが作るのよ」


 ブランド公爵家の奥様は、高位貴族であるにもかかわらず、代々、自ら厨房に立ち、料理人に指示するだけでなく、ときには自ら包丁を握って調理するという。


 たしかに、アップルパイを作るお義母様の手際は、素人離れしていた。


 まず、小麦粉と卵などを捏ねて、パイ生地を作る。

 その生地を寝かせてから、皮を剥いたリンゴを小さく切って、鍋に入れる。

 さらに鍋の中に、砂糖や蜂蜜といった甘味をたっぷり入れて煮込んでいく。

 そして、水分が出てきたら、レモンの汁と、果実酒を入れるーー。


 ドミアお義母様は、得意げに解説した。


「このままリンゴが柔らかくなるまで煮込むのよ。

 この香り高い、強いお酒が、我が家の秘伝なの。

 たくさんの果物を漬けて、数年かけて作っているもので、ブランド公爵家伝統の味を演出するの。

 来客の皆様に、とっても好評なんですよ。

 あなたも作り方を覚えて、お客様を手ずからもてなしなさい」


 お義母様の言葉を聞き、私は奮起した。

「これならやれる!」と正直、思ったから。


 私は貧乏伯爵家の出自だったので、料理人と一緒に厨房に立つことも多かった。

 だから、料理は得意だったのだ(ちなみに、ダンスが得意なのも、侍女と共に下働きをして体力がついていたうえに、お金をかけずに磨ける淑女の作法がダンスぐらいしかなかったからだ)。


 お義母様が見せてくれた調理法をきっちり記憶して、さらに、サクサクの食感が出るように、砕いたお菓子をパイの底に詰めるなどして、工夫した。


 その結果、焼き上がった私のアップルパイを口にした夫ホールと、ブランドお義父様は、「美味しい!」と喜んでくれた。


「お母様のパイよりも美味しい」


「うむ。いつものより艶がある」


 私は笑顔で説明する。


「アプリコットのジャムを艶出しに使ったの」


 お義父様は厳つい顔でうなずき、夫は手を叩いた。


「なるほど。より味に深みが出ているな」


「美味しいよ、ほんとうに。

 君はダンスだけじゃなく、お料理も上手なんだね!」


 喜んでもらって、嬉しい。

 他の方々ーー執事や侍女たちにもパイを振る舞い、みなが笑顔になった。

 ただ一人を除いて。



 私が独自にアップルパイを焼いた翌日ーー。

 一夜にして、それまでの居心地の良い状況は一転し、ブランド公爵邸は、私、エルザにとって過酷な空間となってしまった。


 まず、私が料理を作ろうとしても、お義母様がやらせてくれなくなった。


「一年間は、見て覚えなさい」


 と言われるだけになった。

 それだけではない。

 まずい料理を作っては、私、エルザが作ったと、お義母様はみなに嘘をついた。


 おかげで、夫のホールは肩をすくめて、


「初めのうちは仕方ないよ。お母様のようにはいかない」


 などと言う。

 さすがに、私はちょっと腹が立った。

 でも、公爵邸に仕える侍女たちが、揃ってお義母様にお追唱するので、暴露したところで、お義父様や夫に信じてもらえないだろう。

 だから、私は、自作の料理を、夫やお義父様に、じかに食べてもらえる機会を窺った。


 一週間ほどして、密かにポトフを煮込んでおいたものを食卓に上らせることに成功した。

 案の定、夫のホールと、お義父様のブランド公爵には大好評だった。

 私も一口、食べてみて、味を確認する。


(うん、やっぱり。

 お義母様の味付けは、塩分がキツすぎるのよね!)


 私は料理が得意だ。

 私自身、これ以上、まずい料理を食べたくないし、血圧が上がって健康を害したくはない。

 侍女たちにも(まかな)いを振る舞ったら、好評だった。


 こうして、少しずつ、高評価を積み上げていけば、いずれはーーと、思っていた。


 が、甘かった。


 その夜、お義母様の部屋に呼びつけられ、鉄の燭台を投げつけられた。

 お義母様ーードミア公爵夫人は、小太りの身体全身を震わせて叫んだ。


「得意になってるんじゃないわよ、貧乏伯爵家の小娘が!

 高位貴族家の嫁は、料理を作っても一切、自分で口にしてはいけないのよ!」


 さすがに、私はむくれた。


「それでは、私が食卓を共にできません。

 私だって家族です。

 ブランド公爵家の一員でーー」


「嫁なんだから、食卓につかなくていいのよ!」


「でも、お義母様は、みなさまと一緒にお食事をーー」


「昨日今日来たような嫁じゃないからね、私は!」


「私の実家ではーー」


「ここは公爵家。貧乏伯爵家ではありません!」


 私は、できるだけ言い返してみた。

 だけど、そのことごとくを、お義母様は詭弁で勝手に乗り越えてしまう。

 ついに、夫のホールを口実にして、私は訴えた。


「食事を共にしようと、夫も言っていました。

 ですからーー」


 でも、奥様にキッパリ言われてしまった。


「あの子が生まれるまで、私が食卓を共にすることはありませんでした。

 あなたも後継の息子が生まれるまで、食卓についてはいけません!」


 さすがに、それはないでしょ? と悔しく思って、深夜、夫に尋ねると、


「そんなことはないよ。

 父上の話じゃ、若い頃、よく母上と一緒に食事したと、惚気話をしておられたよ」


 と事もなげに言う。


「だったら、お義母様になんとか言ってください」


 と私はせっついた。

 が、夫は肩をすくめるばかりだった。


「どう言えって?

 それは女同士の話だろ。男は割り込めないよ」


 私は深い溜息をついた。


(そういった次元の話じゃなくなってるんだけど……)



 案の定、陰での、細かい嫌がらせが、激しくなってきた。


 私の部屋に何者かが勝手に入り込んで、調度品を傷つけたり壊したりする。

 実家から持ってきた宝飾品は幾つもなくなり、香水の瓶が割れることも頻繁に起った。

 親からもらったドレスも、ズタズタになったりした。


 こうした「奥様」の行為を承知していながらも、執事も侍女も無視するから、止まるところを知らない。

 しかも、私の服が破かれたり、大切な装飾品が壊されるたびに、お義母様はペットの黒猫レミちゃんのせいにする。


「まあまあ、レミちゃんったら。

 あなたは猫ちゃんに嫌われてるのかしら?

 もしかして、猫ちゃんをいじめてるの?

 ああ、あなたの方が、猫ちゃんを嫌ってるのね。

 好きにならなきゃだめよ」


 さらに悪いことに、夫のホールは、お義母様が言うことをすぐに真に受けてしまう。


「あの黒猫は溺愛しているお母様に似て、気まぐれなんだ。

 そのうち、君にも心を開くよ」と。


 そうした夫の「慰めてるつもりになってる言葉」を聞くたびに、私はガックリする。


(貴方の目は節穴なの?

 なんでもかんでも猫のせいにしてるってことぐらい、わかってよ……)


 とかく、この屋敷にいる男どもは、観察眼が足りない。

 息子だけじゃなく、お父様の方も、ガッシリとした体格をしているけど、強いのは腕力だけで、碧色の瞳に眼力はなかった。


 たとえば、私が用意した、お義父様への誕生日プレゼントがなくなったことがあった。

 仕事熱心なお義父様が喜びそうなものーーと考えて、実家が贔屓にしていた職人に造らせたペーパーウェイトーー書類を押さえる文鎮を、箱に詰めてリボンを結んで用意した。

 それが紛失したのだ。


「嫁からの初めての贈り物ーー少し期待していたのだがな……」


 ブランド公爵は、わざとらしく、ソファの上で、大きな身体を丸める。

 その隣で、小太りの「奥様」が背中を撫でて慰める。


「気が利かない嫁なのよ。仕方ないわ」


 お義母様の口の端が(ほころ)んでいるのが、丸わかりだった。


 結局、お義母様の部屋から出たゴミの中に、その文鎮が捨ててあったことが判明した。

 翌日、私が自分の部屋のゴミを捨てに焼却炉に出向いたとき、見つけてしまった。

 お義父様にあげるはずだった文鎮を。

 鉄製ゆえに燃えずに残っていたのだ。

 ふと、その文鎮の周囲のゴミを見れば、ロウソクの燃え滓の芯が散在していた。

 私は、以前、お義母様の部屋で、私に投げつけてきた燭台を思い出した。

 その燭台に挿す専用の、細長いロウソクの芯だった。

 そのような特殊なものと一緒に捨てられていたのだから、文鎮は、お義母様の部屋でゴミとして捨てられたのだ、とわかった。


 私はお義母様の部屋に出向いた。

 そして、無言のうちに、黒く(すす)けた文鎮を差し出す。

 お義母様はそれを目にすると、扇子を広げて口許を隠した。


「……あら、旦那様へのプレゼントが見つかったの?

 それにしても、ゴミを漁るなんて。

 さすがは貧乏伯爵家の娘ねえ。

 でも、残念。

 旦那様のお誕生日は、もう昨日になってしまいましたわ」


 扇子の向こう側では、白い歯を剥き出しにしているのだろう。

 くだらない嫌がらせで得意になるほど、性根が腐っているらしい。


「ほんと、お義母様は姑息なヒトですね」


 思わず口を突いて出た言葉に、お義母様は過剰に反応した。

 顔を真っ赤にして、私向けて扇子を突き立てる。


「うるさいわね!

 あんな文鎮なんか、公爵家にふさわしくない。

 貧しいあなたの価値基準で考えないで!」


 そして、またもや燭台をぶんなげられた。

 今度は額にぶつかり、傷がついて、血が滲み出てしまった。


 じつは明後日には、王宮で舞踏会が催されることになっていた。

 夫ホールと私、エルザも当然、招待されている。

 お義母様は、それを承知で、私の顔を傷つけようとしたに違いない。

 私はうつむき、唇を噛んだ。


(お義母様は、自分のテリトリーを私に侵されると思って、辛く当たってるのだわ。

 今しばらくは、我慢、我慢……)


 私は、あくまで、このブランド公爵邸で、自力で居場所を確保する心積りだった。

 このときまではーー。



 ところが翌日、許し難い事件が起きてしまった。


 いきなり、お義母様が侍女を伴って、部屋に顔を出してきた。

 そして、小太りの身体を縮こませて言った。


「ごめんなさい。私、あなたに謝りにきたの。

 ちょっとお付き合いくださらない?」


 何について謝るつもりなのか。

 さっぱり、わからなかったが、とりあえずお義母様の先導に従った。

 その結果、お屋敷の地下、暖炉のあるお部屋に辿り着いた。


 火を()べた暖炉には、何本も鉄製のコテが並べられていた。

 暗い部屋の中で、お義母様が怪しく笑う顔が、暖炉の炎で明るく照らされる。


「コテで、あなたの美しい金髪を縦ロールにしてあげる。

 あなたの髪の量は多くて、胸にまでかかるほどだから、ちょうど良いと思うの。

 私も若い時はよくやってたものよ」


 さすがに、私は警戒する。


「額が出てしまう髪型はやめてください。

 お義母様の恥をみなさまに晒すことになりますよ」


 私の額には、先日、お義母様によって付けられた傷跡がある。

 お義母様は、まったく悪びれる様子もなく、ニタリと笑う。


「もちろんですよ。

 素晴らしい髪型にして、みなさまを驚かせてみたいのですわ。

 長い縦ロールの髪型なら、ダンスのときに一段と映えると思いますの」


 お付きの侍女が椅子を用意する。

 ここで逃げたところで、悪く言われるに違いない。

 観念して椅子に座り、私はお義母様に髪を預けた。

 実際、私の髪は長くなっており、毛先を巻きたいと思ってはいた。

 でも、縦ロールなどの凝った髪型にする方法がよくわからなかったから、どのように手入れするのか少し興味があったのだ。


 実際、お義母様の手際は良かった。

 まず最初に、私の金髪を左右に分けて、ツインテールにまとめる。

 それから、細かく髪の毛を分け取りながら巻いていって、カールをつけていく。


「こうして小分けの縦ロールを幾つか作ったあと、ブラシで()かして一つにまとめればーー」


 お義母様は、暖炉に()べた、鉄製のコテを手に取る。

 柄の部分には粗布が巻いてあり、素手で握っても大丈夫なようだが、先端が平たくなった鉄棒の部分はジュウウと音を立てて、赤黒くなっている。

 これを金髪に当てるのだけど、どうやら焼きゴテの火力が強すぎるようで、髪の毛が焦げる臭いがする。


「お義母様。火力が強くて、焦げる匂いがしてますよ」


「あら、大変!」


 私からの指摘を受けて動揺したように、お義母様は上体を揺らす。

 そして焼きゴテを動かして、私、エルザの頬にぶつけてきた。

 今度は、皮膚が焼ける匂いがした。


「きゃあああああ!」


 私は横っ飛びに、椅子から落ちて、倒れ込む。

 手で頬を抑えようとしても、今度は手のひらが焼けるように熱く感じて、手で頬に触れることもできない。


 この部屋には鏡がない。

 が、鏡を見なくとも、想像がつく。

 右側の額から頬にかけて、ひどい火傷になったことを。


 石畳の上で、熱さに焼かれて、のたうち回る私を、お義母様は平然と見下す。


「あら、ごめんなさい」


 見上げてみれば、暖炉の炎で、お義母様のニヤケ顔が、赤く照らし出されていた。

 すぐ後ろで侍女が血の気を失っているが、お義母様は気にかける様子もない。

 しゃがんで座り込み、私に顔を寄せると、懐から小さな白い壺を差し出した。


「美しいお顔に、火傷の跡が残ってしまったら大変だわ。

 このままじゃ、私、息子に怒られてしまう。

 だから、このクリームをおつけなさいな。

 火傷にはこれが効くのよ」


 随分と用意がいい。

 まるで、あらかじめ私が大火傷を負うことが、わかっていたかのように。


 自室に帰って、手渡されたクリームを使ってみたら、案の定、翌朝には皮が剥けて、肌が真っ赤に腫れていた。

 痛みが退くこともなく、赤黒く変色した火傷の跡が、さらに広がってしまっていた。


 私は鏡で、自分の(ただ)れた頬を目にして、勝ち誇るお義母様の顔を想像した。


「あら、お可哀想。

 これでは明日の舞踏会には出られないわねえ」


 と扇子を広げてほくそ笑む、お義母様の顔が、私の脳裏に、ありありと浮かんだ。


(私に親兄弟がいないからって、図に乗って。許せない!)


 私、エルザは、拳をギュッと握り締めた。


◆2


 ドミア公爵夫人は、息子の嫁エルザの髪型をセットしてあげるといって、焼きゴテで盛大に火傷を負わせた。

 それはひとえに、王宮で開催される舞踏会に、嫁のエルザが出られなくさせるための作戦であった。


 嫁のエルザはダンスが上手との評判で、舞踏会で目立つ。

 それを良いことに、舞踏会で、義母である自分のことを悪く言われないためであった。

 ここらへんでガツンと懲らしめてやれば、従順になるだろうと見越してのことだ。

 


 先手必勝とばかりに、舞踏会で、ドミア公爵夫人は、取り巻き貴族夫人らを相手に、嫁の悪口を吹聴しまくっていた。


「ほんと、嫁の世話が大変で、嫌になっちゃう。

 とにかく手がかかるの。

 私、娘がおりませんでしょ?

 ですから、お嫁さんが来るのを楽しみにしておりましたけど、ほんと大変。

『お義母様のアップルパイを食べたい』

 と言って、何もしない。

『お茶飲みたいの』

 と言って、私に料理させる。

 髪の毛の手入れまで、私にさせるのよ」


 取り巻きたちは扇子で口許を隠しながら、同調する。

 相手は高位貴族の公爵夫人。

 お追唱しておけば、無難にこの場をこなせると、誰もが思っていた。


「まあ。それは酷いわね」


「まったく、最近の若い娘は」


「ダンスばかりが上手でも、そんなのじゃあ、息子さんがお可哀想ね」


 会場にいる貴婦人方の大半が、耳を澄ませば、聴こえるぐらいの音量で喋る。

 ドミア公爵夫人も、ここまでは上機嫌だった。


 ところが、舞踏会が開かれてから半ばが過ぎた頃ーー。


 話題にしていた嫁ーーエルザが、案に反して、舞踏会場に姿を現したのである!


 エルザ夫人は、爽やかな青いドレスをまとい、白い肌の美しさが際立っている。

 それゆえに、金髪の生え際から頬にかけて、赤黒い大きな痣が、目についた。

 可愛い顔立ちなので、余計に傷口が目立つ。

 それなのに、包帯を巻くこともなく、火傷跡を晒したまま、堂々と出てきたのだ。


 それまで楽団の曲に合わせてダンスを踊っていたグループの足が止まった。

 ざわざわ、と喧騒が広がっていく。


 ここ、バレンス王国の王宮で開かれるパーティーの主催者は王様だ。

 現に、舞踏会場には、国王夫妻が玉座に腰掛け臨んでいる。

 王様が白い顎髭を震わせ、びっくりして腰を浮かせた。


「エルザ公爵令息夫人。

 その顔はいかがなされた?

 貴女は体調が優れず、今宵は欠席すると伺っていたが」


 エルザは背筋を伸ばしてから、ドレスの裾を少し上げてお辞儀する。


「いえ。体調に問題はありません」


 会場を見渡せば、お義母様とお義父様ーーブランド公爵夫妻が身を固くしている。

 夫のホール公爵令息は、ちょうどダンスを終えたところだった。

 お相手したのは、お義母様お気に入りのタップ・ダーク子爵令嬢だ。

 赤い髪をして、青い目がクルクルとしている、お義母様の姪っ子である。


 ホール公爵令息が、妻であるエルザのもとに、慌てて駆け寄ってくる。


「君が来るとは思わなかった。

 体調が優れないってお母様がおっしゃるから、彼女ーータップ嬢と踊ったんだ。

 それにしても、どうしたんだい、その傷は!?」


 エルザは赤く爛れた頬を引き攣らせながら、問い返す。


「貴方は私の旦那様でしょう?

 いくら私の体調が優れないからといって、他のご婦人と手を取り合って踊るのは、不謹慎じゃございません?

 それに、お義母様がおっしゃったからって真に受けて、妻である私自身に直接、体調を確かめないのも、いかがなものかと」


「そ、それはそうだけど、お母様が……」


 と、ホールはしどろもどろとなる。

 そこに、


「では、旦那様のお許しを得た、ということで、僕と踊りませんか」


 と声がかかる。

 第二王子ロム・バレンスが、銀色の髪をなびかせて、割って入ってきたのだ。

 私よりも三歳年下ながら長身で、騎士団に所属していただけあって、鍛えた筋肉質の身体を誇る。

 そんな青年王子が片膝立ちになって、私、エルザに手を差し伸べた。


「今宵は特別です。

 僕にお相手をさせてください。

 常々、貴女と踊ってみたいと思っておりました」


 私はうなずき、ロム王子の手を取る。

 そして、舞踏会場の中央で、夫以外の若い男性のエスコートを受けながら、得意のダンスを披露した。

 本来なら、悪い噂が立ちかねないシチュエーションだ。

 とはいえ、顔に大きな火傷跡を残したまま、サアッと金髪をなびかせて上手に踊ったので、批判がましい視線に晒されることはなかった。

 お相手の王子様が、夫のホールよりもダンスがうまかったので、余計に見惚れてくれたのだろう。

 踊りを終えると、割れんばかりの拍手が会場を包んだ。


 拍手が鳴り止まぬ中、再び夫が近寄ってくる。


「その傷は、どうしてーー!?」


 私、エルザは、ここぞとばかりに、大きな声で答えた。


「お義母様が、私を傷付けたのです。

 焼きゴテを押し付けてね。

 それなのに、勝手に『体調不良』ということにされてしまったようですわね」


 ざわざわーー。


 再び、ざわめきが起こる。

 貴族紳士や淑女たちは、口々にささやき合った。


「焼きゴテって……」


「いじめるにしても、限度ってものがあるだろう?」


「酷い……」


 みなが、お義母様のドミア公爵夫人に対して、白い目を向ける。

 それまでいた彼女の取り巻きも、いっせいに距離を取り始める。


 ロム第二王子が、玉座にある母親の王妃様に、顔を向ける。

 王妃様は眉間に皺を寄せながら、うなずく。

 エルザの火傷が酷く、とても直視できないほどだ。

 こんな傷を負わせる者がいるだなんて、と強い嫌悪感をもったのである。

 王妃様は凛とした声をあげた。


「事情がおありのようですわね。

 とりあえず、エルザ夫人を王宮で預かります。

 よろしいですね、ブランド公爵」


「はい」


 お義父様のブランド公爵は、慌てて頭を下げる。

 その隣で、お義母様ーードミア公爵夫人は大きく口を歪ませていた。



 王宮奥深くに、来賓用の療養室がある。

 そこへ私、エルザは運び込まれた。

 付き添ってくれたロム第二王子が、王宮お抱えの医師を呼んだ。

 急ぎ駆けつけた医師は、私、エルザの火傷跡を覗き込む。


「これは酷い……」


 眉を顰める医師に、私は進言した。


「私が火傷をした際、お義母様がこれを寄越しました」


 クリームの入った小さな壺を、懐から取り出す。


「これはーー!」


 お抱え医師は、クリームを指につけ、匂いを嗅いでから、ロム王子に顔を向ける。


「かなり特殊な薬ーーというか毒薬です。

 塗ったら、さらに皮膚が(ただ)れるかぶれ薬ですよ」


 ドミア公爵夫人の実家ダーク子爵家は、元は王宮に仕える薬師の家系だった。

 薬や毒については、豊富な知識がある。

 そうした事情を鑑みて、医師は厳かに言い渡した。


「エルザ様。しばらくの間、山荘で静養なされることをお勧めいたします」



 その頃、ブランド公爵邸ではーー。


 玄関先で、公爵は妻に向かって、怒鳴り声をあげていた。


「どういうわけだ。おまえは嫁を虐待していたのか!?」


「嘘よ。あの嫁が嘘をついてるの。信じて!」


 ドミア公爵夫人は、廊下を歩きながら言い訳する。

 そんな妻に対して、ブランド公爵は、執務室に向かいながら断言した。


「おまえこそ、嘘をつくな!

 あの火傷は、自分でつけられる傷ではない。

 あの痣の場所に自分の手で届くはずがないし、第一、想像を絶する痛みがあったはず。

 自分で演出するためだけに出来るような痛さではない!」


 屈強な体躯をもつブランド公爵は、若い頃には騎士として戦場に赴いたときもあった。

 その折に、様々な戦傷者の姿を垣間見ていたし、自身も傷を負ったことがある。

 経験から判断した発言だった。


 仕方なく、執務室に着いた頃には、ドミア夫人もうつむいて、つぶやいていた。


「ーーごめんなさい。ちょっと手が滑って……」


 執務室に入るや、ブランド公爵はドカッとソファに身を沈めて、気を落ち着かせる。

 それでも、妻を詰問する姿勢は変えない。


「おまえがついていながら、なんだ。

 王宮に(かくま)われたんだぞ。

 我がブランド公爵家の、とんだ恥晒しだ。

 離縁になったら、ますます悪い評判になる。

 今後、ホールの嫁に来る者など、おらぬようになるやもしれぬ。

 跡継ぎもまだ生まれておらんのに!」


 息子のホール公爵令息も執務室に駆け込んできて、母親を非難する。


「お母様は味方だと思ってたのに!

 僕とエルザの結婚に賛成してくれたじゃないか。

 どうして嫌がらせなんか……」


 ドミア公爵夫人は、息子に向かって涙目になる。


「信じて。レミちゃんがいろいろとオイタをしたけどーー」


 ふん、と息子は鼻息荒く言い募る。


「レミって、あの黒猫だろ?

 だったら、その猫を処分してやる。

 前々から(しつけ)がなってないと思ってたんだ」


 このままでは無実の猫が殺されてしまう。

 そのとき、執務室の扉の方から声が飛んできた。


「猫のせいではございません!」


 二人の侍女が並んで立ち、


「若奥様への嫌がらせは、すべて奥様のなさったこと。

 それを猫のせいにしていただけです」


 と、事実を暴露したのだ。


 さらに、ブランド公爵様(旦那様)への誕生日プレゼントとしてエルザが用意していた文鎮を、ドミアがゴミとして捨てたことも告げ口した。


 息子は呆気に取られ、ブランド公爵は顔に手を当てる。


「信じられない。お母様、どうして、そんなことをーー」


「なんてことをしてくれたんだ。

 エルザが寄子の伯爵家の娘だからと、軽く見ておったのか?

 これ以上、寄親貴族としての評判を落とせば、家名に関わる。

 もう他には悪事を仕掛けてはおらぬだろうな!?」


「何もしてないわ! 酷いわ。二人して」


 わっ! と泣き出して、ドミア公爵夫人は執務室から飛び出し、自室に駆け込んだ。

 いつもなら、しばらくすると、息子が謝りに来てくれる。

 今日も、そのようになることを、母親は期待した。

 ところが、今夜は、息子も夫も、来室する様子がない。


 ベッドに潜り込みながら、ドミアは親指を噛んだ。


(まさか、あれほどの火傷を負いながら、ヌケヌケと舞踏会に出てくるとは。

 ほんと、つくづく生意気な嫁だ。

 私に恥をかかせて。許せない。

 きっと、今頃、私を嘲笑ってるんだわ……)


 これ以上、追い込まれてはかなわないーーそう思ったとき、ドミア公爵夫人は、ふと思い出した。ハッと息を呑み、顔に手を当てる。


(クリームーーあの特別な、かぶれ薬を、あの娘に渡していたんだった。

 まずいーーあれを医師にでも見せていたら、私の立場が……)


 ドミアはベッドから起き上がると、鈴を鳴らして下女を呼びつける。


「あなたの母方の実家、行商人だったわね?

 ちょうどいいわ。

 明日の夜までに、行商する際の、古ぼけた衣服と籠を持ってきなさい!

 そうね。明朝、早くに、私も実家の方に出かけるから手配しなさい。

 もう、やるしかないのよ!」


 なんだかわからないが、奥様からの鬼気迫る勢いに押されて、下女は部屋を退室した。

 そして、夜だというのに、公爵邸から飛び出して行った。


◇◇◇


 王宮舞踏会で、エルザへのいじめが暴露されてから三日後ーー。


 ドミア公爵夫人は、密かに馬車を走らせ、森に潜伏していた。

 行商人のお婆さんに扮装して。


(あの嫁は今、この森の中の山荘にいるに違いないわ……)


 ドミアは、王宮に保護されたエルザが、今は山荘送りになっている、と見越していた。

 彼女の実家ダーク子爵家が王宮仕えの薬師の家柄だったから、王家の療養所の位置を把握している。


 山荘へ向かう途上、池の水面で自らの姿を写して確認した。


(よし。変装は完璧よ)


 ドミア・ブランド公爵夫人は、若い頃から美貌を謳われていた。

 噂好きなペック伯爵夫人もドール男爵夫人も、ドミアのことを「美魔女」と呼んでいるほどだ、とドミア本人は自負している。

 そんなドミアが、今はあえて皺をつけまくって、老婆に扮した。

 足腰も強くてピンシャンしてるのに、あえて腰を曲げた。

 生まれながらの貴婦人なのに、長らく農作業をしてきた老女のような姿勢を取った。

 普段のように扇子も持たず、煌びやかなドレスもかなぐり捨て、真っ黒で、粗末な粗布で出来た衣服をまとった。


(うん。まるで別人。バレるわけない……)


 赤いリンゴがいっぱい詰まった、大きな籠を小脇にかかえ、山荘に辿り着くと、ドンドンと戸を叩く。


 しばらくして、あの生意気な嫁ーーエルザが、戸を開けて顔を出してきた。


(ふん。相変わらずとぼけた顔をしているわね)


 でも、さすがは王宮で手当てを受けただけはある。

 かなり火傷の痕が改善している。

 これで白粉をたっぷり塗ったら、赤黒く(ただ)れた部分は誤魔化せるかも。


 とはいえ、すっかり火傷が癒えたとしても、当然、若い頃の私の方がよほど美人だわ、とドミアは思っていた。


(息子のホールが言っていた。

 この嫁を可愛いって。

 でもね、「可愛い」なんていう評判は、美貌を謳われなかった女が受ける、次善の評価にすぎないのよ。

 そう思うと、この娘も可哀想よね……)


 自分が優越するのを確認できたら、心にゆとりができたらしい。

 愚かな嫁を警戒させぬよう、ニンマリと笑うこともできる。

 できるだけ(しゃが)れ声を出した。


「美味しい、美味しい、熟れたリンゴだよ。

 買わないかえ? お嬢さん」


 誰がどう見ても、今の自分は、リンゴ売りのお婆さんにしか見えない、とドミアは信じていた。

 無学で(いや)しい老婆が、山荘にまで訪問販売に来た。

 そうにしか見えまい、と。


(ふふふ。

 こっちをジロジロ見てるけど、見知らぬ老婆なので、不審に思っているのだわ)


 そして、リンゴが詰まった籠を、グイッと嫁に押し付ける。


「ほら、ごらん。栄養たっぷりな、真っ赤でみずみずしい、このリンゴたちを。

 このリンゴを食べたら、お嬢さんのバラ色の頬もさらに明るくなって、真っ赤な唇にも潤いが出ること間違いなしだよ。

 美しいお肌にも、磨きがかかるよ」


 無理にでも笑顔を作って、ドミアは嫁のエルザに身を寄せる。


(おや、この嫁、身を退いてる?

 見知らぬお婆さんが迫ってきたので、ビビってる?

 ふん。お嬢様ぶっちゃって。

 生意気な小娘が。

 もっと、ビビらせてやる!)


 さらにドミアは、エルザに向けて顔を寄せる。


「きれいなお嬢さんだから、このリンゴ、全部あげるよ」


 改めて、ドミアはエルザに、リンゴが詰まった籠を押し付ける。

 それでも、嫁はしぶとい。


「申し訳ありませんが、結構です」


 と言って、籠ごと押し除けようとする。


(あ。生意気な!)


 ドミアは諦めない。


「あらあら。あなたのようなお嬢さんには、ますます美しくなってもらいたいの」


 ドミアは心中で(あざけ)った。


(ほらほら。

 アンタのような生意気な女は、こうした歯の浮いた言葉を言ってもらったことないでしょ?

 でも、私は若い頃からずっと、こうした賞賛を受けてきたのよ。

 だから、わかる。

 同性からもらう褒め言葉の破壊力が!)


 案の定、頑なだった小娘が、


「たしかに美味しそうなリンゴなんだけど……」


 と、話を合わせてくる。


(よし、もう一押しだ!)


 ドミアは褐色の目を、爛々と輝かせる。


「食べたくなってきたでしょう?

 (かじ)ってごらん。

 お嬢さんが気に入ったのなら、お代は要らないよ」


 そう言ってから、ドミアは身を(ひるがえ)し、籠ごと置いて立ち去った。

 立ち去り際、ドミアが振り向くと、エルザはジッと視線をドミアの方に向けている。

 ドミアは背中を丸めながら、肩を揺らせた。


(いいから、籠の中のリンゴを見てなさい。

 そうしたら、思わず食べたくなるでしょうよ。

 浅ましい、あなたならね。

 ヒッヒヒヒ……)


◆3


 エルザが籠る山荘に、老婆に扮して訪問した翌朝ーー。


 ドミア公爵夫人は、鼻唄を口ずさむほど上機嫌になっていた。


 赤いリンゴは、すでに嫁のエルザに手渡した。

 あの生意気な嫁は、リンゴを物欲しそうに見ていたから、大丈夫。

 絶対に食いつくはず。


 あのリンゴには猛毒を仕込んでおいた。

 だから、あの生意気な嫁はもうすぐ死ぬことになるだろう。

 そうしたらすぐに、別の娘を息子ホールのお嫁さんにしよう。

 結構な年齢になっても独り身だったら、息子が可哀想だから。


(ほんとにあの子、ホールは世話が焼ける。

 あの嫁を手に入れるのだって、お母さんがどれだけ裏で苦労したと思ってるの。

 まあ、でも、ホールがそんなこと、知らなくてもいいわ。

 あの子はブランド公爵家を継ぐのだから……)


 三大貴族の一角であるブランド公爵家は、私の実家のダーク子爵家とは違う。

 家督を継ぎさえすれば、このバレンス王国の政治の表舞台に立てるのだから。

 ブランド公爵は代々、政務官を務めてきて、祖父の代には宰相すら務めている。

 息子のホールの今後は、保証されているも同然だ。

 ついでに私の実家ダーク子爵家も、次の代あたりには爵位を上昇させて、政治の表舞台に立てる名家に押し上げてやる。

 ドミア公爵夫人は、意気盛んであった。


 やがて、馴染みの侍女が入室してくる。

 もちろん、猫を庇って、ドミアのいじめを暴露した、あの侍女たちとは別の娘である。


「奥様。ダーク子爵のご令嬢がお見えになりました」


「あら。思ったより早いわね」


 ドミアが身体を反転させると、赤い髪に、青い瞳の女の子が立っていた。


「伯母様。ご機嫌麗しゅう」


 タップ・ダーク子爵令嬢は、スカートの裾をちょんとあげる。

 ドミアの弟、ダーク子爵の娘だ。

 公爵夫人は、お気に入りの姪っ子に、明るい声をかけた。


「あなた、もう成人してるわね?」


「はい。今年で、もう十六になります」


「そう。でしたら、吉報よ。

 もうすぐ私はあなたの伯母様おばさまではなく、お義母様(かあさま)になれそうよ」


 ドミアは、あの憎いエルザが毒リンゴを食べて、今頃は死んでいると確信していた。

 となれば、彼女の後釜として、愛息ホールと結婚するのはタップ子爵令嬢が相応(ふさわ)しい、と考えていた。


 タップ嬢の方も、嬉しそうに手を合わせる。


「では、ほんとうなんですね?

 私がホール様のお嫁さんになれる、という話は」


 ドミアは扇子を広げて、声を潜める。


「ええ。でも、一足飛びには行かないわ。

 あの子も結婚したばかりなので、あなたを迎えるのには時間がかかります」


「ええ。存じております」


 この姪っ子は、幼い頃から息子ホールに懐いていた。

 本気で惚れていたのは、わかっていた。

 でも、息子があのエルザ嬢を気に入ったようだから、そちらとの縁談を進めた。

 姪のタップには、涙を呑んでもらった。

 でも、やはり過ちだった。

 息子の意向なんか無視して、この姪をあてがえばよかった。

 現に、前回の舞踏会では、タップ嬢に息子と踊ってもらった。

 結構、お似合いのカップルだったと思う。

 事前に、あの嫁の悪口を広めておいたからか、貴族夫人たちからは、さして息子を不実だと非難する言葉はささやかれなかった。

 でも、あの生意気な嫁が舞踏会場に登場して、状況が一変してしまった。

 まさか、あれほどの火傷を負ったのに、嫁のエルザが衆目の前に姿を現すだなんて、思わなかった。

 その結果、私までもが、周囲から白い目に晒されてしまうとは……。


 でも、私は諦めない。

 絶対に、息子の嫁を取り替えてやる!


 姪のタップは息子のホールとダンスができて、ほんとうに嬉しそうだった。

 あの嫁の後釜に、喜んでなりたがるだろう。

 これまでも、実家とは家族ぐるみのお付き合いをしてきたけど、タップ嬢には、もっと息子に接近してもらって、あの生意気嫁の亡きあとに、公爵家に嫁いでもらう心積りだ。


 ドミア公爵夫人は、そのための下準備に取り掛かろうと思っていた。


(まずは、可愛い姪っ子の顔見せパーティーを開かなきゃね。

 口実はーーそうね。ふふふ)


 義母は暗い笑みを浮かべた。



 その日、ブランド公爵とホール公爵令息は、久しぶりに明るい笑顔をみせた。

「嫁のエルザとの仲直りパーティーを開きたい」とドミア公爵夫人が提案してきたからだ。


 エルザが王宮に留められて以来、ブランド公爵家の面々は、ずっと気まずい思いをしてきた。

 長期療養入ったエルザの居場所すら、王家から教えてもらえず、


「ブランド公爵家では、エルザ夫人へのいじめが盛んに行われていた」


 という風聞(事実)が、貴族社会で蔓延してしまったからだ。


 ブランド公爵邸は、長らく暗い雰囲気に沈み込んでいた。

 そんなところへ、いじめの首謀者ドミア公爵夫人が折れて、頭を下げるというのだ。


 夫のブランド公爵は、声を弾ませる。


「エルザとの仲直りパーティーを催すのか。

 それは良い。世間へのアピールになる」


 息子のホール公爵令息も、ウンウンと何度もうなずく。


「僕も久しぶりにエルザとダンスを踊りたいよ」


 そして、ドミア公爵夫人は、しおらしく振る舞う。


「でも、エルザさんは、私を許してくれるかしら?」


 これには、息子のホールが胸をトンと叩き、太鼓判を押した。


「大丈夫だよ。

 あの火傷だって、お母様がわざとコテを押し付けたんじゃなくて、手が滑っただけなんだろ?

 それに、お母様から、仲直りの手を差し伸べるんだ。

 優しい彼女なら、きっと許してくれるさ。

 さっそく王宮へ手紙を出そう。

 日時は一週間後ーー。

 ここ、ブランド公爵邸で、エルザとの仲直りパーティーを開くんだ、と!」



 二日後ーー。


 王宮を介して山荘に手紙がもたらされた。

 差出人は、エルザの夫ホール・ブランド公爵令息だった。

 エルザは文面に目を通した。


『ブランド公爵家の内輪で、仲直りパーティーを開きたい。

 そろそろ帰ってきてくれないか。

 ああ、愛するエルザ。

 君がいなくなってからというもの、ブランド公爵邸は日が沈んだようになってる。

 君の笑顔を見たいんだ。

 もちろん、君の体調の問題もある。

 着のみ着のままで構わない、とお母様もおっしゃっている。

 だから、安心してーー』


 そこまで読んで、エルザは、ふう、と溜息をつく。


「どうする? 返事を出すかい?」


 手紙を届けに来てくれたロム第二王子が問いかける。

 私、エルザは、手紙をクシャクシャに握り潰す。


「そんな気分にはなれないわ」


「そりゃそうだろうね」


 王家秘蔵の薬のおかげで、かなり火傷痕は癒えた。

 それでも、まだジンジン痛む。

 お義母様のことだ。

 普通のパーティーではなく、なにか企んでいるに違いない。


 それとも、私が、あのリンゴを食べたかどうか、たしかめるための手紙かもしれない。

 食べていたら、おそらく今頃私は、死んでいるか、半身不随になっているかーーとにかくパーティーになんか出席できなくなっているだろう。

 この手紙を書いた夫はともかく、お義母様は、私の死亡通知を今か今かと待ち侘びているはず。

 まったくムカつく。

 だったら、意地でもパーティーに足を運んで、私が健在であるのを見せつけるべきか?

 いや、待てよ。

 私がパーティーの主賓として招かれたのなら、これを逆用してーー。


 などと、いろいろ考え始めるエルザだった。


 が、彼女よりも、ロム第二王子の方が、我が事のように憤慨した様子だった。


「貴女自身でお断りし難いなら、王家の名で断りましょうか?」


 とすら提案する。

 でも、エルザは冷静だった。


「いいえ。良い考えが浮かびました」


 エルザは扉を開けて森に出ると、ロム王子に向けて手を差し出す。

 誘いを受けて、ロム王子は一礼して手を取る。

 森の中で、木漏れ日を受けながら、二人でダンスを踊った。


 ここ数日、毎日、王子が訪問してくるたびに、一緒に手を取り合って踊っていた。

 クルクル舞ったあと、王子に抱きかかえられるポーズになったとき、エルザはささやいた。


「私、決心しました。

 その仲直りパーティーに出席いたします。

 そして、お義母様の本音を確かめてやりますわ」



 そして、「仲直りパーティー」の当日ーー。


 ブランド公爵邸は、久しぶりに活気付いていた。

 エルザが静養を解き、パーティーに出席するという報せがもたらされていたからだ。


 ブランド公爵夫妻は方々に手配し、侍女に豪華な銀食器を用意させていた。

 そして、その高価な食器に、料理や果実などを盛り付け、中庭に据えた大テーブルに並べる。


 昼近くになると、パーティーに招かれた客が続々とやって来た。

 いずれもブランド公爵家ゆかりの者たちだ。

 ブランド公爵の妹であるデミアス侯爵夫人が夫と手を取り合って馬車から降りてくる。

 ドミア公爵夫人の弟ダーク子爵とその夫人、そしてその娘タップ子爵令嬢もおめかしをしてやって来た。

 さらにブランド公爵家の寄子であるペック伯爵家、デミ子爵家、ドール男爵家の代表者、おまけに、今回の料理などを調達した出入り商人のパール商会の代表など、内輪とはいっても、百名近くの来訪者があった。


 昼過ぎまで、食事をしながらの雑談が続く。

 貴族社会で白い目を向けられてきたから、ようやくこれから勢力を挽回できる、とブランド公爵は意気込んでいた。

 そこへ、一際大きな歓声と拍手が湧き起こった。

 ついに主賓が登場した。

 エルザ・ブランド公爵令息夫人が、馬車から降りて来たのだ。


 エルザ夫人が、いまだ火傷痕が生々しく残ったままの顔で現れた。

 白粉(おしろい)などで、あえて誤魔化そうとはしなかったらしい。

 おかげで、歓迎する側である、パーティー出席者たちが気をつかう立場になった。


 夫であるホール公爵令息が駆け寄って、妻の手を取る。


「身体の調子はどうだい?」


「ええ。すこぶる快調よ。そうそうーー」


 クルリと振り向いて、エルザは馬車の方へ戻る。


「今日のパーティーのために、ちょっとしたお料理を作ってきましたの」


 エルザは自らの手で一枚の大皿を掲げた。

 皿の上には大きなパイが載せられていた。


「アップルパイを焼いてきました。

 もう冷めてしまったかもしれないですけど、十分、美味しいはずですわ。

 お義母様からいただいたリンゴをふんだんに使って、お義母様から教えていただいたレシピで作ったんですのよ」


 そう言って、手近の人々にパイを配り終わると、さらにエルザは、パーティーで働く侍女たちに命じて、馬車から幾つもの箱を持ち出させる。

 それらの箱にも、アップルパイが入れられていた。


「たっぷり作ってきました。

 みなさまの分は十分あります。

 召し上がれ」


 エルザ自らナイフを手に、大きなアップルパイを、みなに切り分ける。

 まさに「仲直り」の象徴のような振る舞いであった。

 義父のブランド公爵と夫のホール公爵令息は、ウキウキしていた。


「おお、(かぐわ)しい香りだ。

 どれ、我が家の味になっておるかな」


「美味しそうだ。いただきます。

 さあ、みなも食べてください」


 義父も夫も、一切れずつパイを手に取って、頬張る。

 若奥様がみなに勧めて、主人たちが先に手をつけた食事である。

 執事や侍女も、口にしないわけにはいかない。


 ドミア公爵夫人にお追唱の親類やご近所さんも、ドミアに推されて、あわよくば新たな嫁として入り込むことを狙う姪っ子タップ子爵令嬢も、「今日のところは、先妻のパイを食べてあげるわ」という気分だった。

 それほど、美味しそうな香りが、アップルパイから漂っていたのだ。


「美味しい!」


「ほんとうね。

 ほっぺが落ちるほど、甘い」


「素晴らしいわ!

 我が家で焼いたパイとは段違いよ」


 一口した段階で、みなが絶賛するが、やがて会話が途切れる。

 みなが黙々と味わって、食べるのに忙しくて、黙りこくってしまったからだ。


 誰もが美味しそうにパイを食べている中、例外のヒトもいる。

 大勢の者が二切れ目のパイに手をつける中、ただひとりドミア公爵夫人だけは、アップルパイに手をかけようとしない。

 その様子を見て、エルザはにこやかに微笑みながら、パイを勧めた。


「さあ。お義母様。

 貴女が贈ってくださったリンゴを使ったパイですよ。

 どうぞ。美味しそうでしょ?」


「こ、このパイはーーまさか……」


「あら、どうなさったのですか、お義母様。

 随分と、汗をお掻きなさって。

 おかしいですわ。

 この集まりは、私をブランド公爵家の嫁として歓迎してくださるパーティーなんですよね?

 でしたら、私がアップルパイを振る舞うのは当然でしょう。

 それがブランド公爵家の伝統ですもの。

 そうおっしゃったのは、お義母様でしょ?」


「アンタ! 正気なの!?」


 義母のドミア公爵夫人は、悪い予感がして、汗だくとなって叫ぶ。

 それでも、嫁のエルザは、大皿の上にパイを載せたまま、ニコニコ微笑んでいる。


 頑なにパイに手を出さないドミアに、夫や息子、姪っ子が、にこやかに笑って、食べるように勧めてきた。


「どうしたんだ、おまえ。

 仲直りの好機じゃないか」


「お母様が教えた通り、妻が作ってくれたんですよ。

 この期に及んで、食べないというのは……」


「さあ、奥様。いただきましょう。

 美味しいですわよ。ほんとうに」


 義母のドミアは、身体を小刻みに震わせる。


「わ、私、リンゴなんか、アンタに渡してないわ。

 行商人ーーそう、行商人の老婆から、もらったものでしょ、これは。

 だったら……」


 ドミアは「生意気な嫁」を睨みつける。

 だが、その目には(おび)えの色が窺われた。

 それから、彼女は周囲を見渡す。

 みなが美味しそうに、切り分けられたパイを平らげたばかりだ。

 満足げな表情を浮かべている。


 ところがーー。


 次第に、顔を歪ませ、うずくまる人たちが現れる。

 そして、男女の別なく、お腹に手を当て、芝生の上に倒れ込む者が続出した。


(やはりーー)


 ドミア公爵夫人は青褪めた。


 その頃には、夫も息子も姪っ子も、自慢の実家やその仲間たちもみな、地面にうずくまり、断末魔の苦しみで、のたうち回り始めていた。


「うう……」


「苦しい……」


「助けて。誰か、医者を……」


 夫が泡を吹いて倒れ、息子が取りすがってくる。

 そのほか、辺り一面に、百名近くの高位貴族が、地に倒れ、白眼を剥き、口から泡を吹き、四肢を痙攣させていた。

 惨憺たるありさまになった。

 それなのに、目の前では、嫁のエルザがアップルパイを手にしたまま、にこやかに微笑んでいる。

 義母のドミアは絶句し、呆然と立ち尽くすしかなかった。


 その間も、エルザは、地を這い回るみなの様子を、冷静に見下していた。

 微笑みを浮かべた顔には、赤黒い、大きな火傷の跡が残っている。

 いまだ傷口が(うず)く。

 表面では笑っていようと、彼女の内面では、いまだに怒りが渦巻いていたのだ。


(ふん。なんなのよ、気持ちの悪い人たちね。

 この期に及んで、「仲直り」などと、どうして言えるのよ!?

 私が一方的にいじめられていたのに、まるで「喧嘩両成敗」のように扱うだなんて。

「ちょっとした仲違いをしただけ」とでも、思ってるのかしら。

 だったら、自分も焼きゴテで、肌を焼かれてみると良い。

 誰も助けようとしなかったくせに、絶対に、なかったことにはさせない。

 私が受けるはずだった苦しみを、傍観を決め込んだあなたたちが受けると良いんだわ。

 でも、あなたたちはまだ幸運よ。

 私一人にぶつけられるはずだった毒を、大勢で分け合ったんだから。

 あなたたちがどの程度の被害を受けるかは、お義母様が私に食べさせようとした毒の強さ加減によって決まる。

 だから、責任はお義母様ーーそしてそのお義母様の振る舞いを看過し続けてきたあなたがた自身にあるんだからね」


 お義母様ーードミア公爵夫人が身を震わせながら、私、エルザを睨みつけている。

 この現場で、うずくまることなく、泡を吹くことなく、立っているのは、私たち二人しかいない。

 私、エルザは、わざとらしく、口に手を当てて喉を震わせた。


「お義母様! これは、どうしたことかしら。

 もしや、あの美味しそうなリンゴに毒でも!?」


「なにを、しらじらしい。これはアンタが……」


 義母が言い返そうとしながらも、あまりの惨状に喉を詰まらせた、そのときーー。


 ブランド公爵邸の門外から、大勢の騎士たちがドカドカと音を立てて押し寄せてきた。

 先頭を切って駆け込んできたロム第二王子は、公爵邸の中庭で大勢の人々が悶え苦しむさまを見て、大声をあげた。


「遅かったか!

 急ぎ、騎士団の救急部隊を呼べ!

 あと、医師も薬師も、できるだけ掻き集めろ。

 毒による中毒だ」


 何十人ものの騎士たちが動員される中、ロム王子は、二人の女性が対峙する場所へと、まっすぐ向かった。

 そして間に割って入ると、まずはエルザの方を向いてお辞儀をしてから、クルリと身を(ひるがえ)し、ドミア公爵夫人を睨みつけた。


「ドミア公爵夫人、貴女を逮捕する。大量毒殺を試みた犯人として!」


 ロム王子の命を受け、騎士が大勢でドミア公爵夫人を取り囲む。

 そして、彼女の身体ごと、地面に叩きつけて拘束した。

 ぎゃっ! と、カエルが押し潰されたかのような声を立てて、彼女は腹ばいになる。


 ロム王子は、すでにドミア公爵夫人が毒を入手していたことを掴んでいたのだ。


 かつてエルザが王宮で保護された際、彼女が義母から虐待を受けていた疑いが濃厚だった。

 決定打となったのは、エルザから「お義母様から寄越された」として差し出されたクリームだった。

 指につけ、匂いを嗅いでから、


「これはーー!?」


 と医師は思わず口にする。

 塗ったら、さらに皮膚が(ただ)れるかぶれ薬だった。

 それを同席していたロム王子も知り、「あのドミア公爵夫人は危ない」と認識して、警護をつけるようエルザに提案した。

 ところが、エルザは拒否して、言った。


「私に警護は必要ありません。

 それよりもお義母様ーードミア公爵夫人に警戒を」


 以降、王家の隠密を派遣して、監視の目を、ドミア公爵夫人につかせていた。

 それに気づかず、ドミアは実家のダーク子爵家にまで出向き、勝手知ったる倉庫から、ある薬品を持ち帰った。

 花壇を作るとき、害虫を殺すのに使う殺虫剤である。

 これは普段、植物の葉などに薄めて散布するものだが、濃度の高い原液は人間相手でも十分な殺傷力をもつ。

 その殺虫剤の濃厚な原液を、果樹園からもぎ取ったリンゴに、注射針を刺して注入するーーその様子をしっかり確認したのだった。

 さらには、ドミアが行商人の老婆に変装して、エルザに毒入りリンゴを押しつけたことも判明し、その毒リンゴを証拠としてエルザから受け取ってもいた。


 だが、それでも、ドミア公爵夫人を捕まえることはできなかった。

 なぜなら、いろいろと言い訳ができるからだ。


「花壇を作る際に必要な殺虫剤を、自宅から持ってきただけよ」だとか、


 リンゴに注射したのは、


「作物を荒らす害獣を駆除するためなの。

 害獣に対する罠として、畑や花壇に置いておこうとしただけだから」とか、


 エルザに毒リンゴを渡したのも、


「あら、可愛い嫁ちゃんにお渡しするリンゴを、うっかり間違えちゃったわ」とか、


 さまざまに考えられた(それでも、どうして行商人の老婆に変装したのかは不明だが)。


 なにしろ、相手は三大貴族家のブランド公爵家の奥方だ。

 捕まえるには、証拠固めが必要だ。


 その結果、ロム王子は、エルザの提案に乗って、策を講じた。

 エルザにパーティーに出席してもらい、ドミア公爵夫人を会場に引き留めてもらう。

 その隙に、隠密や騎士団を動員して、ドミア公爵夫人の部屋や、実家の倉庫に潜入し、十分に証拠を手にしてから、毒殺を決行する前に拘束しよう、と。


 実際、計画通りに、ドミアの実家ダーク子爵家の倉庫から、証拠となる注射器が押収された。

 さらに、ドミアの部屋から、行商人の老婆に変装した際の服や帽子、皺をつけるための化粧道具や、かぶれ薬のクリームも見つかった。


 それでも、公爵夫人を犯行前に拘束するのは難しいかもしれない。

 だが、毒殺が決行されてからでは遅いと思い、ロム王子は焦っていた。

 しかし、まさか、自分の夫や息子といった家族や、親戚、さらには寄子貴族家の人たちまでをも毒殺しようとは!


 ロム王子は息を切らせながら、ドミア公爵夫人を恫喝した。


「なんてことをしでかしたんだ、ドミア公爵夫人!

 エルザ夫人の協力で、毒リンゴを押収した。

 注射器も、変装道具も、すべて押さえた。

 それもこれも、犯行を未然に防ぐためだった。

 証拠固めの時間を稼ぐため、さらには、貴女が、毒を撒き散らさないよう、警戒してもらうために、エルザ夫人に協力してもらった。

 ところが、この惨劇だ!

 間に合わなかった。

 よくも自分の夫であるブランド公爵や、自分の息子のホールまでも殺せたものだな。

 来客の方々までーー」


 ドミア公爵夫人は、ロム王子に後ろ手にされ、背中にのしかかられた状態だ。

 それでも、面をあげ、金切り声をあげた。


「違う!

 毒入りアップルパイを作ったのは、エルザのバカ嫁であって、私じゃない!」


 ロム王子は、ドミアの腕を捻じ上げながら、断言した。


「そうかもしれない。

 でも、毒リンゴを持ち込んできたのは、ドミア公爵夫人、貴女ではないか!」


 監視役の者たちが、王子の背後に勢揃いしていて、彼らはいっせいにうなずく。

 彼らは見ていたのだ。

 ドミア公爵夫人がリンゴに注射針を刺して毒を注入するのを。

 老婆に変装して、嫁のエルザに毒リンゴを押し付けるさまを。


 ロム王子はドミアの背中に座ったまま、傍らに立つエルザに顔を振り向ける。


「エルザ夫人に対して、貴女が押し付けた毒入りリンゴはすべて、私どもに押収されたはずです。そうですね!?」


「はい」

 とエルザは、いまだにパイが載った大皿を手にしたまま、真顔でうなずく。


「ですから、もとより山荘の食糧庫にあったリンゴを拝借して、調理したのです。

 それに、公爵家自慢のアップルパイを焼くように指示したのはお義母様ですし、みなに振る舞うようお命じになられたのも、みんな、お義母様です」


 じつは、これは嘘である。

 老婆に扮した義母から押し付けられた毒リンゴは全部で十五個あった。

 そのうち三個だけを、回収に来た隠密の方々に渡し、残りは隠した。

 もちろん、アップルパイの材料にするためだ。


 でも、エルザは、当然、その秘密は胸に納めた。

 実際、あの行商人のお婆さんが義母ドミアであることは見抜いていたし、押し付けられたリンゴに毒が入ってるんじゃないかと推測はしていた。

 だが、それはあくまで推測であって、事実として知っていたわけではない。

 だから、このリンゴを使ったパイで、食べた人々がどうなっても、それは義母ドミアの責任であって、私、エルザは危険を避けただけ、被害を受けた連中は、今まで義母の横暴を許し続けた報いを受けただけだ、と信じていた。

 

 エルザの説明を聞いて、ロム王子は口をへの字に曲げる。


「ふむ。ということは、ドミア公爵夫人は、すでに毒リンゴを山荘に持ち込んでいたのか。

 彼女は実家が王宮抱えの薬師をしていた関係で、山荘の在り方を知っていた。

 こうなると知っていれば、ずっとエルザ夫人を王宮で(かくま)っていれば良かった……」


 地面に顔面を押し付けられながらも、ドミア公爵夫人は必死に抗弁する。


「私、そんなことしてないし、この生意気な嫁に、毒入りパイをみなさまに配れなどと言ってない!

 信じて! この嫁は嘘をついてるの。

 第一、私、パイを焼いてない!

 そうでしょ!?

 だったら、これは私のせいじゃない。

 ブランド公爵家の侍女たちに聞けばわかります」


 義母ドミアの必死の訴えも、ロム王子や騎士団員たちの胸にはまったく響かなかった。


「ドミア公爵夫人。

 貴女が頻繁に嘘をつくのは、エルザさんをはじめ、他の貴族夫人の方々や、貴女がクビにした元侍女からも、すでに伺っております。

 説得力がありません。

 それに、今現在、貴女に仕える侍女の方々はみな、悶え苦しんでおりますよ。

 お可哀想に。

 まさに、『死人に口なし』にしたかった、というわけですか」


 現場に居合わせる男どもに、まるで聞く耳がないと悟ったドミア公爵夫人は、土だらけとなった顔相をエルザに向け、甲高い声を張りあげた。


「おまえええ! どうして、リンゴを食べなかったああ!?」


 パイが載った大皿をテーブルに置いき、私、エルザは、地面に這いつくばる義母に向けて冷然と言い放った。


「私は、お義母様の教えに従ったまでです。

『高位貴族家の嫁は、料理を作っても一切、自分で口にしてはいけないのよ!』というーー」


「ちくしょう! 死ねええ!」


 料理を切り分けるナイフが、ドミアの近くに落ちていた。

 それを手にして、彼女は一生懸命、振り回そうとする。


 だが、立ち上がるだけでも、現状では無理な相談だった。

 ロム王子に背中からガシッと押さえ込まれているし、周囲には屈強な体躯をもった騎士たちが何人も取り囲んでいるのだ。


 ついに、「わあああああん!」と、ドミア公爵夫人は泣き喚いた。


 男どもは閉口して、眉を顰める。

 この百名近くが毒で倒れた凄惨な現場で、唯一直立する女性エルザは、憐れみの眼差しで、義母が泣き喚くさまを見下ろすのみだった。


◇◇◇


 それから、およそ一ヶ月後ーー。


 当然のごとく、ドミア公爵夫人は死刑となった。

 高位貴族夫人としては、バレンス王国初の絞首台での公開処刑となった。

 最後まで、「嫁に嵌められた!」と主張していたが、誰からも相手にされなかった。


 自分の夫ブランド公爵、息子ホール公爵令息、そのほか、ブランド公爵の妹であるデミアス侯爵夫人とその夫、さらにはドミア公爵夫人の弟ダーク子爵とその夫人、そしてその娘タップ子爵令嬢、そして寄子貴族のペック伯爵家、デミ子爵家、ドール男爵家や、出入り商人のパール商会などの代表者、ほかにも、ブランド公爵家に仕える執事や侍女など、総計八十四名を毒殺した殺人犯として、処刑されたのである。

 パイを口にしながらも、毒の摂取が少なくて生き残ったのは、わずか二十余名だった。

 しかも、その大半が、寝たきりになったのを含め、後遺症が残るほどの重体者ばかりだった(ちなみに、下男、下女の数名と、黒猫のレミはアップルパイを食べなかったので助かっている)。


 さらに、取り調べの過程で、思わぬ新事実が発覚していた。

 エルザの実母であったマインツ伯爵代理はドミア公爵夫人に毒殺されていたことが明らかになったのだ。

 息子ホールがエルザ嬢と結婚したがっているので、彼女が嫁がなければならない状況を作ってやろうと、お茶会を共にしたときに、マインツ伯爵代理の飲み物に「毒を仕込んでやったのよ」と、ドミア公爵夫人は得意げに白状した。


 ちなみに、「エルザが、毒リンゴと知っていて、アップルパイを焼いたのではないか」という可能性も考慮して、尋問官はエルザにも問うていた。


「貴女は、行商のお婆さんが、ドミア公爵夫人だと察していたからこそ、


『お義母様からいただいたリンゴをふんだんに使って、お義母様から教えていただいたレシピで作ったんですよ』


 と言ったのでは?」と。


 このエルザの言葉を尋問官に紹介したのは、当の大量毒殺の容疑者であるドミア公爵夫人であった。

 エルザとドミア、この二人の女性しか生き残っていないのだから当然である。


 この質問に対し、エルザは、ただ淡々と、


「私は、お義母様の勧めに従って、ブランド公爵家の嫁として、山荘にあったリンゴでパイを焼きました。

 ですが、祝いの(うたげ)が、まさか、こんなことになるとは。

 とても悲しく思います」


 と答えるのみ。


 やはり、毒リンゴを使って焼いたパイを、エルザがみなに配ったのは事実らしい。

 だから、問題となるのは、彼女が「このパイを食べた者が、死ぬかもしれない」と知っていたかどうか、であった。

 リンゴに毒が入っていると知っていたとしたら、エルザこそが毒殺犯となるからだ。


 だが、ロム王子と騎士団の捜査班は「エルザは毒リンゴと知らなかった」と結論づけた。


 まず大前提として、「ドミア公爵夫人が、行商人のお婆さんに変装していた」ことを、エルザが見抜いていなければいけない。

 そして、「ドミアが、リンゴに猛毒を注入していた」という事実を知らなければ、たとえ回収し損ねたリンゴがあったとしても、エルザはそれを毒リンゴと知れなかったことになる。


 幸い、尋問の際、開き直ったドミア公爵夫人自身が、力強く言い張っていた。


「私の変装を、嫁が見破っていた可能性ですって?

 そんなこと、あるわけないでしょ!

 あんなバカ嫁に、そんな知恵、あるもんか。

 あれは、すっかり騙されてたわ」と。


 そして、ロム王子が派遣した隠密たちは、「ドミア公爵夫人が、リンゴに毒を注入している」という事実を知ってはいたのだが、彼らは、エルザからリンゴを回収した際、それが毒入りリンゴだとは伝えていなかった。

 三つのリンゴが回収され、いずれにも強力な毒物が検出されたが、回収時には、そのリンゴを詳しく調べていなかったから、いまだそれらが毒リンゴと決めつけられなかった。


 義母ドミアが行商人の老婆に扮して毒リンゴを渡したと知れていないと、そもそも嫁のエルザが意図的に毒入りパイをみなに振る舞うことはできない。


 実際、「ブランド公爵家の嫁は、アップルパイを焼いて、客人をもてなすものだ」とドミア公爵夫人が説教した、とエルザは証言している。


 ドミア自身も、尋問している際に、口走っていた。


「夫も息子もみんな馬鹿だ。

 あんな嫁の肩を持とうとしたから、死ぬハメになったんだ。あはは!」と。


 だから、ロム王子と騎士団の捜査班は、結論づけた。

 ドミア公爵夫人が、嫁のエルザを迎え入れようとした夫や息子たちを許せず、逆恨みで一族の皆殺しを計画し、かつまた、大量毒殺の罪を嫁のエルザになすりつけるために毒入りアップルパイを焼かせて、エルザを殺人犯に仕立て上げようとしたに違いない、と。


 実際、捜査の過程で、ドミア公爵夫人が、普段から、エルザに対して、濡れ衣を着せるいじめをしていたことが判明していた。

 ブランド公爵邸で仕えていた元侍女が証言していたのだ。

 ドミア公爵夫人が自分の手でエルザのドレスを引き裂き、切り刻んでおきながら、飼い猫のせいにしていた。

 そして、その事実をブランド公爵に告発したがゆえに、自分は公爵邸から追い出された、と。


 どうやら、他人に自分がやった罪をなすりつけることは、ドミア公爵夫人の習い性になっていたらしい、とロム王子たちは判断した。


 その結果、王国の公式見解として、義母ドミアが単独でブランド公爵一族の皆殺しを計画し、その計画に嫁のエルザは巻き込まれ、罪をなすりつけられようとしていた、と決裁した。

 これによって、ドミア公爵夫人の死刑が確定したのである。


 皮肉なことに、義母ドミアが、「自分の変装が見破られたはずはない」と嫁エルザを本気で見くびっていたおかげで、エルザが毒殺犯とされる危険から逃れられたのであった。



 結局、この事件のあと、ブランド公爵家は廃絶した。

 ドミア公爵夫人の実家であるダーク子爵家も当主を失い、遺族も爵位を失った。


 未亡人となったエルザは、黒猫のレミを引き取って、王宮に仕える侍女となった。

 やがて、ロム第二王子に見初められて結婚することとなるが、それはずっと後の話だ。



 そして、しばらくの間、この〈アップルパイによる大量毒殺事件〉は、バレンス王国において、近年稀に見る大虐殺として話題となった。


 すでに、王国政府の公式見解として、義母ドミアが単独で一族皆殺しを企図し、エルザは巻き込まれただけ、と決裁されていた。


 ところが、貴族社会、及び世間の受け取り方は、ちょっと違った。

 いくら嫁の肩を持った、裏切られた、と感じていたとしても、ドミア公爵夫人が、夫と息子を殺すとは思えない。

 そうしたら、自分の権力だけでなく、愛する相手すらも、すべて失うのだから。

 ドミアの貪欲な性格をよく知る貴族夫人たちほど、王国政府の決裁を信じなかった。


 だから、独自に、彼女たちは、この事件の「真相」を解釈した。


 やはり、ドミア公爵夫人は、ただ、嫁のエルザに毒リンゴを食べさせようとしただけなのではないか。

 実際、その程度のことは計画しかねない気性の激しさを、ドミアは持っていた。

 ただ、毒リンゴを食べさせて嫁のエルザを殺そうとしただけで、彼女を殺人犯に仕立て上げようとまでは考えなかったのではあるまいか。

 なぜなら、ドミア公爵夫人が、自分が寄って立つ権力の源であるブランド公爵一族を皆殺しにしようなどと思うはずがないから。

 それなのに、因果が巡り、毒入りリンゴと知らずに、嫁のエルザが公爵家の伝統に従ってパイを焼いて一族のみなに振る舞い、知らないうちに、ブランド公爵一族の大虐殺となったのではないか。

 そして、公爵家の嫁の伝統に従って、自らの手で調理したものを口にしなかったーー。


 貴族夫人たちはそう思い、そのように噂され、実際、新聞などでは〈事件の真相〉として、そのように報道された。


 でも、そのように信じられたとしても、王国民の誰もが、ドミア公爵夫人が死刑になったのは自業自得、エルザに罪はない、と思っていた。

 彼女の美しい顔に受けた、陰惨な火傷の跡を見たら、誰もが嫁のエルザは被害者であるとしか思えず、彼女を非難する者はいなかった。


 それにしてもーーと王国民たちは、怖気(おぞけ)をふるった。

 事件の内容を要約すると、たしかに凄まじいものがあったからだ。


 姑が嫁を殺そうとして毒リンゴを渡したものの、そうと知らず、嫁がアップルパイを焼いてみなに振る舞った。

 それがゆえに、付き合いのある方々ともに、一族郎党が全滅したーー。

 その経緯に、誰もが戦慄したのだ。


「高位貴族家の嫁は、料理を作っても一切、自分で口にしてはいけない」という義母の教えを守ったがゆえに、嫁は生き残った、という皮肉な顛末も話題になった。


 さまざまな階層の人々が、この事件について口にした。

 家庭でも、職場でも、街中の酒場でも。


 特に、家庭を持つ成人男性の誰もが、肝が冷える思いをしていた。


「姑の嫁イビリを、女同士の(いさか)いとして、知らん顔していたーー。

 それだけで、自らの生命を失うだけじゃなく、一族郎党、皆殺しになってしまうとは。

 なんとも恐ろしい……」


 街中の平民までが話題にした。

 その結果、バレンス王国では、嫁姑の争いがしばらくの間、聞かれなくなったという。



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