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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

隠れし火線

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おお~、火炎放射器を使った掃除か。映像越しとはいえ、なんとも迫力があるものだよ。

 火、といったら事故や災害にもつきもの。こうして大きく広がっていくのをみると、なんとも言いがたい気持ちにもなってくる。

 古来、兵器としても火を放射する手段は使われてきたが、火炎放射そのものは非人道的な部分が強すぎるとして、サーモバリックなどに置き換わっているのだとか。

 ああして、ゴミ掃除に使うのは雑菌の処理や、犯罪者などのよからぬ者が身を隠す場所を撤去する役割もでかいらしい。

 最近の火炎放射器は改良を続けていて、一度火がつくと、なかなか消えないようにできているのだとか。

 隠れ潜む犯罪者も、これを見ては逃げ出さずにいられないようで、あぶり出し性能は上がっているわけだ。


 確かに燃やすのは、効果ある掃除の仕方だが、掃除そのものは昔から重要視されるもの。

 掃き清める、なんて「清める」意味合いがあるほど、神聖な意味を持っているしな。

 科学的パワーによらない、神秘な一面もあるかもしれないな。

 俺がちょっと前に聞いた昔話なんだが、聞いてみないか?


 むかしむかしの秋ごろ。

 とある山に入った猟師のひとりが、帰らぬ人となった。

 帰還予定の時間を過ぎ、捜索に出た人々は、てっきり彼が崖の下など、事故に遭って自力では戻ることが困難な場所に、いるのではないかと思われていたんだ。

 しかし、彼らは他の者も多く利用し、草が分かれつつあった道のど真ん中に、どんと倒れていたんだ。


 秋ならではの落ち葉の布団の上に横たわる彼の遺体だが、その様相は穏やかとはいいがたい。

 あおむけた男の下あごは、すっかりなくなっていたんだ。

 しかし、男の顔に苦痛は浮かんでおらず、まなこは見開かれたまま。自分に何が起きたか分からなかったといわんばかりの、呆然とした心地をたたえている。


 獣などに襲われたのであれば、こうはならないだろう。多かれ少なかれ抵抗をし、おびえなり殺気なりが、その表情にみなぎるのが当たり前。

 不意打ちの一撃、と見た方がいい。

 しかし、あごが吹き飛んだ程度で即死に至るとは、少し考えづらかった。

 戦であごを砕かれた経験のある者は、近辺の村にもいた。しかし彼らは、そしゃくなど、日常生活の動作に支障が生まれども、命までは落としていないのが大半。

 これは、単純にあごを切り取られたばかりの、狼藉ではあるまいてと、猟師の遺体は持ち帰られて、あらためられる。


 結果、猟師の遺体に残った傷は、あごの喪失ばかりでないことが分かった。

 その鼻の中、そして頭蓋の内側に至るまで、無数の細かい穴が貫いているのが、見て取れたという。

 これがあごを奪うのと、同時に行われたものかどうかは分からない。だが、頭が致命的な急所であることは、当時の人々にも容易に判断できることだった。


 ――かの山に、このように凶悪な殺害方法を行う者がいる。


 そう判断した有志達によって、山狩りが行われる運びとなった。


 鉄砲を片手に、落ち葉を踏みしめながら、彼らは山のあちらこちらに散って、それらしい影がないかを探っていく。

 なにせ、瞬く間にあごを損壊せしめ、致命の追い打ちまで行うような残虐性を帯びているだろう手合い。油断は許されない。

 銃を構えながら山の中腹あたりを探っていたその二人も、気を張ってはいた。

 高くから低きまで視線をめぐらし、どのような動物が出てきても反応できるよう、そなえているつもりだったのだが。



「お!」と声をあげたのは、前後の立つ二人組のうち、前へ立つ一人だった。

 唐突にぐらつき、それを支えた後方の男は、彼が口からしとどに血を垂らしているのに気がつく。


「離れてくれ!」


 ごぼり、水音混じる声でもって、そう告げる彼。

 次の瞬間、後方の男も含めた二人の前髪が、急に下からかき上げられた。

 自分の手などはあてがっていない。風などが吹き上げたわけでもない。


 熱だ。

 髪もろとも、肌をかすめたのは、飛び上がりたくなるほどの高熱。

 空気にさらされ、瞬く間に冷えたものの、あれは石か何かの個体のように思えたんだ。

 彼を連れて下がっていく間も、下方から飛び上がるものの存在を、樹冠に茂った葉たちがしらせてくれていた。

 後退を続ける二人のあとを追うようにして、その上方の葉に穴が空き続けていくのだけど、更によく見れば、足元もまた同じように騒がしい。


 敷き詰められた落ち葉たち。

 そのそこかしこが小さく、小さくはじけて、これもまた二人の後を追ってくる。

 なお目をこらせば、その葉たちには、ひとつひとつならば針先で開けたような小さい穴が空いていたんだ。

 それらが無数に身を寄せ合って、あたかも模様を形づくるようにしながら、葉を貫き、飛び上がって樹冠を突いていく。


 落ち葉がなくなり、地面がむき出しになってくると、これらの攻勢はたちまち静かになっていった。

 手当てをする間、いつどこからか連中が現れてもいいように警戒は続けていたが、それは無用の心配だったとか。

 しかし、この日で同様の被害が、他にも3人報告がされる。

 いずれも、大量の落ち葉が散っている地点を踏みしめた折に、襲われたのだとか。


 落ち葉の下で、戦争が起きている。

 被害を目の当たりにした人は、そう評したそうだ。

 人の目が届かないところでもって、行われる戦の流れ弾。それが自分たちに恐るべき威力でもって、襲い掛かってきているのだと。

 何者のしわざかは分からない。しかし、争う場を奪ってしまえば、こうもなるまい。

 そう判断し、彼らは山狩りから山掃除へと、取り組みをうつす。

 落ちている葉を片っ端から掃き、集めて取り上げ、本来の山肌をあらわにしていったんだ。


 すると、もはやこのような被害が出ることは、なくなったのだという。

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