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6:アイテムの品評会

 冒険者ギルドで魔石の換金を済ませると、そのまま宿屋に直行した。

 最後まで俺達とエルさんの心配をしてくれていた男の人に手頃な宿を教えてもらったところ、なんとその人が直々に、俺達を宿まで護衛してくれたのだ。


「犯人がまだお前を付け狙っているかもしれん。念の為だ、気にするな」


「ありがとうございます」


「おっちゃん、いい人だね。ちょっと思い込み激しいけど」


「ライム、しー」


 ついつい人類を殲滅したくなるライムも彼のことは気に入ったようだ。本当にいい人だよなあ。思い込みは激しいけど。

 あと名前、聞き忘れた。




「うわ、ベッドふかふか。父さんのベッドより何倍も快適だ……気持ちいい……」


 宿屋の客室は広くて清潔だった。

 まだ小さい頃、自分や兄貴達よりも広くて大きな父のベッドに憧れていた。たまにこっそり父の寝室に侵入しては、ぽよんぽよんとベッドの上で飛び跳ねて遊んだ記憶がある。


 そうだ。そしたら、飛び跳ねすぎてマットを破いてしまって、あわてて逃げたんだ。

 父はすっかり兄貴達のせいだと思って二人にゲンコツ飛ばしてたなあ。

 兄貴達も同じように、まさか虚弱な俺がベッドを破壊したなんて思わず、どうせ父の寝相が悪くて自分で壊したんだろうに、人のせいにしやがってと憤慨していた。


 自白しなかったのは、奴隷だった俺の、ささやかな反撃だった……。ははは、陰湿だな。


 まあ、今思えば、あの人達から下手に親切にされなくて良かった気がする。

 家族だけじゃない。あの村の人達全員だ。

 俺は、家の中では奴隷だったが、家の外では迫害され続けた。

 石を投げられ、陰口を叩かれ、大人も子供も俺を見下していた。


 唯一、神父様は前までと同じように接してくれたけど……その人も三年前に亡くなった。


 もし神父様が今も生きていたなら、このお金を握りしめて走って村に帰ったはずだ。いや神父様じゃなくても、誰か一人でも……俺に優しさを一欠片でも与えてくれていたなら、俺はその人のために、大量の魔石を抱えてプレゼントでもしていただろう。

 あんな小さな村に固執して、俺はそんな優しくしてくれた人の奴隷であることを甘んじて受け入れていたかもしれない。それほどまでに俺の心はズタボロだった。あの村で、心底ズタボロにされた。


 ありがとう。俺の生まれ故郷が、クズばかりの村でよかった。


 今こうして『レアドロップ』という固有スキルを扱えるようになって、大金を手にして、立派な宿に泊まることができるのは……なんら未練も感慨もなくあの村を飛び出せたおかげだ。

 父の意志を尊重して、もう二度とあの地に足を踏み入れやしないさ。

 これを機に、二度と思い出すこともないだろう。

 今までありがとう。永遠にさようなら。我が故郷。


「……さて。ゆっくりできる時間ができたことだし、それじゃあ始めようか! ――【レアドロップ品評会】! いえーい!」


「ぱちぱちぱちー」


 気持ちを切り替え、ベッドからがばっと起き上がって唐突にそう宣言した。ライムはノリを合わせて拍手してくれた。ありがとう。


「はい。というわけでライムさん。『レアドロップ』で得たアイテム達をここに出してください」


「ほいきた」


 ライムは軽くそう返事をして、おもむろに立ち上がる。

 そして上を向いて、「あーん」と大きく口を開いて……。


「よいしょっ」


 なんのためらいもなく右手を口の中に突っ込んだ。うげっ何度見てもすごいな……。

 肘まですっぽりと口の中に納まった状態で、ライムはガサゴソと体内を探るように腕を動かし、そしておもむろに、スポーンと腕を引き抜く。


 彼女の手には、一本のナイフ。

 青いクリスタルを削り取ったような透き通った刃が特徴的だった。


「……デザインだけを見ても、めちゃくちゃ高く売れそうなナイフだよな、それ」


「奇麗だよね。それに見た目通り、切る事よりも魔術の触媒としての用途で使うものだと思う。クリスタルの刃自体にも魔力が宿ってるよ」


 ライムは喋りつつナイフの用途を模索していた。


「あ、わかった」


 間もなく、そう呟く。

 そして唐突にナイフが燃えた。


「うわ!?」


「あーやっぱり。宿してたのは炎の魔力だったね」


「危ない危ない! 火事になる! もう止めろって!」


「はーい」


 しゅんと鎮火して、ナイフは再び青く透き通った。

 悪びれもなく謝るライム。


「ごめんマスター。でも凄いよこれ。だって炎出すのに自分の魔力いらないんだもん」


「……は? 魔力がいらないって、そんなことあるか? ちょっとした魔道具でもちょっとの魔力は必要だぞ?」


 魔道具を扱うには魔力が不可欠だ。うちにも水をお湯に変える魔道具があったが、俺以外のみんなはお湯で手や顔を洗えたのに対して、『レアドロップ』のデメリットのせいで魔力が1で固定されてしまっている俺は、どれだけ寒い季節でもキンキンに冷えた水で身辺の清潔を保たざるを得なかった。


「ちょ、ちょっと貸して」


「どうぞ」


 手にするナイフは少しズシっと重量を感じる。

 ライムいわく、炎が燃えるイメージをナイフに流すのだとか……。いやわからん。どうやって――。


 ――ゴゥワッ!


 一瞬にしてナイフがボウボウと盛り天井まで火柱が燃え上がる!

 本当に俺にもできた! 初めて魔道具が扱えた!


 いや感動してる場合か! 早く消火しなきゃ!!!




「――これは使えるな。売るのはやめとこう」


「いえーい」


 炎は無事に収まった。天井を焦がしてしまったのは明日謝ろう。

 しかしこのナイフ、俺が初めて扱えた魔道具として、かなり気に入ったぞ。密かに『ブルーファイヤ』と名付けて、大事にしよう。


「それじゃあ次は何にするー?」


 ライムは早々に口を開いて手を突っ込んだ。

 ……見るに堪えない。


「なあライム。どうしてもそれをやんないとアイテム取り出せないのか?」


 アイテムはライムが持ち歩いてくれているわけだが、それが体内に仕舞うという魔物ならではの方法だった。まあそのせいで、口から物を入れて、それを吐き出すという手段でなければ出し入れができないという、俺の精神的デメリットがついてまわるのだが……。


「うーん、一個ずつ取り出すならこっちのほうがやりやすいんだけど、ある程度のものを一気に取り出したいのなら、口からじゃなくてもいいよ」


「なんだ、別に方法があるのか……よかった。じゃあ今はそっちで頼むよ。一気にどばーっとぶちまけてくれ」


「りょーかいっ」


 言った後で、どこから出す(・・・・・・)のかを、もっとしっかり聞いておくべきだったと思った。

 だってまさか……口から入れたものを一気にまとめてどばーっと出せる場所……。

 人体構造における『出口』からひり出すという可能性が、おおいにあったからだ。


「ライムやっぱちょっと待――」


「はい、どうぞ」


 俺の制止は間に合わず、そしてライムは……。


 ヘソに手を突っ込んで、乱雑にアイテムを掻き出していた。


「え? なに?」


「……いや、なんでもないよ」


 セーフ……。ちょっとトラウマ植え付けられるところだった。

 ともあれ、これで俺がこの三日間の旅で得た『レアドロップ』が出そろった。


 その数、全部で二十個。

 二百体の魔物を倒したことを考えれば、『レアドロップ』スキルが発動する確率は10%くらいと見ていいだろう。

 教会でさえこのスキルを【百年の損失】という理由がわかったよ。【ステータス1固定】のデメリットを考えれば、余りにも低すぎる。

 このスキルの所持者が頑張って魔物を一体二体倒したことがあったのだとしても、きっとその時、スキルが発動しなかったのだろう。


 だけどその分『レアドロップ』の恩恵がすさまじすぎる。

 最弱の魔物と名高いスライムを倒した場合の『レアドロップ』でさえ、こんなにも強くて従順な魔物を使役できる『召喚の杖』だ。

 この『ブルーファイヤ』も、決して強い魔物を倒した時に出現したわけじゃない。たしかワーム系の魔物をライムが粉砕した時に出てきたものだ。


 スライム。ゴブリン。ウサギ。ワーム。

 これらは最弱四天王と呼ばれている魔物だ。

 もちろん、普通の人間がこいつらに出会えばまず命はない。

 でも四天王は、魔物の中でも本当に弱い部類なのだ。


 ウサギを倒した時に出現したこの軽すぎる剣――俺でも楽に振り回せる上にめちゃくちゃ切れ味が鋭いので腰に差して愛用している。『ラピッドソード』と命名――もそうだ。最弱の魔物を倒した恩恵にしては、その性能は破格すぎる。


 もし……もっと強い魔物を倒したら、『レアドロップ』はいったい何を出現させるのだろう?

 倒す魔物に関わらず出現するアイテムはランダムなのだろうか?

 それとも、強い魔物はそれだけ強いアイテムを落とすのか……?


 やばい。

 早く確かめたい。


 ワクワクが、抑えられない――!


「マスター、これはなんだろうね?」


 ライムの手には血のように赤く滑らかな石。


「なにかの、鉱石かな。『レアドロップ』で出現したものなら特別な鉱石だとは思うけど……明日、専門家を訪ねてみよう。鍛冶屋とか」


「これは?」


「……牙? 魔物の牙かな。ライムはわからないのか?」


「ぜんぜん!」


 牙だけ見たってそりゃ分からんよな。

 これが魔物の牙だとしたら、やはり貴重だ。魔物は死んだら光となって消えるため、その肉体を持ち帰ることなんて不可能。

  これも明日、然るべきところで判断してもらう。


「マスター、これはー?」


「これはねー」


「マスター、あれはー?」


「あれはねー」


 それからもライムが不思議なアイテムを取り出しては、二人で一緒にどんな用途があるのかを考える。

 しかし、こうして誰かと一緒に和気あいあいとするのはいいもんだな……。相手が魔物であっても、こんな経験は今までしてこなかったから新鮮だ。『レアドロップ』アイテムを考察するのも、クセになる楽しさがある。


 もしかして、俺は今、幸せなのかもしれない。

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[良い点] 主人公の男性はとても優しいです [気になる点] 彼女の口は何でも隠すことができます! [一言] 素早いプロットのひねり
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