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5:脅迫

 受付嬢が悲痛に叫ぶ、冒険者ギルドの別室。

 こちらへ向かってくる複数の足音が聞こえてくる。駆け足だ。すぐにでもここの扉は開かれる。


 おもむろに、ライムは窓ガラスを破壊した。


「見つかるのは面倒だね。マスター、逃げるよ」


「待て!」


 俺の手を引くライムに静止を呼びかける。今にも外に飛び出さんとしていた青髪の閃光は、ピタリとその動作を止めて、俺に向き直ってくれた。


「どうしてさ? 早くしないと人間達が集まってくるよ」


「別に集まったっていいだろ。俺達にはちゃんと言い分がある。この大量の魔石を持ってきたのはあの受付にいた他の人達も見ていたはずだし、ここでのやり取りを正直に話せば分かってくれるさ」


 ふーんとライム。「僕は魔物だから、人間が集まればついつい殲滅したくなるんだけどね」とも。それだけはマジにやめてくれ。


「何事だ!」


 別室の扉はバンと開け放たれた。剣を持った男を筆頭に、ぞろぞろと扉の前に集結している。

 先頭の男が驚愕に目を見開く。


「なっ! 倒れているのはエルなのか!? 『武脚術キック』スキルの使い手が脚を折られるなんて……!?」


「あががが……い、痛い、こいつらが……こいつらがああ……!」


 エルと呼ばれた受付嬢は泣きながら俺達を指さして男に助けを求めていた。

 男は視線をこちらに向けて、たちまち困惑した表情になる。もう一度受付嬢を見て、俺たちを見る。またそれを繰り返す。


「……こりゃ、気が動転しているな。犯人はあの破壊された窓から逃げたんだな」


 え? いやここにいるんだが。


「違う、違うよぉ! こいつらだよ、早く殺してよおおお!」


「もう黙ってろ! お前が守った子供達だぞ!」


 なるほど、この男の頭の中では、俺達に受付嬢を倒せるわけがないと決めつけて、その可能性を排除したんだ。

 いるはずもない真犯人を作り出して、ちょうどライムが壊した窓から逃げたことにして、この受付嬢は俺達と俺達の財産であるこの二百個の魔石を守ったと。


 それがこの状況を理解するための落とし所ってことか。

 ……よし、わかった。


「そうなんです! エルさんがいなければ魔石は取られていたし、もしかしたら俺達は殺されていたかもしれない。……エルさん、本当にありがとうございました」


「は!? え、な、なに、なにを言って……!?」


 何を言ってるんだこのガキ。そう言いたげに口をパクパク動かすが、言葉になっていない。どうせ彼女が何を喋っても信じてもらえないだろうけど、喋れないならそっちのほうが都合がいい。

 いちいち訂正しながら話を進めるのは面倒だからな。


 ライムにも目を合わせて、俺に任せてくれとアイコンタクト。上着の裾を掴ませて、可憐な少女を演じさせる。ははっ犯人こいつなのにな。


 やってきた男もすっかり俺達を信用してうんうんと頷いていた。


「やっぱりそうか。で、犯人はどんな奴だった?」


「ごめんなさい。怖くて目をつぶっていたからわからなくて……」


「ふむ……。おい、エル。戦ったお前なら何か特徴がわかるだろう。どんな奴だ」


 質問対象が受付嬢に移る。俺はすぐにエルの元へ駆け寄って、彼女の言を封じることにした。


「エルさんも、俺達をかばって覆い被さってくれたから、顔は見てなかったよね」


「ちょ、ちが……」


「見てなかったよね……?」 


 ライムの手を彼女の脚にそっと置く。折れてない方だ。……まだ(・・)ね。俺としてはそんな酷いことにはならないでほしいんだけど……。


「……わ、私も……見て、なかった……です……」


 よかった。エルさんも同じ考えでいてくれたようだ。


「うむう……。お前ら! まだ怪しい奴が付近にいるかもしれん。外の警備にあたれ!」


 男は腕を組み唸ると、後ろに控えていた他の人達に指示を出した。彼は冒険者ギルドの中でも偉い立場なのだろう。誰も文句を言わずに、指示通りにこの場からはけていった。

 

 残るは男とエルさんと、俺とライム。

 こうなれば後はもう消化試合だ。ふう、一難去ったな。


「あの、助けていただいて本当にありがとうございました。ところで、この魔石を換金したいんですが、やっていただけますよね?」


「む、それは問題ないが……。なるほどな、確かに子供が二人で、これほどの魔石を持っていたんじゃ、下衆げすに目をつけられるわけだ。お前達、災難だったな」


 目をつけた下衆は、この発言をどう思って聞いてるんだろうなあ。エルさん?

 ……痛みに悶えるので忙しいみたいだ。


 そうだな、このまま痛みのあまり、どうしてこんな悲惨な結果になったのかを忘れられては困るな。


「よければ魔石の換金額の半分を、ぜひエルさんの治療費にあててほしいですが」


「うぐぐ……って、え!?」


 悶ていたエルさんもこれには思わず目が丸い。


「本当か! それはギルドとしてもありがたいが、お前達はそれでいいのか? お使いで来たんだろう?」


「はい、でもいいんです。受けた恩は返すというのが家訓ですので。……エルさん、あなたの事は、一生忘れません」


「ひっ!」


 よしよし。これで俺達の存在をしっかり心に植え付けたかな。……ぜひとも、今日ここで受けた恩をいずれ返してほしいものだ。


 いろいろあったが、これにて無事に換金を済ませ、総額で四十万ロキスとなった。

 見たこともない大金だ……。


 そのうち二十万ロキスをエルさんの治療費としてギルドに寄付して、それでもこれだけ手元に残るのか……。


 家、マジで出てよかった。

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