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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

神々の異世界転生

作者: gaea













 唐突だが。


 俺、アルデノーアの管理する時間軸の世界、第7684周期世界は、終わりを告げた。




 本当に唐突だな、と思うが、これは事実であり、起きてしまった以上どうにもすることができない事なのだ。






 俺は第7684周期世界が終わってしまえば、もう俺にできることなどない。



 世界を運営させるのが俺なだけであり、世界修復業者とかではないし、世界のリサイクルは専門外だ。




 ほら、鉛筆は使えても鉛筆を作ることができない人とか、そういうニュアンスで捉えていただきたい。







 と、管轄する世界を失った俺は、実のところやることがない。




 自分の働き口がなくなった感じ。


 いわゆるニートだ。





 まぁ、神は腹とか減らないし娯楽もほとんど自分で用意できるから働いて稼ぐ必要もないんだけどね?







 だから、一仕事終えた俺はもうそろそろ休暇に入ろうと考えたのだ。



 だが、神の世には、《神々の円卓(ゴッズ・ジャッジ)》という、会議のようなものがある。



 そこで一定時期にこれからの神の世の方針を決めたり、新たな世界を生み出して与えたりするのだが。





 そこに俺がいると、俺にも世界が与えられてしまう………。






「と言うことでさ。お願い!アンタの世界に転生させて!!」



「…………なんでワイなんや、アルデノーア………………」



 俺からのお願いを聞いて、思わず関西弁(風の口調)になってしまった女神 テネシウス。




 草の冠にちょっと花を足した感じの輪を頭に乗せた、黒髪ロングの(自称)美少女だ。


 翼はちょっと気持ち程度に生えている感じで、服は一応白い布。



 まぁ、胸がデカいって言う唯一の特徴も付け足しておいてやろう。





「それで私がバレたら不順異性神交友で私まで危ないっちゅーねん!」



「なんか最後に関西弁っぽいのつければ怒ってる風になるって言い方やめろよ!」



「じゃあさっきのモノローグの『胸がデカいのが唯一の特徴』とか言う部分消せぇーーー!!」





「勝手に他人の思考を見るなぁ!それに事実だし!!」





 ちょっとした追いかけっこの後、話をちゃんと聞いてくれると約束してくれるまで話を持って行けた。


 やったぜ。












 ☆☆☆





「つまり、何?働きたくないから転生させてくれって?」



「単刀直入に言うと、そう」( ̄ー ̄*)オメメキラリ





「『オメメキラリ』じゃねぇよ!」



 座っていた椅子から急に立ち上がり、目の前の机をバンッ!って感じで叩く。




「別に働かなくても生きていける体なんだから良いじゃん!!」


「ぐぬぬ、さすが新入りだな。感性が人間寄りだ」




「お前と同期だろ、新入り」


「新入り言うな!アンタは私達とは出世が違うでしょ?」






「………その話、あんましないで欲しいって言ったんだけどな」


「それは………ゴメン」





 気まずい雰囲気が流れる。




 ん〜。


 まぁ、別に怒ってないからそこまで落ち込む必要はないんだけどね?





「………ホントに?」





「お前、また心読んだろ」


「ごめんってぇ」







 一帯が暖かい雰囲気に包まれていく。



 よかった、あんなに気にしてるとは思わなかったし。








「ってことで、転生、お願いできますか?」



「だーめっ!」





 目の前まで顔を近づけて否定してくる。




「お願いだよおおぉ!!ちょっとだけで良いからさぁ!!」



「そんな泣き付かないで!やるとしても一人で!私は巻き込まれたくないんだって!!」





「俺が勝手に入っていくだけだからさぁ!大丈夫だよぉ!」



「で、でも………」





「あ、転生特典は付けてね」


「あーもーぜってー転生とかさせない」












 もはやそっぽを向いて何の話も聞かない態度を取ってしまった。





 もうこうなって終えば最終手段を使うしかない。



「じゃあお前、そこまで俺の頼みを否定するんだったら、これをどう使われても問題ないな?」





 見せたのは一枚の写真。


 そこには、いつも冷静で完璧であろうとしているテネシウスの、ゲテモノ料理と共に写っている姿があった。





「〜〜〜〜〜っ!!!はぁあああぁあぁぁあ!!!!返せ!この外道!!!」




 テネシウスは顔を真っ赤にして写真を取り返そうとする。






「最近はちょっと抜けてるところがある方がモテると思うぞ?」




「うっさいわハゲェ!!()()()()に好かれても迷惑だってんのよ!!!」



「いやちょっと待て。今、なんと?」








 アイツ、他のやつって言ったよな?





 アイツ、彼氏居たっけ?



 そう思ってたら彼女は顔を真っ赤にしてこっちを見ていた。






「え、え?テネシウスさんもしかして………俺が居ない間にお幸せになってたり?」







「ま、まだ彼氏じゃないもん!まだ好きってだけだし!!」




「ほほうぅ!?じゃあいるんだな!?教えて教えて!!!」



「お、教えない!………って言うか……目の前にいるんだけど…………………」





 普通の主人公ならば、空気を読んで聞こえない耳になっているのだろうが。




 やはり、さすが神というべきか。





「ばっっっっっっっちり聞こえたわ………」




 そういうと、テネシウスは顔をボンと真っ赤にして、同じ空間から俺を念力(?)追い出した。






 ちなみに、ここは神が生活する、人の世界とは隔絶した、神の世と人の世の間にある概念的異空間なのだが。






 そこにある出入り口は二つ。



 一つは、その概念的異空間と神の世をつなげる扉。


 そしてもう一つは、その神が管理している世界への扉だ。










 こんな説明を今更したということは、もはやお気付きだろう。






 俺は、テネシウスが管理している世界側の扉へと追い出された。





「やったぁ……まじかぁ………………」




 人の世での新たな身体になるために、自身の意識が薄れていく。






 こうして、俺は労せずして異世界転生することができたのであった。
















 ☆☆☆









「はぁ〜〜〜〜〜やっちゃったやっちゃったああぁぁぁぁ〜〜〜〜……………」





 テネシウスは、今後悔している。



 なぜって?


 そりゃあ………。







「あんなムードもへったくれもないところで告白なんて………公開処刑じゃん……………………」




 自身の秘めたるキモチがそれを向ける相手にカミングアウトであればよもや気絶寸止めでありけり。





 っとと、なんかすごい怪文書になってしまった。



「吸って〜、吐いて〜……深呼吸深呼吸……………」




 よしっ!落ち着いてきた!


 今度また弁明の機会を作って謝ろう……。







「やだやだぁ……。もう恥ずかしすぎて会いたくないんだけどぉ………」







 と、頭を抱えていると、扉を叩く音が聞こえてきた。




 もう一度深呼吸して、仕事モードのスイッチを入れる。



「入りなさい」


「ハッ!」




 扉を礼儀正しく開け、入ってきたのは一人の天使であった。



「報告させていただきます」


「良いだろう」






 書類をめくって報告を始める。



 この天使は、テネシウス直属の部下であり、古くから苦楽を共にしてきた古参の上級天使である。








 しばらく報告を聞いていると、少し気になる名前が出た。




「そして、テネシウス様。アルデノーア様に関してですが…………」



 肩がびくりとなる。


 ちょっとさっきの強引に外に出したこと……怒ってるかなぁ…………。




 うう……謝っておきたい……………。






「アルデノーアが、どうした?」




「それが………アルデノーア様の管轄の世界が終わりを告げたらしく、それに伴い、アルデノーア様のこれからをどう扱うかを《神々の円卓(ゴッズ・ジャッジ)》で判断するらしいのです」




 案外、《神々の円卓(ゴッズ・ジャッジ)》が始まるのが早かったな……。




 ちゃんと仕事さえ貰えば、彼だって気合いを入れて働いてくれるはずだ。




 そりゃあもちろん、私の世界に来て欲しかったし。


 そりゃあもちろん、管理する世界貰っちゃ会う頻度少なくなっちゃうから管理してほしくないけど!!






 でも………、私情で働かなければいけない立場の人間を転生させるというのはちょっと規則に反しそうというか………………。





「ほう。それはわかった。そして?出席しろと言うのか?」



「いえ、アルデノーア様がどこにいるかご存知ですか?」


「……………へ?先刻、私の部屋に来訪し、私が追い出したが、扉の前にいなかったか?」





「ええ。テネシウス様の部屋の前には誰一人としていませんでしたが」


「おかしいな。お前がくる直前に追い出したハズなのだからすれ違うハズなのだが…………」










 ふと、ある可能性を思いつき、部下の方を見た。



 部下も、それを察したのか焦りだし、急いで目の前にいる女神に問いただした。






「テネシウス様。もしかして、追い出した先って………」



「うん。この流れだと多分………私の世界に……」














 葬式のような沈黙がこの空間に流れ、ずーんと落ち込んだ二人は最高神に怒られない策を考え出すのであった。






 ちなみに、テネシウスは内心ちょっと喜んでいた。













 ☆☆☆







 カミサマの不思議パワーにより、異世界に身体が生成され、やがて19歳前後の男が完成していた。




 ゆっくりと瞼を開き、意識を覚醒させる。



「………ここは…?」







 テネシウスのこの世界は、テネシウスの実験の果てに、動物や植物が凶暴化し、人はそれから身を守るために進化していた。



 人の自衛本能を高めるためであるのと、人の姿でどこまで進化できるのかを見たかったからである。





 そして、人の進化の途中、更に人が有利になるような研究が進められた。



 その研究は、人に従う動物や植物を作る研究だった。







 まぁ、サクサク言ってしまうと、それをテネシウスが失敗させ、失敗作のなんかすごい怪物をこの世界に放出した。






 凶暴化した動植物である、魔獣。



 そして、研究の失敗作でできた、魔物。



 人々は進化し、人の姿での最高地点に到達したらしい。





 俺がテネシウスを頼ったのもそれが原因だ。




 テネシウスの世界の人間は最強の人種だ。




 それであれば、神の隠れ蓑に最適だ。




 立ち上がって、伸びをする。





「んぅ〜〜〜!いやぁ、まさか本当にこの世界に入れるとは思わなかったよ!ありがとー!テネシウスー!愛してるぜー!」




 このままだとテネシウスが頑張って完璧キャラを作ってるのもそのうちバレるだろう。



 そういえば俺に向けるようなラフな態度も俺以外に向けていたところを見たことなかったな。





 まぁ、あと数十年経ってこの世界で俺が死んだらテネシウスと付き合ってみるかなー。


 俺も結構ドキドキしてるから、ちょっと頭冷やす時間欲しいかもしれない。





 立ち上がってわかったが、俺は崖の上の木に寝ていたらしい。



 なんか、起きて周りを見回したら落ちそうになった。



 手元にあるのは、一冊の本。





「これも転生先でちゃんと使えるか確認しておかないとな」




 ちょっと覗き見した感じでは、この世界の人間たちはかなり神に近づいていた。



 魔法を使ったり、人が生きていくための行動を一部省いたり等、一人前の神でもこの世界からは学べることがあると言うほどだ。








 俺も、ここは一回来てみたかったところだ。




「この本もあるなら、この崖はとんでも大丈夫そうだな」



 そう言うと、アルデノーアは崖から飛び込んで下にある森に一直線に降りた。






「安心しろよテネシウス!そこまで大暴れする気もないからさぁ─────!!!」




 そう言うと、森に轟音を鳴らしながら着地した。











 ☆☆☆






 一方、《神々の円卓(ゴッズ・ジャッジ)》では。




「では、貴殿の失態によりアルデノーアは転生したと」


「お恥ずかしい限りです。申し訳ありません」





「よい。その程度のこと、誰にでもあることだ。それに、アルデノーアの疲労を考えなかった余も余だ。これからも精進せなばなるまい」




「では、アルデノーアの処遇は………」



「そこは変わらぬ。彼には皆よりも早く神の世に順応してもらわなばならない」












「彼は、派遣した天使、神々にやって連れ戻す」



「そう………ですか…………………」





 目を伏せてしまう。



 また、()()()()()()()を目にする時が近くなると思うと胸が痛くなる。



 これは、確信や、そう言った類のものではなく、必然。






 となれば私は………。













「であれば、私はこの件から下させていただきます」



「ほう?最近妙に奴と仲が良かったから、その情けか?」






「まぁ、それに近いものです。私は彼の味方に付きます。では」






 テネシウスはそれだけ言うと、席を外し《神々の円卓(ゴッズ・ジャッジ)》から姿を消した。













「最高神様?これも、想定内ですよね?」


「ああ。余の思考には一片の狂いすらない。安心したまえ」





「では、次の議題に入らせていただきます……………」






 《神々の円卓(ゴッズ・ジャッジ)》は、まだまだ続くのであった。









 ☆☆☆

















「おおおぉぉ〜〜〜〜……………」



 アルデノーアは、あの崖から一番近い街へと移動していた。





 あの本は自身の陰の中に魔術でしまっておいた。



 さすがに、テネシウス以外の神に秘密にしてある、とある禁書をここで見せびらかすのはさすがに危険すぎる。




 そうなれば、せっかくのスローライフが楽しめない。








 これほど人が多いとは思ってもみなかったが、スローライフを送るために、穏和で何事もなさそうな村をを探すために、情報収集から始めるとしよう。





 穏和な村で、外との交易がなくても自立していける村で、最低側の冒険者が必要なところ。





 どっかちょうどいいところ…………。



『あるわよっ!』


「っ!!」






 っと、びっくりしたぁ〜。





『急にテレパシーを送ってくるのは心臓に悪いからやめてくれ。で、頭も冷えてきたのか?』









『ああ!!そういえば自爆したんだったぁ………』





 ズーン、と落ち込むような効果音と共に声がフェードアウトしていった。










『てか、いやいやいや待て待て待て待て!!なんか報告あったんじゃないのか!?』





『うぅぅ……わかったよぉ〜』




 テネシウスを引き留めて話を聞くことに成功。








『実はさっき《神々の円卓(ゴッズ・ジャッジ)》に出席してきてさぁ〜』



『いや、《神々の円卓(ゴッズ・ジャッジ)》始まるの早すぎない?』



『だよねぇ〜。私が追い出した数秒後に案内きたよ?』





『で?その議題での結論は?』



『神の世に順応してもらうために当分は人の世との関わりを減らしたいから連れ戻すってさ』




『ほえぇ。センキュセンキュ。これから神様がやってくるってわかってる時点でこっちの勝ちみたいなもんだわ』












『アルデノーア?』


『ん?なんだよ』






『いくら強いからって、前みたいなことは起こさないでよ?』




『あ〜〜。え〜〜〜っと、はい………………………』




 彼女も言った通り、俺は強い。



 神の中でも別格、最高神と戦っても同等レベルの実力を持っている。





 ここで昔話でもさせてもらおうか。





















 ()()()()()()()の話だ。


















 ★★★






















 ()()()の神、アルデノーア。






 神殺しを達成し、神へ昇格した男。







 神へとなるには、天使から始め、上級天使、小神。



 そして、世界を一つだけでも複数の小神で運営しきれば、その中の小神のMVPの一人が神となる。








 そういったプロセスを全て飛ばし、神を殺したのみで神となった男である。






 人のみでありながら身体能力は神を超越し、使う魔術は神の使う『魔法』に等しい世界への干渉力を持つ。





 どの世界を見ても今までに類を見ない、人類最強の一般人が、友のために軽々と神を殺した。


 その流れで、死後、全盛期の状態で神へと昇格させられた魂の概念が、アルデノーアであった。





 残酷な程最強な彼に軽々と殺された神の名は、ザウス。






 テネシウスの父にあたる神であった。












 ★★★










「てねしうす。どうして、てねしうすには、つばさがあって、ぼくには、つばさがないの?」



「えっとね、それはね、おとうさんがね、わたしは、てんし?で、あるでのーあくんが、にんげん?だからなんだって!」




「へぇ〜!てねしうす、ものしりだね!」


「えへへ、でしょ!」









 天使と遊ぶ人には幸福があるらしい。



 いつかは忘れたが、そんな伝承を聞いたことがある。






 天使っていうのは神様候補も同然だし、俺と一緒に遊ぶ暇なんてなかったハズだ。



 だが、テネシウスはいつも遊びに来てくれた。







 天使の成長は、19歳ごろで止まる。





 身体の中やアルコールへの耐性などは育っていくのに対し、身長や見た目など、19歳になればほとんど変わらなくなる。




 だから、おじいさんの見た目をした天使は何十世紀も生きてきた長老だし、天使や神が新しい天使を産む周期もかなり長い。




 人の一生など一瞬である。







 だからこそ、テネシウスとアルデノーアの出会いは珍しいことだったのだ。














 そこから、人間の文化を学ぶために人の世に数回降りてきてアルデノーアと遊んでいた。








「テネシウス!遊ぼ!」


「………わかったわ。何して遊びましょうか」


「もしかしてテネシウス………クールぶってる?」


「うっ、うっさいわね!」






「このウスノロ!早くしてよ!早くしないとお父さんに帰ってこいって言われちゃう!!」


「これが限界なんだよ!このスポーツ系天使が!」


「嬉しいこと言ってくれるじゃない!!」






「ねぇ、アルデノーア。私、もしかしたら貴方のことが………」


「ん?どうした?なんかあったか?」


「………なんでもないわ」


「……そっか」











 月日は流れ、両者19歳となった。




「俺らもう19歳だよ」


「私からしたら、まだ19歳よ。天使からしたらまだまだお子ちゃまだもの」


「そういえばお前は、いつの間にかクールキャラになろうとしてるよな。前みたいに無邪気さがあっても可愛げがあると思うぜ」


「可愛げっ………。えぇ、そうかもしれないわね。考えておくわ」







 いつもと同じように、他愛もない会話をしながら空を見上げていた。




「ねぇ、私が自分の世界を持った時、貴方が生きてたら、私の世界に招待してあげるわ」







「えぇ〜、それはやだなぁ」


「っ……なんで?」






「だってそんなことしたら──────」











 この後言ってくれた言葉をよく覚えている。





 だって、これが──────────。








 私と彼の、最後の言葉だったから。






「え」



 先に声を上げたのは、アルデノーアだった。






 それは、私が。











 背後にいた父、ザウスに。



















 牙で貫かれて連れて行かれたからだった。








 ★★★
















 そこから、彼がどのような人生を辿ってきたのか、私は知らない。




 情けない話、私たち母娘は父から虐待を受け、好き勝手に扱われた。




 曰く、『部下が使い物にならない』だの、『上司が俺の有効性を理解しない』だの、私たちには関係のないことを私たちのせいのように、父は母娘をストレス発散の道具として使った。












 もう耐えきれなくなった頃、彼が来てくれた。




 それは、10年後の、29歳の時である。











「やっと見つけた」




 人の身であれば一生をかけても行けないとされる神の世に、初めて人間が入ったのだ。




 久しぶりに私を見て、無闇に傷を心配したりせず、




「お前、全く変わってねぇじゃん」




 と笑いかけてくれた。



 それが、私にとって一番心が楽になることだった。







 そして、今まで私や母に暴行を振るってきた父向き直り、鬼の形相で向かい合った。










「お前を見つけた時、怒りが込み上げたよ」





「たまにしか会えなくとも、親友だったんだ。実の娘である彼女を俺の目の前で刺し、今まで幾度となく暴行に及んだ。それは、許されるべきことではないはずだ」








「…………それがどうした。私は貴様のような愚かな人類とはかけ離れている、神なのだぞ。貴様に勝てるはずがなかろう」





 父が戦闘準備を始め、アルデノーアも構えを取る。








「愚かだな。ヒーローを気取り、私に殺されにくるとは」



「愚かはどっちかな。お前は、『誰かのために怒る』ということをしてこなかっただろう。その強さが、今にわかる」





 両者構えをとる。




 ザウスは、何があっても突き進めるように突進の構えをして、アルデノーアは、禁書を浮遊させて詠唱の構えをとっていた。






「たかが禁書ごときで、私に勝てると思ったか!!!つくづく!愚かなり!!!」




 ザウスは突進を始めた。



 瞬時に音速を超え、目にも止まらぬ速さで牙が襲いかかる。



 それに対し、アルデノーアは禁書を悠々と構え、一言つぶやいた。









失われた賢者(ロスト・ワイズ)




 禁書が開き、魔力が解放され、中から大量のページが散乱する。









 ザウスも魔力の圧に負け、立ち止まってしまった。




「………なんなんだよ、アレ………」






 禁書、《失われた賢者(ロスト・ワイズ)》。


 生物の魂を取り込み、一体につき一発、魔法を放つことができる禁書だ。





 禁書に指定されている理由は4つ。





 一つ目は、先ほども言った通り、一発につき生物の魂を一体消費しなければならないこと。




 二つ目は、魂を使ったとしても強すぎる、規格外の威力だ。




 三つ目は、大量の魔力を消費し、神でさえ迂闊に使えば干からびて死ぬことがあることだ。




 そして四つ目は、14の化け物が、この禁書一冊に封じ込められているからだ。


 大罪の悪魔と、美徳の天使がそれぞれ7体。



 一体につき、全力を出せば世界を滅ぼす直前まで行けるほどの力だ。








 アルデノーアは、10年であの禁書を使いこなすまで至り、人類最強となったのだ。







「そ、そんな………。人類に、神が負けるなど……………あっては……なら、ない………………」





 絶望を受けるザウスを目に止めず、彼は一つ、魔法の名前を詠唱した。





『秘匿の錠前』




 その瞬間、ザウスの()()が封印され、物言わぬ人形へと成り果てた。




 それに構わず、彼は続けて詠唱する。







『隠された旋律』


『虚無の円卓』


『失望の風』


『本物の偽善者』


『最後の鬼門』


『欺瞞の音』






 次々と呪文を詠唱していくが、何が起きているのかは何一つわからなかった。






 全てを封印されたザウスは、何一つ動けなかったからだ。




 ザウスはとうとう、塵へと変化していき、跡形すらも無くなっていった。











 彼は、私たちの方へと向き直り、笑いかけた。






「終わったよ。テネシウス」





「………待ってた」














 二人の親友の10年ぶりの再会に、心から嬉しそうに抱き合った。





















 ☆☆☆














 人間時代の思い出っていうのはかなり古いものだ。



 懐かしいなぁ〜。






 まぁ、ザウスが倒された後、テネシウスが小神となり、俺が老衰で死に、テネシウスと共に神へと昇格されたことは、また別の話だ。





 あ、禁書のことについてだが。


 自分が管理していた世界の魂も適応できたため、丁寧に供養して精神が転生した後、魂を取り込んでおいた。



 結果、ほぼ尽きない程の魂が溜まっていた。

 なんか、もはや魂に申し訳なくなってきてしまうが、今更だ。






 街で手に入れた情報から、何からも離れた閉ざされた秘境を紹介され、ウッキウキでスローライフのための立地へと向かっていたら、空から声が聞こえた。





「ういやあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 まさかなぁ。


 僕みたいに転生してきたわけじゃあるまいし………。







ガンッ!



 ちゃんと、頭から落ちてきた。


 俺の頭に、一直線で。






 普通に痛い。




 いや、カッコつけてる場合じゃない!


 普通に生命に関わるほど痛い!!






 いや待って真面目な方で痛い痛い痛い痛い!!!!












「うっさい!私の方が痛いんだからそっちも気にかけなさいよ!!」



「ぜっったいこっちの方が痛い!ってか心読むなや!!」








「「…………………ん?」」



 落ちてきた人と、当たった人。





 二人して顔を見合わせる。






「アルデノーア…………?」



「っおまえ、テネシウスか………?」









 さっきまで念話をしていた人(神)とばったり再会。




 こんな早い再会だとは思ってなかったな。







「なんでこんなとこにいんだよ!」



「だって……神の世(あんなとこ)いたら私気まずすぎて死んじゃうよ!」


「だからって泣きつくためだけに自分の管理する世界に易々と入ってくんなや!宗教問題起きるぞ!!」









 こんな簡単にこの世界入ってもいいのか!?





「だって、《神々の円卓(ゴッズ・ジャッジ)》ではアンタの味方私以外一人もいなかったから心配でさー」




「お前、そういうところで自分の主張貫けるのは神経図太くていいよな」


「私がアンタ裏切ると思われてたのが心外だわ」






 …………そういえば、テネシウスだけって言ったな。






「なぁ、もしかしてお前…………」





「はい。考えている通り、最高神様と敵対関係となりました☆」



「ばかやろおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」









 この絶叫の後、彼らを狙う神の刺客が何体も襲ってくるのだが、それはまた別の話…………。















 ☆☆☆











 街の情報はかなり正確だったようだ。



 この村は変わり映えがなく、いつまでも平穏が続いていた。





 この村に来た時、村人たちはここまでの道のりが険しいこと踏まえてすごく心配しながら俺たちを迎え入れてくれた。




 その恩に報いるためにも、告白してきたテネシウスと同棲をしながらもなんでも屋をしていた。





 人に馴染むためお互い、テネシウスは『テーネ』、アルデノーアは『アルデ』と呼ぶことにした。





 そして、それから10年以上経過した。









 子守りや遊び相手、ちょっとした工事の手伝いや魔獣の迎撃も頼まれていてもう毎日充実中だ。







 まぁ、俺たちが神なだけあり、神の世からのトラブルがかなり多かったからそっちの対応にも追われるわけだ。





 トラブルといえば、たとえば…………。









「せんぱ〜い!この野菜こっち置いとくっすよ!」


「先輩先輩って!俺よりお前の方が職歴長いだろうが!!馬鹿にされてるようにしか聞こえねぇんだよ!!」


「尊敬してますってぇ。ほら、後もうちょっと頑張ってくださいね?セ・ン・パ・イ?」


「くそウゼェ………」






「しぇんぱぁい……これどこでしゅかあぁ…………」



「何回も先輩と呼ぶなって………って、そっちは沙織か。それは倉庫のゴミ箱入れといてくれ」









 なんか増えてね?っと思った人もいるだろう。




 実際、増えた。







 俺よりも早く生まれて俺より遅く小神になった彩芽と、自称最年少の小神である沙織だ。




 二人とも俺への刺客として送られた小神だったが、彩芽は禁書をチラつかせた瞬間に卒倒し、沙織は自称最年少小神のプライドをバッキバキにした。





 そうしたら、なぜか二人からかなり付き纏われるようになった。


 いつまで経っても離れないから、『そこまで強さに興味があるなら俺たちと村の手伝いをしろ』と言い、承諾を得たことでこの現状が成立している。







「そんな禁書、どこで手に入れたんですか?」










「え?作ったんだよ?」





「「「…………え?」」」












 小神二人組はともかく、テーネまで知らなかったようだ。





「これは俺が作った禁書で、魂の練り方や属性の変え方などで最も効率のいい魔法を簡単に撃てるように作ったのが禁書」



「ほ、ほへえぇ……そんなこともできたんですね、アルデ様」





「さっすが先輩、禁書を魔法を簡単に打つための道具ってハッキリ言っちゃうもんなぁ」




「だってその気になれば禁書使わずとも同じレベルの魔法撃てるし」



「そんなことできる人、そうそういないんでしゅよ………」







 正直言って、禁書とは名ばかりであり、そこまで重く捉える必要もない。


 俺の魔法がちょっと簡単にできるよーってだけなんだからね。








「そういえば、禁書目的で俺らを襲う奴もいたよなぁ」




「そういう奴って普通お目当てのものよりも程度が低いですからねぇ」








 沙織も似たような目に遭っているからちょっと青ざめてガクブルしている。






「大丈夫だよ、沙織。今は俺たちを手伝ってくれてるんだ。俺の部下として置いときたいぐらいだよ」





「す、捨てないですか………?」


「捨てるわけないだろ!?!?」






 沙織は地雷臭がプンプンする!


 彩芽はメスガキ感半端ない!!




 でも、二人とも仕事はちゃんとやってくれるし、俺らの望むスローライフにも近づいている。








 だから、この平穏のまま、飽きるまでこの世界を堪能していきたい。









「ねぇ。私たち、式挙げたくない?」



「まだ付き合ってる段階だろ?早すぎるって」






 テネシウスが猫撫で声で聞いてくる。




 式、か。








 俺らは神なんだから、式は神の世で挙げたほうがいいだろう。




「だから、式()ダメだ」




「ぶぅー、ケチー」




「だから、さ」


「?」









 片膝をつけ、指輪を差し出しす。





「婚約だけでも、しちゃおうか」



「…………はい♡」











 スローライフを送るために人の世界に転生したら、神の嫁ができました。










自分ではかなり無理やり終わらせてしまって説明不十分なところがあると思っているので、気になるところがあったら遠慮なく言ってもらえれば幸いです。




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