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第二章 側仕え

 まず、復讐するには何が必要か。

 家を潰すには何が必要か。

 壊れた場合、わたくしだけが助けるようにしなければ。

 ……あら? この夕には、兄もいるんでしたっけ。

 夕の記憶にはほとんど残っていなくて、顔すらも分からない。

 でもこの夕は、そこまで悪い印象を持っていない。

 ……放っておいておりますのに、なぜでしょう?

 こんな可哀想な夕を置いておくなんて、なんて酷い兄だろう。それとも、助けられない理由があったのか。

 ……まあ、いいですわ。とりあえず兄のことは忘れましょう。家を潰すことを第一に考えた方が良いですわ。

 私の頬にはまだ叩かれた後が残っている。

 女性の顔をこのように叩くのはなんて無作法なのだろう。

 ……許しませんわ。

 別に痛くて恨んでいるわけではない。いや、むしろ痛くない。強がりなどではなくて。

 ただ、美しくない。

 美しくないものは、許さない。

 全部、わたくしが治して差し上げなければ。


 とりあえずわたくしは、母親を潰すことにした。

 母親(第一夫人)が恥をかけば、父親(当主)が恥をかくのは当然のこと、桜良もしばらくは動きにくくなるはずだ。

 しかし、ここで問題が。

 

 ここの母親は、わたくしに対する行いは卑劣としても、社交界ではかなり上級者なのだった。

 ……わたくしが何かを言っても信じてもらえるはずがありませんし……。

 しばし考える。

 しばらく考えると、いい考えが浮かんできた。


「なかなかこの潰し方、華麗ではなくって?」



「お嬢様……一体何をなされるので……」

「ふふっ、大したことではなくってよ。とりあえず貴方達、わたくしの髪を結ってくださる? 服も準備してくださいませ」

「えっ……? 何処かに出かけるのですか? あ、でもそんなことしたら奥様が……」

「あら。貴方は誰の側仕えなの? お義母様のことなんてどうでも良いではありませんか。ね?」


 早く準備しろ、と目を向ける。


「は、はい……」


 ここでわたくしは見落としていた。

 この家の面倒くさいルールを。

 わたくしが何かを言ったとしても、揺るがないものを。



「あの馬鹿が外に行くですって? そんなの許すはずがないでしょう。貴方は何をしているのです? 早く止めてきていらっしゃいな」

「かしこまりました」


 夕の側仕えである女性は、薫に礼をして部屋を出る。

 そして夕に出迎えの許可が出なかったと報告したのだった。


 そう。この家は当主を覗いて二番目に偉いのは第一夫人。つまり、薫。

 そのことをすっかり忘れていたわたくしは、心の中で軽蔑の笑いを浮かべた。

 ……愚かな第一夫人に従うなんて、従う方も愚かですわね。復讐が終わった後にこの側仕えも少し潰させてもらいましょうか。


「……それで貴方はここにいらしたの?」

「は? はい」


 わけが分からないと言うように側仕えは頷く。


「わたくしの側仕えなのに、わたくしの命令なく別のところに報告に行ってまたわたくしに戻ってくるといいますの? なんて可哀想なことでしょう。わたくしの側仕えにはなりたくなかったのに、わたくしの側仕えで居てくれたのですね。よろしいですわ。今日この日、貴方をわたくしの側仕えから解雇し、お義母のところに向かうことを許しますわ」

「な、何を!?」


 ……間違えてしまいましたわ。きちんと家を潰してからこの方も潰すと決めていたのに。

 間違えて、もうこの人を潰してしまった。

 しかし言ってしまったものは仕方がない。


「さあ、ここから出ていきなさいな」


 そう言ってドアを開ける。


「貴方の居場所はここではなくてよ」

「……っ!! 突然なんなのですか!? お嬢様が外に出るならば、貴方様のお義母様に報告するのは当たり前のことでしょう!! そんなことも分からないのですか、まあ、そうですよね。お嬢様は罪深い方の娘なのですから!」

「……」

「どうしました? やっと自分の言っていることが分かりましたか?」


 ……ん? この方は大馬鹿なのでしょうか?

 まあ、有難く使わせて頂く。


「……貴方こそ、自分の言ったことを振り返ってみなさいな。……貴方には、神代家長女に対して不敬を行なったとして、この家から出ていってもらいます」

「なっ……!?」


 当然の報いだ。

 この夕は、たとえ母が亡くなり異母が権力を持っていたとしても、建前は神代家長女。

 これは決して揺るがない。

 

「そんなことっ! 奥様に言えば何も起こりませんわ。ふっ、私をこの家から出ていかせることなんて出来やしないのよ」

「お義母様は、社交界にお強い方です。……例えわたくしが言って影響力がなくても、少しでも噂が流れればどうでしょうね? 多忙なお義母様は噂を消してまで貴方を助けるでしょうか?」


 ここで良いことか悪いことか判別がしにくいが、お義母様は多忙だ。

 つまり、それほど仕事を任されているということ。


「たす……助けてもらえますわよ」

「結構な自信家なのですね。まあ、それは試してみては良いでしょう。自信がお在りなら、そこで大人しく待っていてくださいませ」


 ……まずは最初の復讐ですわね。

 わたくしを侮辱し、側仕えのくせに不敬を働いたこと、許さない。

 彼女はよほど自信があるのか、ふんっ、とこちらを見ていた。


 



読んでくださり、ありがとうございます。

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