第一章 決意
わたくしが目覚めた場所は、陰気のある、薄暗い汚い部屋。
……ここはどこですの?
なんだか体がところどころ痛い。
「あら、やっと目を覚ましましたの? いっそ、目を覚まさなければよかったのに」
軽蔑するような醜い声が私の耳に流れ込んできた。
……醜いものは体に悪いですわ。
ましたはそれが人間となると、気色が悪い。
そしてそれがいい年の女性だと分かると、目眩がしてくる。
「貴方は……誰ですの?」
「……あら、恩人の顔すらも忘れてしまったの? 愚かな子。これだから、あんたは!!」
そう言うと、思いっきり頬を叩かれる。
バン! という鈍い音が聞こえた。
「ふふっ、いい気味」
わたくしが呆然としていると、そんなわたくしを見て苛ついたように眉をひそめる。
「何よ、つまらない反応ね。泣きじゃくりなさいよ!」
「ふふっ、お母様。きっと怯えて動けないのですわ。それぐらいにしといてはどうです?」
「なんて優しいの、わたくしの娘は!……それに比べて貴方はなんて愚かで恐ろしい子なのかしら」
「なにを言って……」
困惑で傾げてしまう。
愚かで恐ろしいという表現も理解できないが、そもそも、この女性はわたくしに対して何を言っているのだろう。
自分が着ている服を確認すると、薄汚い布切れのようなものだった。
……わたくしはなぜ、このような服を着ているのです? 醜いではありませんか。
確かに、これは罵倒されても仕方がないのかもしれない。
醜ければ、罵倒される。相手にされない。失望される。
美しければ、褒められる。相手にされる。羨望の眼差しを受ける。
わたくしは今、醜い。とても。
信じられない思いでいると、わたくしの頭の中で記憶というようなものが流れ込んできた。
……これは……一体……。
結論から言うと、天才魔法士と崇められていたたわたくしは死んだらしい。でなければ、この状態は有り得ない。
とりあえず、今のわたくしは『神代夕』という少女であるということ。その少女は気が弱く、虐められている。
正確に言うと、気が弱いからこそ、虐めが酷くなった。
この神代夕は神代家の長女で、亡き正妻の娘だ。
そして、今この神代家の第二の権力を握るのが、後妻の神代薫。第三としては薫の娘である次女の桜良。
桜良は、小さい頃から甘やかされたことで、性格は最悪。我儘の我儘を超えた超我儘娘らしい。
父親は夕に無関心もいいところ。夕を助けないし、逆に虐めている母親妹のことを褒めて、期待していると言う。
……虐める方はもちろん悪い。だけれど、虐められるほうにも問題はあるというもの。どこを直せばいいのかしら?
考えるが、何も出てこない。
この娘は、欠点という欠点がなかった。強いていうならば、内気なところ。
しかしその内気もよく言えば謙虚。
夕は、頭が良いし、運動神経も良いようだった。言葉遣いも綺麗だし、まさに貴族というもの。
……それなのに虐めるなんて、なんて愚かなのかしら。……いえ、わたくしが夕でしたわね。
他人事ではない。
この夕は、美しい。
美しい者は常に正しい。
……でしたら、答えは一つですわね。
——この家を、潰す。
美しく、華麗に。
わたくしはこの日、決意をした。
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