1話
…体が痛い。
意識が浮上して最初に感じたのは、全身に広がる鈍い痛みだった。
なんで?どうして?という疑問が頭に浮かんでくるが、その痛みとぼーっとした感覚が思考を鈍らせる。
ひとまず現状は把握しておきたいという思いから、何とか目を開く。
まず目に入ったのは、どんよりとした雲。
そして、それを囲むように聳え立つ背の高い木々。
どうやら私は仰向けに寝ている状態らしい。
それを理解しつつ、ゆっくりと目線を下していく。
するとどうやら、背の高い木々だと思っていたそれは、広めに空いた穴を囲むように立っているものだと気づいた。
更に目線を下ろし、あたりを見渡す。
どうやら洞窟のようだ。
日が出ていないせいで少し薄暗いが、青っぽく光るごつごつとした石の壁と地面が見える。
そして、その地面の中に水たまりのようなものがあることに気が付いた。
…湖であろうか?
そこで限界が来たのだろう、段々と瞼が落ちていく。
…ひとまず水だけは何とかなりそうだ。
という、どこかずれた思考をしながら、意識は闇に飲まれていった。
また、意識が浮上する。
先ほど目が覚めた時からどれくらい時間が経ったのか分からない。
しかし、体の痛みと怠さはかなり良くなっているように感じた。
ふ、と目を開けあたりを見渡す。
場所は変わっていないようだ。
相変わらずどんよりとした雲は出ているが、前よりも明るく感じる。
…日が昇ったのだろうか?
前よりは軽くなった体を、起こそうとしてみる。
…大丈夫、ちゃんと動ける。
まだ少し体は痛むものの、多少動く分には問題なさそうだ。
そう思いながらゆっくりと立ち上がり、そこでふと考える。
…どうしてこんなことになっているのか?
ここは何処か?
何故こんなところにいるのか?
どうして怪我をしているのか?
そもそも私は何者か?
考えれば考えるほど色んな疑問が出てくる。
しかし、そういった疑問は出てくるのにも関わらず、明確な答えが出てこない。
いや、違う。そうではない。
「きおくが…ない…?」
気が付けば出ていたのだろうその呟き。
そして私は、呆然と立ち尽くしてしまうのだった。