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「でさ、これ私に似てない?」


 手帳のように開かれた二画面スパホ。才賀保の目の前の駄菓子屋が同じ色の瞳をして彼に見せたのは。


 緑のエプロンに前ポッケがふたつ。キュッと腰の上に結んだ一筋のヒモ。黒い髪、エメラルドの瞳。歯を見せない唇を閉じてクールにカメラ目線。


 さらに、白い波打ちフリルがエプロンの下部から、薄ベージュ長袖の両肩から。メイドの魂であるホワイトブリムをかぶせたならば────。



「んなわけない」


 平然とした顔、平然としたトーンで答えてみせた。──駄菓子ジュースを飲む。


「似てるってちょっとこれ私を真似たでしょ!」


 折り畳み一画面を片手に持ち、ちらっと確認し、ちらっと目の前の男を訝しみ見る。


「まねてないしてない似てない」


 小さな画面、MY(マイ)に投稿した数々のクールメイドの写真その一つ。駄菓子屋のまえで箒をもち掃き掃除、クールに佇むクールメイドと。それを認めさせようと必死なエメラルドのおおきな瞳。


 うんうんとひとり頷き平然と答える男に対してついに。


「変態!」


「へ!? はぁ?」


 まさかの一言を浴びて、そのドキドキと完璧に装っていた平然が崩れた。ひどく、崩壊した。


 そして畳に両手の平にノセた怒りをぶつけて捲し立てた。


「あんたがなぁ……クールメイドなわけないでしょ! アニメやゲームの美形キャラ見てアレ私! って思うのかあんた!」


「な、なに!? ええ、思いますともこれは完全に私ですわたしのパクリです!」


「自意識過剰! んなわけあるかぁ!」


「いいえ、絶対私ですこれ! あなたここに買い物に来てたよねジロジロ見てたでしょ!」


「ハイハイ、みてなーい」


「嘘をつくなーーぁ!! この盗撮魔!!」


 何故かバンバンと叩き合っている自分のターンを示すように、畳を揺らし、透明の中の緑の海は荒れに荒れ、泡粒が弾けていく。


「ふざけんな、なんでせっかくのキャラメイクでどこぞの田舎駄菓子屋オンナを真似るか!」


「あぁー、無理しないでこれ私。どうせ私に見惚れてたんでしょ。あぁ、多いのよそういうの罪だねぇだって私ってこん」

「駄菓子屋オンナ」


「ん」


「──ぷはぁ……。じゃ帰ります」


 天を仰ぎ、だんっ、と置き。畳の上に炭酸の程よく抜けたメロンソーダを味わい尽くしたならば。ここに忘れ物はもうない。


 才賀保にたいして上目遣いでおどろき睨む、一歩遅れたその駄菓子屋の目にミドリの歯をみせて微笑めば。


「ま、待ちなさい誰が駄菓子屋オンナよ!」


「そのまんまじゃないですか。はははは!!」



 高め合ったテンションをぶつけ合い、最後に投げ捨ててやった。



 ドタドタドタと、ドタドタドタと。



 炭酸の抜けた勝利の余韻はただただ甘い。自転車の鍵は高校生の日常であり手慣れたもの、その女が表に出てきたころには。


 しつこい! ははは見送りにきたのかな。


 何か叫んでるけどここを曲がれば終わる。


 ドキドキドキドキと疾る、風の中をでこ出しで髪を乱して漕ぎ疾る。ひどい別れ方をしたのにワラっていたのかもしれない。──おもいかえしてみたけど……どんな表情だったかは覚えてはいない。



 俺は、駄菓子屋オンナから逃亡した。

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