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抹茶パフェとチーズケーキ、2人がこうしてまたファミレスにいるのはデジャブじゃない。こがなつみはダイレクトメールで「せいしゅん!」と一言だけ発し、校門前に現れては俺を恥ずかしげもなく陽気に手を振り待ち構えていた。
この前空振りしていたらしくそれで無駄足だと勝手に怒り勝手に連絡をよこすようになったのだ。
俺と彼女のうすくてダイレクトなつながりが放課後の午後4時過ぎからはじまる。
▽
よぉ、なつみ。
俺は
今日
公園で鳩に餌をやった、社長になりたい!
浜に行って発声練習をした、歌手になりたい!
コンビニで立ち読みをした、漫画家になりたい!
なつみはどぅりーむしてるか? しないと損みたいだぜ! あばよ!
▽
こちらに読ませるように見せつけたこがなつみの緑のスパホの画面には臙脂色の学ランを着た俺のドッペルゲンガーの3Dモデルとソイツの馬鹿らしい報告が載っていた。
「サイガタモツのいちにち」
「なわけあるか」
「あははこのサイガタモツ最高!」
またいつものように馬鹿みたいにげらげらと笑っている。本当によく笑う女だ。
「どこがだよっ! ぜってぇろくでもねぇだろコイツ……まじで消しとけよ」
「はははは、やだぁー。どぅりーむしてるか?」
「どぅりーむじゃなくて全部妄想だろ。はぁ……救いようのないランダムパーソナルAIっているんだな」
「いいじゃんAIだしっ、サイガタモツだしっ」
「そいつをサイガタモツと呼ぶな、電子屑って呼べ」
「飼い主にむかってひどっ」
「飼い主もやめろ!」
「だって実際飼ってるしぃ? サイガタモツ」
「はぁ……もいいや、で教えたぞ全部」
教えた、ウランドのいろはを教えてやったが。個人開発者のやる気でアップデートされはするが今のところはそんなにマジにやる必要もない日常蓄積系のゲームだから、基本的な要素に加えて好きにやれとしか言っていないしこがなつみもそうするつもりらしい。
「うん! でもこのウランドって誰もやってないの?」
「俺がやってる」
「ええ、ほんとにゲームでもぼっち?」
ぼっちと言われてもたじろぎはしない。多少はたじろぐけど。
「うん」
「うんって」
「ぼっちでもいいだろ自由だし」
「ふふ、まぁ一理はあるかな?」
「あ! でもなんでわざわざわたしの駄菓子屋を」
「ん」
「そうだっ退去しなさいよ!」
「なんで」
「ぼっちで自由なのになんで私のすくーるめいとを占拠してんのよ!」
「そりゃぁ角地だから」
「角なんていっぱいあるでしょ!」
「あの角がいいんだよねぇ、クールで!」
「意味不明! 本家がはじめたんだからのいてね?」
「苦売迷同が本家」
「すくーるめいとが本家」
「苦売迷同」
「すくーるめいと」
「パクリ」
「パクってない、マッタク」
ずいずいと身を乗り出し本家本家と近づいて来るうるさい顔を才賀保は姿勢を正しクールに即返答しあしらい。
「ここはウランド客のAIには苦売迷同が本家だからな」
「はぁ?」
「すくーるめいとナニソレ? 苦売迷同クールで美人なメイドさんがいる大好きなお店!」
「はぁふざけないで! 本家本物の私のパクリメイドじゃない!」
「だからさ、ひとつもパクってないしうちの子のクールメイドの方が大差だから、それこそぶっち切りの優勝だから」
スパホで見せつけたのはクールメイドがスーパー銭湯上がりにカジュアルなギャップのある色Tシャツ姿で1万Gするジャンボパフェを黙々と食べている、そんな美人なのに可愛すぎる優勝写真であった。
そんな自慢の一枚を鼻で笑う女がいる、目の前に。張り合おうとしている。
「はぁ優勝はわたしだよサイガタモツ? カラスミの武田ちゃんも言ってたしほらパクリメイドちゃんよりジツブ」
「準優勝オンナ」
「ん」
そうクールに言い放って一瞬できた静寂にチーズケーキを頬張り、その味にうなずく。
「誰が準優勝オンナよ!」
「上には上がいるってこと」
「はぁ? って上?」
ウエ? その疑問系に一瞬目を合わせあったが、すぐにチーズケーキにフォークを落とし取り掛かる。
するとこがなつみは何故か頬に手のひらを何度か当てにやけ出した。
「もうっサイガタモツくぅん、上でかわいくってごめんね!」
ウエを拾い上げてまさかの言動、いやまさかではないこの人物ならば……。
「本当にさぁ……もいいや」
「ふふふいやー、準優勝サイガタモツの2位かぁ。ま、私なら当然だよね、負けたのも私のパクリメイドちゃんだし」
こんなことも脳内シミュレーションでは平然と言いそうであった。
「その自信はどっから来るんだか」
「もちろん顔から、性格から? あ、スタイルも!」
「本当に宇宙人だなお前って」
「またそれぇ? まぁハレジョは男子のない宇宙かなぁ」
「なんだそれ」
急に顎に手をやり宇宙を見上げたハレジョの宇宙人に少し呆れ気味にこたえた。抹茶パフェを何口か食べこちらに向き直った彼女は──
「カラスミは共学だからいいよね」
「だから良くないってカラスミは」
「なんで?」
「まずクズが多い」
「えぇ? そんなこと全然ないよ武田ちゃんとか!」
「武田さんはカラスミの良心だからな、いいか先ず」
「茶髪ヤンキーが多い、校門出ようとしたらゲートキーパーがいる、友達を平気で乗り換えるヤツがいる、全校集会で陰口の伝言リレーをしている、購買でスパホ決済できない、学校が特定の業者を贔屓していてあやしい、体育教師が俺にきびしい、好きな先生ランキングとかいうどちらにもメリットのない無慈悲を定期的に平気でやる、カラスミ祭でヤンキー生徒の音痴な歌を聴かされる、国語教師はだいたい思いやりのないクズ、この1年とちょいで6人も教師が消えた、けどクズは消えてない、理不尽に叱られたことが三度ほどある、自転車登校でヤンキーどもが横に膨らむのはマジであぶない、担任の小話がつまらない、唯一の良い先生が家庭科とかいうどうでもいい授業をしている、あと屋上がキタナ」
「ちょっとちょっと、それ無限に出てくる?」
思いついたのをてきとうに並べてみたら自覚のない無限を成していたようだ。こがなつみに冷静に突っ込まれて止められてしまった。
「まぁ探せば?」
「よくそんなけ羅列できるわ……しかもなんか微妙にどうでもいいのばっかりない?」
「いきなり言えって言われてもなぁ……」
「誰も言ってないし長過ぎるし──でもそれってさ」
「そうだねっ!」
長々と毒を語った男に、その元気に輝くやさしげなミドリがハッと突き抜けた。
そんな何もなくて何かを思わせられる返しは予期も期待もしていなかった、完全に彼女こがなつみに意表をつかれてしまった。
毒を吐き切って、俺の輪郭をみつめる笑顔に返す言葉は──
「え……そうだよ」
「そうだよ? ふふなにそれ」
「…………」
「え、むごん?」
「ちょっとさっきしゃべりすぎた」
「あはは、たしかに!」
「じゃあ飽きたからちょっとそれちょうだい」
「やだね、俺ってチーズケーキのタモツって言われてんだからな」
チーズケーキのタモツは皿を引き寄せて左手でガードし伸びたスプーンを寄せ付けない。
「はぁ? なにそれ絶対ウソでしょ!?」
「今命名した、あむっ……うん! ちゃんと酸味があるチーズケーキは最高だね!」
おもわず目を閉じうなるほどにチーズケーキの絶妙な酸味を噛み締める。
その一瞬の無謀すぎる隙に伸びた銀閃、抉り取り──華麗にぬすむ。
「わたしも酸味派!」
「あ!? オマエ」
男とおなじく大袈裟に目を閉じてうなずき──開眼。
「これは……」
「コーヒーが欲しいよサイガタモツくん」
舌を左にぺろっとスプーンでビシッと得意げな顔でサイガタモツくんに突き刺した。
「うるせぇよぬすみ食いオンナ……」
「ふふんうるさくないよ、チーズケーキのなつみだよ!」
「ぜんぜんおもしろくねぇ」
「あはは、ひど。てかじぶんのギャグじゃん」
「なら……紅茶たのむか」
「ならの意味がわからないけど私はコーヒーね」
三度目の抹茶パフェとチーズケーキな春は過ぎていく、こがなつみと共に。誰もやっていないウランドを始めてパフェを食べてチーズケーキを目を閉じ分かちあって、サイガタモツの烏未波の毒すらも。
人は1人ではせいしゅん出来ないのならばいったい誰と生きていくべきなのだろうか。同じ時を過ごしていく過ぎていく青春は。




