異世界転移[後編]
しばらく平凡な山の景色を見ているとなんの前触れもなくほとばしる白い光が、バス内を満たした。
視界が晴れ辺りを見回すと中世ヨーロッパのような大広間に変わっていた。
「何処だここ、バスは?夢でも見ているのか?」
これが噂に聞く白昼夢という奴だろうか。いや、夢の自覚があるのは明晰夢というのだっけ。
辺りの連中も呆けているものと慌てているものが半々くらいか。よく見ると、中世ヨーロッパ風の服装をした人たちが少し離れた位置から俺たちを観察しているのが窺える。ドレスを着ている者、紳士服のようなものを着ている者、兵士のように鉄製の鎧を着こんでいる者もいる。中世ヨーロッパのような建築物だから、俺たちの服装の方が浮いているように感じる。
そんな中、こちらを見ている連中の1人が前に出る。
「皆さま驚きかと思いますが、どうかお聞きください」
恐らく俺たちと同年代の少女のよく通る声が響く。少女は華美なドレスを着ていた。周囲には他にドレスを着ている者はおらず、一際存在感を放っている。隣には王様っぽい人もいて…まあ、なんだ…。一言でいうと、どう見てもお姫様だ。
「察している方もいらっしゃるかも知れませんが、ここは異世界です。あなた方はこの国を救うための勇者として召喚されたのです。」
異世界、その言葉を聞いてクラスメイトたちがざわつく。
にわかには信じがたいことだけど、集団幻覚にしてはリアルすぎる。確かに俺たちはついさっきまで教室に居た。
「儂の名はライアス王国の王、リューゲ・ライアスだ。隣にいるのが娘のプセマ・ライアス、まずはこちらの非礼を詫びよう、突然に説明もなく連れてきてすまなかった。」
「連れてきたとは、どういうことですか?」
一歩前に出て、国王を名乗る人に問い質したのは、文武両道の天才、高柳 政人だった。冷静さを失わない高柳を見て周りも少し落ち着きを取り戻す。