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2023年バレンタインIF『ロゼリア・ローズフィン』

 ノベルピアにも連載を始めました。あちら限定の閑話も今後出ることのになるので、もしよければ是非読みに来てください!


 軽いバレンタイン記念(2/3)

 バレンタイン当日の誰もが寝静まる丑三つ時。三並 彩佳の家のキッチンには明かりが灯っていた。そこには一人の少女の姿がある。


「ドーナツの作り方のメモ、どこに置いてあったかのう」


 三並 彩佳の体の主導権を持ったロゼリアは、深夜の台所でお菓子作りをしていた。もちろんバレンタイン用のお菓子作りだ。すでに彩佳へ作っておく分は作り終え、今は奏多へ贈る分を作成中だ。


「そういえば冷蔵庫に貼ってあったんじゃった」


 冷蔵庫にいくつか張ってある紙のうちの一つをはがし、それを見ながら材料を用意する。彩佳がお菓子を作った時のあまりものである。


「ささっと仕上げてしまうかのう」


 ロゼリアはレシピ通りにベーキングパウダー、小麦粉、砂糖を混ぜ、卵、牛乳を加えて生地を作っていく。


「なるほど、不思議なものじゃな、このように菓子が作れるのは」


 昔、ロゼリアが生活していた世界の水準はそれほど高くなく、油で揚げる等と言った調理法は存在しなかった。砂糖等の調味料は存在していたので十分製作可能ではあったが、砂糖などは、どれもかなり値が張るものであった。


「安価な調味料でおいしいものを作ることができる。この世界は最高じゃな。彩佳に感謝しないとのう」


 生地を作り終えたロゼリアはレシピに目を通し、頭に疑問を浮かべる。


「打ち粉、とはなんじゃったか。ネットで確認すればよいか。便利な道具じゃのう」


 少しおぼつかない手付きで彩佳のスマホを使い、ロゼリアが検索エンジンを使用する。


「なるほど、生地が台にくっつかないように使うのじゃな。この時代の者は本当に賢いのう。いや、儂が料理をしていなかっただけで前の世界にもあったかのう……まぁわかるはずもないのじゃ」


 元の世界ではあまり料理をしなかったロゼリアでもレシピを見ればおいしいものを作ることができる。その技術に感嘆しながら生地を棒状に丸めていく。


「これで端をつなげて……油で揚げればよいんじゃったか?」


 レシピを確認し、油に形を作った生地を入れていく。


「いい匂いじゃな~。一つくらい自分で食べても……いやいや、ダメじゃダメじゃ。これは奏多の為に作っているのじゃからな」


 油で揚げたドーナツを引き上げ、皿の上にのせる。


「よし、これを包装して、彩佳に持って行ってもらえばよいな」


 ドーナツを包装したロゼリアは時間を確認しベッドに向かう。


「あとは彩佳が起きるまで待つだけじゃな~」


◆◆◆


「あれ、少しお菓子増えたかな? ロゼリア何か作った?」


『儂が作ったお菓子じゃよ。奏多に渡す分じゃから分けて持っておいて欲しいのじゃ」


 彩佳が登校前にお菓子を持とうとした際にロゼリアがそういった。本日の放課後に彩佳は奏多を青森駅の前に呼び出しており、その際に渡す予定であった。


「わかった。渡すときはロゼリアから渡すの?」


『そうじゃな。儂が直接渡したい所じゃ』


 彩佳を経由して渡すのではなと思ったロゼリアは渡す際に彩佳の体を借りることにする。


「わかった。じゃあ私の分が渡し終わった後に体を貸すね」


『助かるのじゃ』


◆◆◆


 学校も終わり、彩佳が奏多を駅に呼び出した時間。珍しく奏多は待ち合わせの時刻ぴったりに到着した。


「珍しいな。平日に会うのなんて」


 基本的に毎週土曜日か日曜日にしか、彩佳達と奏多は会っていない。住んでいる場所が県内ではあるが少し遠いからである。そのため平日、学校がある日に会うのは少し珍しかった。


「今日が何の日か知ってる?」


「何の日……?」


「今日は2月14日だよ」


 特別な日だから呼んだのだと、彩佳が日付を提示する。もちろんその日付にあるイベントは有名なので、奏多はすぐに何の日なのかに気が付いた。


「あーバレンタインデーか」


「そうそう。それでこれを渡そうと思って」


 彩佳がお菓子を渡している間、ロゼリアは自分も早くお菓子を渡したいと思いながらも、おとなしく二人の様子を見守っていた。


 そして、彩佳がお菓子を渡し終え、今日は一緒に夕飯に行かないかと提案し、行く場所が決まった後、彩佳はロゼリアに主導権を渡した。


「やっと儂の出番じゃな」


 ロゼリアは入れ替わった後すぐに、彩佳の意識を深くまで落とした。彩佳の意識を眠らせた、というのが最も近いだろう。


 ロゼリアにとって今からの話は彩佳に聞かれたいことではなかった。最大にして最強のライバルである彼女には。


「奏多、今からの話は彩佳に秘密で頼むのじゃ」


「ん? 今も彩佳にはこの話が聞こえてるんじゃないのか?」


 今まではそうだっただろ、と奏多が言う。


「たった今だけ、彩佳には眠ってもらっておる。聞かれたくない話なのじゃ」


「そ、そうか」


 あまり状況が呑み込めていない奏多をしり目に、ロゼリアが鞄から包装されたドーナツを出す。


「これは儂からのバレンタインデーのプレゼントじゃ」


「ロゼリアからもくれるのか。ありがとう」


 先ほど、生まれて初めて家族以外からのバレンタインのプレゼントをもらった奏多は純粋な喜びを見せる。


「そのお菓子には儂からの気持ちが込められているからのう。帰ったらそのお菓子を送る意味を調べてみるといいのじゃ」


「お、おう。えっと、それで聞かれたくない話ってのは?」


 奏多がロゼリアに質問する。特段聞かれたくないと思うような話はないように思えたからだ。


「今の話じゃよ。彩佳にそのお菓子を送る意味を知られたくないだけじゃ」


「そ、そうか」


「じゃあ儂は戻るぞ、くれぐれも、彩佳には秘密でな」


 そう言ってロゼリアは彩佳に体を返した。意識が遮られていた彩佳は一瞬で元に戻ったように感じて、疑問の声を上げる。


「あれ? ロゼリア、もうお菓子渡したの?」


『もう渡したのじゃ。なんじゃ、見ておらんかったのか?』


「うーん……。まぁいいか。奏多、もうすぐ暗くなるしから早めにご飯行こうか」


 奏多は、彩佳の後ろにいるロゼリアの精神体を見る。その時、ロゼリアは口に人差し指をあて、ウインクをする。秘密を念押しするように。


 そのかわいらしい仕草に、少しだけ、奏多は見惚れてしまっていた。

 いかがでしたでしょうか。面白い! 続きが気になる! となっていただけた場合は評価、ブックマーク、感想等よろしくお願いします。モチベの維持につながります。

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