終結
ついにデッドスパイダーと名取さんの対決が始まる。
「学ぶいい機会だし、Sクラスも来て安全だから、奏多も一緒に見よう」
野次馬精神ここに極まれりだな。確かに学ぶ機会ではあると思うし、俺も見て行こうとおもう。
『まぁSクラスがおるのなら儂も構わんと思うのじゃ』
逃げることに固執していたロゼリアも認めてくれたことだしな。
「名取さん……。あれが……! かっこいい!」
かなり遠くて容姿とかは見えないはずだが、吉野さんがかっこいいとこぼしている。アイドルに対する反応のそれだ。まぁ……わからなくもないけど……。
紅は仮面で顔を隠しているから、顔を公開している中で一番強い。それに加えてイケメンだったらそういう扱いになるだろう。
さすが日本で一番グッズが売れている男だ。面構えが違う。そこらのアイドル形無しだぞ。
『よくわからんのう。儂は奏多の方が好みじゃよ』
「ありがとうロゼリア」
なんかロゼリアに気を使われてしまった。いや別にうらやましいわけじゃないんだけどさ。うらやましくはないんだけどさ!
「私もだよ」
「お、おう」
彩佳にまで気を使われてしまった。イケメンになりてぇな。
「頑張れ名取さーん!」
吉野さんが全力で手を振りながら応援している。これはファンだな。
戦場では名取さんが超高速で移動し、デッドスパイダーを翻弄している。そして拳に何かをため込んでいるようだった。
名取さんは武器を使わず己の拳とその光魔法で戦うスタイルだ。
光をため込んだ拳を空に向け、解放する。
「キャー!!」
光輝く拳を掲げる名取さんの姿に吉野さんが黄色い悲鳴を上げる。ふと、彩佳もあのようになるのかと彩佳の方を見てみたが、軽く首を傾げられた。
「ん?」
「いや、なんでもない」
名取さんと手から神々しい光が天へと立ち上る。薄暗くなってきている今、その光は猶更強く見える。
空へ上った光が見えなくなり、先ほどと全く同じ状況ができる。
ついに戦いに動きが生まれた。名取さんの輝く拳がデッドスパイダーの足をへし折った。
「2万超える防御ステ突破するのか……」
『奏多もしや、鑑定でステータスを見たのか?』
後ろにいたロゼリアに急に声をかけられる。ロゼリアにはよくビビらせられている気がする。わざとではないんだもんなぁ。
「おう、なんかステータスも見れるようになったからな」
「あとでステータスの詳細を教えてほしいな」
彩佳はデッドスパーダ―のステータス詳細を知りたいらしい。
「いいぞ~。おおまかなステータスになるけど大丈夫か?」
3桁以下はぶっちゃけあまり覚えてないからな。
「大丈夫だよ」
『あれを見るのじゃ!』
ロゼリアが何やら興奮しながら空を見据える。
「なんだ?」
「どうしたのロゼリア」
俺たちも空を見上げると、空に大きな光の柱が立っていた。そしてその柱はだんだん光を増していき、デッドスパイダーへと落ちた。
「綺麗だな……」
「本当にね」
『Sクラス、強力じゃな』
吉野さんは見惚れて何も言わなくなってしまった。
とそこに<赤色の閃光>のパーティーメンバーたちが来た。吉野さんが吹き飛ばされたことで我に返り安否確認をしに来たのだろう。
「リーダー!」
「無事でよかった!」
「リーダー?」
名取さんに見惚れて動かなくなってしまった吉野さんに困惑気味のようだ。
光の柱が消え、最後の仕上げなのか、全身に光を纏った名取さんが体中が黒焦げになったデッドスパイダーに拳を叩きつける。
すっかり日が暮れた空に光の線が現れる。神々しい、木漏れ日のような光。
その光が消える頃にはデッドスパイダーは消滅していた。
「皆お疲れ様!」
次の瞬間には俺たちのすぐそばに名取さんが立っていた。服には汚れの一つもない。
「名取さん!? きゅ~……」
吉野さんが気絶した!?
「ど、どうしたんだい?」
名取さんが困惑している。それもそうか、目の前で人が気絶したらそうなる。なんか人間らしくて2位の人って感じがしないな。いい意味で。
「今回復魔法を……!」
回復魔法まで使えるのかこの人。前言撤回しようかな……。
「だ、大丈夫です! こちらで治しますから!」
<赤色の閃光>の方々が対応している。
「そ、そう?」
互いに困惑しながらの話合い、傍から見てると少し面白いな。
「まぁ、まぁ置いておいて……。君たちがこの場で時間を稼いでくれていたらしいね、ありがとう。皆生きていてよかった」
「その通りだ。今回のスタンピードは犠牲なしで終結した。札幌の件を含め、2件のスタンピードが犠牲なしで終わったのは日本が初めてだ。よくやった」
名取さんの隣に立つ仮面をした男。その仮面は……!
「紅さん!?」
名取さんが驚いている。
「いつからいたんですか!?」
「ちょっと前からだぞ」
「えぇ……」
名取さんの困惑はこの場にいる全員にも共通するものだ。
理解が追い付かない。世界最強の人が今、目の前にいるのか……?
「まぁこれで今回のスタンピードは幕引きだ。今日はもう遅い。スタンピードの終息は俺たちが報告しておくから、詳細は明日報告するといい」
「「わかりました」」
名取さん以外の全員が紅に返事をする。一位の圧というか、カリスマ性をひしひしと感じる。
「じゃあ今日は解散だ。明日また探索者協会で集合するといい」
紅さんの指示で、その場は解散となった。俺と彩佳、ロゼリアは少し離れたところで一度集まる。
「今日は私たちもここで解散だね」
「おう。今日の朝は助けてくれて本当にありがとな。これから仲間として恩を返せるように頑張るよ。ロゼリアもありがとな」
『構わんのじゃ。心配ないとは思うが今後は気を付けるのじゃよ』
今日の朝の出来事の感謝を述べる。スタンピードのおかげで一日がずいぶんと長く感じた。
「気を付けるようにするよ」
そういえばだが……。
「宿題は大丈夫なのか?」
「はっ」
顔からして、大丈夫じゃないんだろうな。
「じゃあ私今日は帰るね!」
「気をつけてな~」
彩佳とロゼリアは宿題をやるためか急いで自宅へと帰っていった。
「さて、俺も帰るか……」
そういえば何か忘れているような……。
「そうだ、南口に俺の家近いから……」
家族は避難して家にいないんじゃないだろうか。
なんなら家倒壊してるまであるぞ? あんな化け物が南口にも出てきているとは思えないけど。
というか家族に今日の事を一切連絡していない。心配されているかもしれない。
とりあえず一度急いで家に向かおう。
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