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エレンディアへようこそ①


 一億円なんて、本当に当たるとは思っていなかった。

 だけど、人生を変えるチャンスだと思って買った宝くじの番号は確かに当選していて、本当に一億円が口座に入金されてしまった。

 信じられない。

 でも、現実。

 一か月後、私は居辛かった会社を辞め、めくるめく一億円のある生活に思いを馳せた。

 その矢先、私は異世界に召喚されてしまう。

  ……スマホで通販サイトを開きながら、寝落ちしたパジャマ姿で。



 目を覚ますと、なにやら狭いところに押し込まれているのに気が付いた。

 寒々しい石の中にいるみたい。頭の上にわずかな光が漏れているのを見て、天井を押してみると、ゴゴゴ、と音を立てて石が動いた。

 ひょこりと顔を出すと、騎士のような格好の人たちや、豪奢な服を身に纏った人たちと目が合う。


 えーと……? どなたさま?


 思わずハテナを飛ばしていると、彼らから「おおお!」という快哉の声があがる。


「やはり伝説は本当だったんだ……!」


「本当に聖女様だ!」


 などと言って、興奮のまなざしで私を見る彼ら。

 あまりの大リアクションに身構えてしまう私。だって、今の私の格好は状態・すっぴんに装備・もこもこパジャマというあんまりな姿だから!

 そんなことは関係ないとでも言うように彼らは私を前に興奮一色。その中から宗教者らしきガウン姿の男性が前に出て、石櫃にいる私に向けて手を差し伸べた。


「お初にお目にかかります、異世界よりお越しの聖女様。

【聖女召喚器】に不具合がなく安心いたしました。何分、稼働するのは100年に一度ですから」


 異世界? 聖女? ……召喚?


 マンガかアニメのようなワードを連発され、私の頭は混乱しきり。

 だが、なんとなく穏やかな雰囲気のその人に心を動かされ、私は動揺しながらもその手を取って石櫃から立ち上がった。

 そのとき、するりと胸から落ちた何かが固い床にカタンと音を立てて転がった。パールホワイトの四角い端末、私のスマホだ。

 スマホを落としてしまった!! 思わず焦って屈み込むと、私が立ち眩みを起こしたと勘違いしたのか、誰かが勢いよく飛び出してきた。


 目の前で黄金(きん)色の髪が揺れる。緩やかに波打つ豊穣の象徴のようなブロンド。海のごとしサファイアブルーの瞳を開いて、私を見る真剣なまなざし。

 まるでギリシャ彫刻の美男子のような神の造形を前にして、私の心臓がどくんと跳ねた。

 頬が熱を帯びて、全身が温かくなるような感覚。

 ……なあにこれ?

 私、どうしちゃったの?

 真っ赤になった私がアワアワして反応できないうちに、騎士の軍服のようなものを身に纏ったその美しい男性は手を差し伸べてくる。


「聖女様、お手を」


「あ、あの……これ、拾おうとしただけです」


 スマホを拾って見せてみると、彼はやや不思議そうに瞬きをしてみせた。

 スマホなんて見たことがない人の反応だ。

 もしかして、本当にここは異世界? とそこで私は事実に気付く。

 目が覚めたら知らない場所に閉じ込められ、知らない人たちに囲まれていた疑問に答えを出すとしたら……それしかない気がしてくる。

 いや――私がいくらオタクだからってさあ! 素直に納得するのもどうよ!? と思わなくもないけど……!

 

 その後、私は彼らに連れられるまま馬車に乗り、どこかへと出発した。

 石櫃のあった場所は古い神殿だったらしく、その威容を馬車の窓越しに見送っていく。

 外では騎士団が馬車の警護にあたっているようで、さきほど私を心配してくれた金髪の美人男性も馬車の一番近くで馬に乗っている。彼は騎士団の団長だったらしい。

 私はその姿を馬車の窓から眺めて、やはりドキドキとはずむ胸に苦しめられていた。


「600年前、ここエレンディア王国を災厄が襲いました。黒い瘴気を操る強大な魔神が土地を荒らし、人間を襲い、国は滅び去る寸前まで追い詰められたのです。しかし、異世界に救いを求めた魔術師が【聖女召喚器】を開発し、聖女様を召喚しました。聖なる力もて、初代聖女様は魔を打ち払い、このエレンディアに平和をもたらしてくださった――それが600年前の出来事です」


「はぁ………」


 説明される歴史に、私は曖昧な返事を送る。

 豪華な馬車の中で、私の対面に座って話してくれる人は、最初に声をかけてきた聖職者のレーテという人だった。

 年齢不詳に穏やかな顔つきの人で、なんとなく心を開きやすい人だと思った。


「しかし、平和になった後も100年に一度、【聖女召喚器】が発動し、異世界から聖女をお招きするのです。今日が前回の召喚からちょうど百年目の日付でした。私たちは初代聖女様の流れを汲む次なる聖女様を丁重にお迎えし、王国でお過ごしいただくようにしております。やることは特にありませんが、のびのびと王国で生活なさってください」


「やることは、ない?」


「はい、特にありません」


 レーテさんはにこにこ笑顔でそう言い切った。

 私は愕然として言葉を失う。

 

「ちなみに元の世界に戻れたりとかは……?」


「はて、特にそのような例は聞きませんね」


 ――私の一億円。


 カンバーーーーック!!


 私は脳内で大絶叫しながら、座りのいい馬車のシートに絶望して身を沈めた。


 一億円が当たったと思ったら、異世界に召喚されました。


 一生に一度あるかないかの特大ラッキーが降ってきたと思ったら、異世界に召喚されて、……私、めちゃくちゃ運がいいんだか、めちゃくちゃ運が悪いんだか、わからなくない?


 

閲覧ありがとうございます!新連載になります。


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