お姉様と殿下
今では同志として仲良くさせていただいている殿下ですが、わたくし以前は殿下が大っっ嫌いな時期がありました。
お姉様が殿下の婚約者となり、初めてお二人が顔を合わせた時、帰宅されたお姉様は嬉しそうだったのです。
「お優しい方でしたわ」
そうおっしゃって微笑まれました。それから、何度か殿下とお会いする機会が設けられましたが、「今日は一緒にお城の庭を散歩した」、「殿下が花を摘んでくださった」、「殿下が手ずからクッキーを取り分けてくださった」など、いつも嬉しそうにお話されていたのです。お姉様がお父様と一緒にお城へ行くこともありましたし、殿下が我が屋敷においでくださることもありました。殿下が我が家においでくださった時は、わたしとも一緒に遊んでくださいましたので、お姉様のおっしゃる通り優しい方なのだと思っておりました。
しかし、しばらくするとお姉様が悲しそうな顔をすることや、落ち込んだ様子がみられることが増えました。殿下とお会いする日は嬉しそうに、楽しみにしていることが多かったのに…。憂鬱そうに出かけて行き、泣きそうなお顔で帰宅されることさえありました。
どうされたのか聞いても、お姉様は答えてくださいません。
喧嘩でもされたのかと思いましたが、一度きりのことではなく、毎回悲しそうなお顔をされるようになったので、わたしは強硬手段にでました。
今では同じくらいの身長も、あの頃はまだ子供でしたから、お姉様の方が背が高く自然とわたしが見上げる形になりました。わたしは眼に涙を溜めて、上目遣いでお姉様に訴えます。
「大好きなお姉様が悲しいお顔されていると、わたしも悲しくなってしまいます…。」
そう言って俯きます。
「わたしには言えないことですか?わたしでは、お話を聞くことさえ、お役には立てないのですか…?」
そう、首を傾げながら、再び上目遣いでお姉様を見つめました。ちょうど、わたしの眼から涙がこぼれます。
そして…お姉様は落ちました。
はっとした表現をされて、ハンカチで涙を拭いてくださいます。そして、何があったかを話してくださいました。
いつからか、殿下に距離をとられている、避けられていると感じるようになったそうです。たとえば、散歩をする時に以前なら手を引いてエスコートしてくださったのに、それがなくなった。お話をしていても視線が合わない。やはり躓くことがあったのだけれど、以前は手を貸してくださったのが、転んでも知らないふりをされたり…。
今では、不機嫌な表現で睨むように見られていたり、触れようとしたら払いのけられたりするようになったのだと教えてくださいました。
わたしはお姉様のお話を聞くうち、腹立たしくなってきました。何かあるなら、おっしゃってくださればよいのに。何も伝えず一方的に邪険にする…何様ですか?あの方。王子様はそんなに偉いのですか?
ちょうど数日後に殿下が我が家を訪れてくださる予定になっていましたので、殿下の様子を拝見させていただくことにしました。
ライラの一人称が「わたくし」の時は今。「わたし」の時は子供の頃、昔のこと…という認識でお願いします。