薔薇と花ことば
お姉様と殿下が一緒に薔薇を選んでおります。庭師にハサミを借りて、棘を処理しながらすでに何本か切っているようです。お姉様がハサミで怪我をしないか、棘を刺さないか心配でしたが、殿下が上手くサポートしてくださっているようでした。
「っ!」
と声がしたかと思うと、見る間に指に血が滲み、丸く赤い水滴をつくっていきます。それを見たお姉様が、とっさに血が出た指に口をつけました。棘を刺したのでしょう。傷口から滲む血を舌で舐めとります。
「っ!ア…アリ…シア…」
殿下のお顔が真っ赤です。耳まで紅くなっていらっしゃいます。
お二人の近くで薔薇を持っていた侍女も、顔を紅くして驚いた顔をしております。
殿下に名前を呼ばれたお姉様は、指に口をつけたまま、顔を上げました。そして、殿下の真っ赤になったお顔を確認したあと、改めてご自分の手元に視線を向けます。
「ぴゃっ!!!」
お姉様が殿下の指から口を離しました。
「す、す、す、す」
取り出したハンカチを殿下の指に当てながら、お姉様のお耳が紅くなっていきます。
「すみません!」
お姉様自身も驚いた顔になっております。殿下は「ああ…」とおっしゃってそっぽを向いてしまわれましたが、やはりお耳が真っ赤ですわ。
棘を指して血が出た殿下の指に、お姉様が口づけて血を舐めとった…という状況のようです。
なんということでしょう。お姉様の天然が炸裂し、とんだハプニングです。…が、グッジョブですわ、お姉様。お二人にしたかいがありました。婚約者同士なのですから、仲良きことは素晴らしきかなですわ。
そして、お耳の紅いお姉様なんて、超レアで超絶お可愛らしいです。
どうやら、お姉様は血が出た指を見て、ご自分の指だと思ったそうですわ。自分が棘を指して、血が出た。だから、血が出た指を舐めた…と。そうしたら、自分の指ではなく、殿下の指だった…と。いくら血が出たとはいえ、貴族令嬢が当たり前に指を舐めるのはどうかと思いますが…。それより、殿下は棘を刺さない。棘を刺すならわたくしだという思い込みで、ご自分の指かどうかさえ、わからなくなるなんて…心配ですわ、お姉様。天然がすぎましてよ。
お姉様のお耳が紅くなったのを見て、セバスが喜んでおりましたわ。
「ライラ様、わたしにもアリシアの表情が読めました。あれは、恥ずかしがっておいでなのですね」
と、興奮しておりました。
「よかったですわね、セバス…」
そのようにしか返せなかったわたくしを、責めないでくださいませ…つっこみきれませんでしたわ…。
それにしても、殿下は本当に今日は百面相ですわね。
殿下の照れたお顔まで拝見できるとは思っておりませんでした。
殿下が指の手当てに行かれ、殿下がいなくなって恥ずかしさから復活したお姉様は、薔薇を摘み終えましたわ。薔薇を示してくれれば、自分が摘むという庭師の申し出を断り、全てご自分で摘まれました。
そしてお願いした通り、わたくしに部屋に飾る薔薇をくださいました。
殿下がお帰りになられる時、お姉様は名前をお呼びして、薔薇を渡しておいででしたわ。
「クリス様、わたくしの気持ちです」
はにかんだ笑顔を向け、お姉様が殿下に薔薇を手渡されました。
殿下がお帰りになったあと、わたくしと殿下の薔薇の色が違っていたのでお姉様に聞いてみましたが、
「ナイショよ」
と教えてはくださいませんでした。けれど、一冊の本を渡してくださいました。優しいお姉様です。
その本のタイトルは「花ことば」。
わたくしがいただいたのは、オレンジの薔薇が8本でした。薔薇の色だけでなく、本数にも意味があるようです。
オレンジの薔薇が8本…その意味は、「あなたとの絆に感謝します」。わたくしも、お姉様が大好きです。
殿下には、赤い薔薇を3本お渡ししたと聞きました。
……
……
……
……その意味は……
……
……
「あなたを愛しています」
殿下にも名前ありました。
名前出せてよかったです。
花ことば詳しくないので、ライラもらった花の意味は少し違うかもしれませんが、設定ということでご容赦ください。