くだらない理由
侍女が見た木の棒は、本当に木の棒でした。
調べてもらって判明したくだらない事実ですが…。
子供たちを集めたお茶会で自分の取り巻きの少年達と遊んでいた公爵子息は、庭の隅にあった木の枝を拾ったそうです。そして、ちゃんばらごっこをしていたのだと。休憩のために皆がいる会場に戻ってきたところで、お姉様がぶつかってしまい、遊びに使っていたその木の枝が折れてしまった。
ただそれだけ。
ただそれだけで激高したその公爵子息は、近くにいた庭師からハサミを奪い取り、お姉様の髪を切ったと…。
拾った木の枝のために、お姉様の髪が切られたなんて、本当に許せません。あり得ません。
まともな理由ですらありませんでした。ただ、あの公爵子息の機嫌を損ねただけ。
許すまじ蛮行です。
公爵家から謝罪はされましたが、あの少年が謝罪に我が家を訪れることはありませんでした。公爵家の家令が謝罪の手紙と品物を家届けにきただけです。誠意は感じられません。
あの少年のせいで、お姉様は夜眠れなくなってしまいました。
あの事件からしばらくは、お姉様のお気持ちが不安定で突然泣き出したり、夜目覚めた時に怯えたりするようになってしまい、わたしが常にお側におりました。夜も一緒に休みましたが、お泊まり会などと浮かれられる状況ではありませんでした。
お医者様から処方してもらった薬を飲まなければ眠れなくなってしまったお姉様に、心が痛みます。
本当に許せません。
わたしは、あの少年のことを調べることにいたしました。
お礼をするにしても、何をどうすれば効果的か、調査が必要です。
クリス殿下もお姉様を気にかけてくださり、よく訪ねてきてくださいましたので、殿下にも協力をお願いすると快く協力くださいました。
殿下も相当にお怒りのようです。
あの少年の名前はジョシュア。公爵家嫡男で姉が一人います。姉の名前はカドミナ。あの公爵家の令嬢も子息も我儘で傲慢と評判が悪いそうです。ご両親は特に注意もなさらないので、やりたい放題だそうです。
お姉様の髪を切ったことも、得意気に「俺に無礼を働いた者を懲らしめてやった」などとのたまっていたそうです。本当にあり得ません、あの少年。
嫌いなものは虫だそうです。特に蜘蛛が大嫌い…。
お姉様の綺麗な髪を切ったのです。女性の髪を平気で切るようなマナー知らずの乱暴者。傲慢で反省もしない。誰も本気で叱りもしない。
勝手に人の髪を切って何も思うところがないのですから、自分の髪も大切ではないでしょう?いらないでしょう?
眠れなくなってしまうほどショックを受けたお姉様…。気持ちの不安定さは少しずつ落ち着いてきましたが、いまだにお薬が手放せませんし、屋敷の外に出ることを怖がります。
本当に胸が痛みます。心が痛くて瞳を潤ませるわたしを、優しいお姉様は慰めてくださるのです。ご自分の方が辛いのに…。
本当に許せません。
お姉様を傷つけて、そのままで済むと思わないでくださいませね。




