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わざとではないのです

貴族の令息、令嬢が集まる学園に通っている設定です。


わたくしは、どちらかといえば目尻が下がっておりますので、きつい顔立ちだと言われたことはありません。わたくしと違い、お姉様は、釣り目なのです。幼い頃から、あまり表情も変わりません。というより、表情は変わるのですが、わたくし以外の方にはわからないようなのです。ですから、どうしても相手にきつい印象を与えてしまいます。そして、とにかく間が悪いのです。本当に、いつも間が悪いのです。普通に天然やドジをかますのでしたら、可愛らしいで済むところが、意地悪をしていると受け取られてしまいます。

例えば、今回のように躓いた先に人がいて、突き飛ばしたり。飲み物を持っているときに躓き、やはりその先に人がいてその飲み物をかけてしまったり。髪についた葉を取ってあげようとして、自分のドレスのボタンにその方の髪を絡めてしまい、引っ張ったことになってしまったり。

呪われているのでしょうか?と思うほどに、間が悪いのです。


お姉様の間の悪さを思い返しているうちに、医務室に着きました。

「ありがとう存じます。殿下」

殿下がわたくしをソファに座らせてくださいました。

「ライラ、ごめんなさい」

お姉様が膝をついて、わたくしと目線を同じくして謝罪してくださいました。

こういうところが可愛らしいのです。お姉様を悪役令嬢などとおっしゃっている方たちの目は節穴ですわ。悪役令嬢でわざと突き落としたなら、このように膝をつくことはしないでしょう。立ったまま、口先だけの謝罪をなさるはずですわ。眉を下げ落ち込むお姉様が可愛らしいのですけれど、他の方にはお姉様の表情の変化やそこからの感情は読み取れないらしいのです。

医務室に控えているお医者様の診察を受けて、わたくしの怪我は打撲だけで済んだことがわかりました。内出血の跡がところどころにありますが、骨が折れていないなら大丈夫ですわ。それより、診察をしてくれたお医者様がお姉様に向ける厳しい表情が気にかかります。

「先生、お姉様はわざとわたくしを突き落としたのではありませんから、そう怖いお顔をなさらないでくださいませ。お姉様は躓いただけで、悪くないのですから。ただ、間が悪かっただけです」

本当のことをお伝えしたのに、何故かお医者様は「なんとお優しい」などと一人で感動しておられます。

どなたも始終この調子なのです。本当のことをお伝えしているだけなのに、わたくしが寛容だ、優しいなどと言われてしまいます。

わたくしが殿下にお姉様を一緒にお連れいただいたのは、お姉様をあの場に残してお姉様が悪意にさらされることが嫌だったからですのに。わたくし我儘ですのよ。

「お姉様、本当にお気をつけくださいませ」

「アリシア、常日頃からもっともっと気をつけなさい」

「はい…」

わたくしと殿下から注意を受け、しゅんとしたお姉様が可愛らしいです。

「お二人ともアリシア様に甘すぎるのではないですか?本当に偶然だったとは思えませんが。万一ライラ様が大怪我をされていたら?」

お医者様がどうしてもお姉様を追求したいようで言いつのってきます。

「わざとお姉様がわたくしを階段から突き落としたとおっしゃりたいのですか?」

「失礼ですが、その通りでは?」

「やめなさい」という殿下の鶴の一声で、それ以上やり取りが続くことはありませんでした。

「アリシアは謝罪したし、怪我をしたライラ本人が謝罪を受け入れ、わざとではないと言っているのだ。これ以上、この件は追求しない。もちろん、二人の両親にはこの件を報告するが」

そして、殿下がわたくしとお姉様を屋敷へ送ってくださることになりました。本日は早退ですわ。

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