わたしと殿下1
殿下に呼び出されました。プリラム草を差し上げて以降、今までも何度か呼び出されてはいたそうですが、お姉様の療養について行っていると断ってくださっていたそうです。お姉様よりひと足先に帰らなければいけなくなり、帰りこそは同じ馬車で…と思っておりましたので、「一緒に帰れないのね…」と、お姉様と一緒に落ち込みました。本当に残念でなりません。
仕方がないので、お姉様がお戻りになるまでの間に、殿下との決着をつけるつもりで、気持ちを切り替えることにいたします。
あの時と同じように、庭にお茶の準備がしてありました。
殿下と挨拶を交わしますが、わたしは無表情です。失礼にならない程度の態度をとらせていただきますが、わたしの表情筋はお休み中です。
「祖父母のところに療養に行っていたそうだな」
「はい」
「アリシアはよくなったのか?」
「はい」
わたしは淡々と返します。これまで、殿下の前ではいつもニコニコしておりましたから、見慣れない無表情のわたしに殿下は少し戸惑っておられます。
「ライラにもらったあの花だが…」
いよいよ本題に入られるようです。殿下がかぶれた話は聞いております。
あの時耳打ちして、疑念を抱かせたのはわたしです。
殿下はどうでられるのでしょうか…。
「あの花はプリラム草というそうだ」
「そうなのですか」
「あの花の根は薬の原料になるそうだが、花や茎は…触るとかぶれるそうだ…」
「そうなのですね」
「君は大丈夫だったのか?」
「はい…」
わたしは、変わらず淡々と返します。
殿下が一口お茶を飲み、意を決したように尋ねられました。
「……ライラは…知っていたのか?」
「何をです?」
殿下は言いにくそうにしながらも、言葉を続けました。
「……あの花に触れるとかぶれるということを…だ…」
「……」
わたしは答えません。ただ、殿下を見つめます。
「……知って…いたのか?」
わたしはしばらくの間をとり、答えました。
「なぜ、そのようなことを?」
「君は…あの日手袋をしていた…。君の侍女もだ…。それに……あの日、君はわたしに囁いただろう…。『お姉様は、わたしを守ってくれたのだ』…と……」
わたしは殿下を見つめます。
「…はじめは、わからなかった…。言われた言葉も…その意味も…。……だが、君にあの花をもらい、皮膚がかぶれた…。それで、君の言葉を思い出した…その意味を考えた…。君が、一度もアリシアのことを悪く言ったことはない。いつも、お姉様は優しいのだと繰り返していた…。そうしたら……もしかしたら、君はあの花でかぶれることを知っていたのではないか……。そう考えるようになった……」
鈍い方ではないので、話が早くて助かります。
「お姉様は、わたしを守ってくれたのです」
本日はじめての微笑みを向けて、あの時の言葉を繰り返しました。わたしに視線を戻した殿下が、はっとした表情をされています。
「仮に、わたしがプリラム草のことを知っていたとして…どうなさるのですか?殿下は、わたしがわざとかぶれさせたとおっしゃりたいのでしょう?それが本当だとしたら、王族を害したと罰しますか?
わたしはただ、殿下に元気なお花を差し上げたかったかっただけですよ?」
証拠となりうる決定的な言葉は申しません。
殿下にプリラム草を差し上げたことはひとっっつも後悔しておりませんが、王族である第三王子殿下を意図的に害したと責められては困ります。わたしだけなら、いくらでも罰を受けますが、家やお姉様まで類が及んでは困りますから。