殿下とわたしとプリラム草
「あの時の花だな」と、殿下がプリラム草に触れました。わたしは、にっこり殿下に微笑みかけます。
天使のようだと言っていただくことのある微笑みです。
殿下の手にしっかりプリラム草を握らせ、その上から殿下の手に自分の手を重ねます。もちろん、殿下は素手でプリラム草を持っております。
手と手を重ねた状態で、殿下と視線を合わせて微笑むと、殿下のお顔がほのかに紅くなりました。
お姉様のことを悪しざまに語り、わたしに頬を染めるなんて…。舌打ちしたい気分です。無表情になりそうでしたが、頑張って笑顔を保ちます。
「殿下にさしあげたくてお持ちしましたの。もらってくださいませね」
殿下にお花を差し上げました。お花を受け取った殿下はメイドに花をあずけます。メイドは持参した予備の手袋をつけていました。連れてきた侍女がうまく説明してくれたようです。
それから少しお話をして、殿下のところを失礼することにいたしました。お姉様が待っています。
去りぎわに、ダメ押しで殿下の手をグローブをした両手で包み込むように握り、にっこり微笑みました。わたしのロンググローブには、プリラム草の花粉や繊維がたくさんついているはずです。そのまま握った手を引っ張ると、よろけた殿下がわたしに近づきました。
「殿下。お姉様は、わたしを守ってくれたのです」
近づいた殿下にそう耳打ちして離れました。再びにっこり微笑みかけます。殿下はわたしの行動が予想外だったのか、呆然としておられます。
わたしはご挨拶をして、その場を失礼いたしました。
「え?ライラ?」
何と言ったのだ?と声を出した殿下のことは聞こえないことにいたします。わたし、これからお姉様を追いかけて出発しなければいけないので、忙しいのです。
わたしのロンググローブと侍女の手袋は、城を出て早々に、適当な理由をつけて処分いたしました。うっかり触ってしまっては、もともこもありません。
わたしは我儘なのです。大好きなお姉様を泣かされて黙っているほど、おとなしくもおしとやかでもありません。ましてや、お姉様のように優しくもありません。
お姉様を傷つけて泣かせたのですから、殿下は痛い目に合えばよいのです。
なんだか…ライラがヤバイ子になってきました…。
ただのシスコン…お姉様大好きっ子のはずだったんですが…。