殿下とわたし
殿下にお会いする日、お姉様には先にお祖父様のところへ向かっていただくことになりました。セバスが付き添いです。
一言言わせていただくと、お姉様にわたしの計画を知られれば止められる。セバスに知られても叱られたうえで邪魔される…と思ったわけではありませんよ。
お姉様は、数日かかる道のりをわたしと一緒に過ごしてくださるつもりだったので「一緒に行けないの?どうしても…?」と悲しげなお顔をされました。わたしだって、お姉様と同じ馬車で行きたいです。負けそうになりましたが、わたし耐えました。どうしても殿下に一矢報いたいのです。わたしは我儘ですから、お姉様を泣かされたままでは我慢なりません。
庭の管理はセバスに一任されています。セバスにプリラム草をわけてほしいとお願いしましたが、かぶれるからダメだと言われました。何に使うのか聞かれ、正直に答えました。
「殿下にお姉様の優しさをわかっていただきたいの…」
お姉様に対する誤解を解きたいのだと繰り返しお願いすると、素手で触らないように約束させられたあとでしぶしぶ許可をくれました。
数本摘み取り、小さな花束にしてもらいます。
わたしは、殿下を訪問するために着替えました。この日のために作ってもらっていたロンググローブを身につけ、手袋が不自然にならないように色を合わせた袖の短いワンピースを来ています。特殊加工をしてもらったので、プリラム草の成分が布から滲みてわたしの肌に触れることはありません。
もちろんデザイン違いで侍女の分の手袋も準備しております。殿下のとばっちりでかぶれるのはかわいそうなので、ぬかりはありません。
「このお花は、熱に弱くて痛みやすいらしいの。人の体温でもダメかもしれないでしょう。殿下にさしあげるまで、元気でいてほしいから、手袋をして触ってね。できるだけ、元気な状態でお花をさしあげたいの。お願いね。」
そう言って侍女に手袋を渡しました。
プリラム草が本当に熱に弱いのかは存じません。ただ、侍女が素手で触らないようにするための口実です。
「まぁ、そうなのですね。かしこまりました。いい状態でお渡しできるように気をつけますね」
侍女は何か勘違いしているようで、暖かい目を向けてきます…。殿下への特別な贈り物ですが、別に殿下への好意などありませんよ?というか、殿下の印象はマイナスへ振り切ってしまいましてよ。
まぁ、侍女が必ず手袋をつけてくれるなら、なんでもよいですが…。
「お嬢様、どうかなさいました?」
「なんでもありませんわ」
いけません、いけません。表情が固まってしまっておりました。