お姉様と殿下とわたし
殿下がいらっしゃいましたが、お姉様とは簡単に挨拶を交わしただけで、視線は合わせません。触れようともなさいません。眉間に皺を寄せ、不快そうにしています。それなのに、わたしを見つけると早足で近づき、笑顔で挨拶をしてくださいました。膝を曲げて視線を合わせてくださいます。お姉様がお茶会の会場へ誘うために声をかけると、殿下はわたしの手を引いて歩き出しました。笑顔で話しかけてこられます。
なんですか?コレ…。なぜ、お姉様を無視してわたしをエスコートするのでしょうか?
お姉様を見ると、悲しそうなお顔をされています。殿下がお姉様を悲しませたことにイラっとして、引かれた手に力が入ってしまいました。
それに気づいた殿下が振り向きましたので
「お姉様と喧嘩でもされたのですか?」
と聞いてみると、「あぁ…いや…」となんとも歯切れの悪い返事が返ってきました。
「ライラは、アリシアのことをどう思っているんだい?」
今度は突然そんなことを聞かれました。一体何なのでしょうか?答えは決まっております。
「もちろん大好きですわ」
かぶせぎみに即答いたしました。
「…そうか……」
何か言いたげでしたが、殿下はそれ以上何もおっしゃいませんでした。
お茶会中も、殿下はお姉様と目を合わせません。お姉様から話をふられても、そっけなく返すばかりです。そして、殿下が話をふるのはわたしだけ…。
お姉様が殿下とお会いした後、悲しそうな顔をされていたり、落ち込んでいる理由がはっきりわかりました。
何なのですか、殿下。
わたしは、お姉様と殿下を同じ場所に居させたくなくて、お姉様を散歩に誘いました。
お姉様と手をつないで庭を歩きます。
殿下は誘ってもいないのに、後ろをついていらっしゃいました。
庭を進み、鑑賞用の花が植えてある場所を抜けて別の一角に進みます。そこで、わたしはある花を見つけました。可憐な青い小さい花が咲いています。
「見てください、お姉様。かわいい青いお花がありますよ」
花のところへ向かってお姉様の手を引きました。
そして、わたしがその青い花に触ろうと手を伸ばした時、
「触らないで!」
そう言って、お姉様がわたしの手を叩き落としました。
「あなたが触っていい花ではないのよ」
お姉様が珍しく厳しい声を出しました。