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プロローグ

 中高年の恋物語です。したがって、年齢四十代以上のそれなりに人生を送られた方を念頭に書いてみました。そのため、それ以下の方にとっては、まどろっこしくて退屈と感じるか、あるいは遠い未来に自身にも訪れることになる局面と捉えるか。いかようにでもということで、我慢して読んで下さい。

 有吉(ありよし)健二(けんじ)は、夜が明けきらない暗い林道の峠を目指して、ハンドルを右に左に忙しく動かしていた。助手席の加賀美(かがみ)光代(みつよ)は、チラリと有吉に視線を投げたが、すぐに突き刺すようなヘッドライトの光芒(こうぼう)を見つめて沈黙の世界に身を(ゆだ)ねた。

 青みを見せ始めた上空にきらりと光る星が見えた。あの天空は、二人の行く末を暗示するかのように穏やかで静かだった。やがて峠に着き右カーブ手前の空き地に車を停めた。東の空が明るさを増し、前方の山の稜線(りょうせん)が黒々と浮かび上がってきた。瞬く間に黄金色(こがねいろ)に変わり始め、どちらともなくドアを開けて外に出た。視線を向けた健二に、光代は微笑(ほほえみ)を返した。この朝の光の中では、言葉はいらなかった。

 朝日に顔色が輝くように見える光代を眺めながら、健二はこのめぐり合いは運命的で、ようやく神の存在が確かめられたと思った。あの混乱と戸惑いの日々、それを振り切った日が(よみがえ)ってきた。


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