婚姻編
大きなお城の屋上から見る景色は昼も夜も美しいものだった。それはこの国の人々が時間をかけて一生懸命作り上げてきたものだからだとお母様は言っていた。
お父様はいつもこの景色を私に見せて。
『アリシア、この美しい国を守るのが私の仕事だ。この国の者や財産は守る価値があるものだ。お前も大きくなったら守る価値のあるものを、守りたいものを探しなさい』
と言っていた。あれから10年、私はまだ守りたいものが見つからない。
「今日も楽しくなりますように」
屋上で手を合わせると、私はお城の中に入った。ほうきを手に取り、長い廊下を掃きながら各部屋を回る。
「〜♪〜♪〜♪」
鼻歌を歌いながらお掃除を続けていると、廊下の向こうに人影が見えた。
「アリシア様〜!」
何やら私を呼んでいる。私が軽く手を振るとその人は猛ダッシュで私の所へ来た。
「アリシア様!こんなことをしてはいけません!お洋服が汚れてしまいますわ!」
私からほうきをとりあげると、メイドのクレアはものすごい勢いで怒った。
「おはようクレア、いい朝ね。」
「何を言っているんですか!早くお部屋に戻られてください!」
「あまり怒るとシワがふえるわよ〜」
怒りっぱなしのクレアに渋々お掃除を任せて外に出ると、メイドのエリーが庭の花にホースで水をやっていた。
「おはようエリー、いい朝ね。」
「わっ、アリシア様!?」
急に声をかけたせいか、エリーは驚いてひっくり返ってしまった。その拍子に、持っていたホースを手放してしまい、ホースが暴れて、水が飛び散っている。
「わぁぁぁぁぁ!!すみません!!!」
やっと捕まえたホースを持って、びしょ濡れの私にエリーは深々と頭を下げた。
「大丈夫よ、急に声をかけてごめんなさいね。エリーも早く着替えなさい。風邪ひくわよ。」
濡れてしまった服を変えるため、私は1度自室に戻る。そして服を着替えると私はもう1度庭に出た。もう既にエリーの姿は無く、そこには燕尾服を来た、執事のレオンが立っていた。
「レオン!街に行くわよ!」
「おはようございます。お嬢様、いい朝でございますね。」
「おはようレオン、私も全く同感だわ。」
「それで街というのは?」
「街に出るわ、馬車を準備しなさい。」
「かしこまりました、お嬢様。」
お辞儀をしたレオンは馬車を用意しに行った。しばらくすると馬車が到着し、私はそれに乗り込む。するとゆっくりと馬車が進んでいき、私は窓から外の景色を見た。
気持ちいい〜
お父様とお母様が事故で亡くなってから3年。国の雰囲気がだんだんと明るくなってきた。お父様とお母様はとてもいい国王と王妃だった。
国を愛し、国に愛されてた人たちだ。それは子供の私から見てもよくわかった。その分、2人が亡くなった時は国全体が暗くなってしまってとても辛かった。
私は2人が亡くなった時はまだ13歳だった。お父様たちの守ってきたこの国を私も守りたかったけれど、私が手をつける前に政治のことや国のことはレオンが全てやってくれており、私にはやらせてくれなかった。
レオンは私が小さい時から私の執事だった。歳は3つしか違わないから、幼なじみみたいなものだ。
「着きましたよ、お嬢様。」
小さい時から私をお嬢様と呼んでいるけれど、2人の時は名前で呼んでくれる。
「ありがとうしばらく時間潰しててちょうだい。」
「かしこまりました。」
私はよくこの城下の街に来るようにしている。それは、お父様たちがしていたことでもあるからだ。馬車から降りた私は街を歩き回る。すると、八百屋のご主人に声をかけられた。
「おっ、アリシア様、今日も散歩かい?」
「えぇ、そうよ」
「アリシア様はこの街が本当にお好きねぇ〜」
八百屋の奥様も笑いなら言う。
「もちろんよ、この街も、この国も大好き!」
私の言葉に街の人たちはにこにこしている。本当にこの国は明るくなってきた。しばらく街をまわると、私は馬車に戻った。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ただいま、レオン」
お城に戻ると、何やら中が騒がしかった。
「騒がしいわね」
「見て参ります。」
レオンが駆け足で中に入ると私は中庭にでて噴水のふちに座った。すると、目の前の茂みで何かがカサッと動いた。
「エリー?」
動いた方を覗くと、そこには知らない男の人が立っていた。黒髪で青い目をしたその人は私に気付くと私の方に歩いてくる。
「誰?」
「俺はユーリ·クラウス」
ユーリ·クラウスですって?!それって…
「そ、あんたのフィアンセ」
「あなたが……」
幼い頃から決まっていた私の許嫁…
彼はユーリ・クラウス。隣国の第一王子で、歳は私の3つ上、そして私の許嫁だ。と言っても幼い頃に両親が決めたことだし、実際に会ったこともなかった為、拘束性は全くないと言ってもいい。
「どうしてここに…」
「フィアンセの家を訪ねちゃいけないの?」
16年間訪ねてこなかったくせになんで今更訪ねてるのよ。
「いえ、そんなことは…」
ユーリ・クラウスは私がさっき座っていた場所に座ると、私を見た。
「しかし、俺の婚約者がこんなガキだとはね」
「え?」
「昔から決まってたこととはいえ、理不尽にも程があるよねー、こんな小娘と結婚しろだなんてさ?」
「ちょっと……さっきから失礼じゃなくて?」
「なにが?俺は素直な感想を言ったまでだよ。こんな何の得にもならない結婚話嫌だなーってさ?」
「………………」
彼の言葉に私は俯いた。
「あれ?泣いちゃった?やめてよ、俺は素直な感想言っただけなのにさー?」
そう言っているユーリ・クラウスの口調は心なしか楽しんでいるように聞こえる。
「…わかりました。」
「ん?何?」
「今ここで、婚約を解消します。」
「は?」
「だから、この結婚話をなくならせると言っているの。後日あなたのご両親にも連絡するわ。」
「なっ、何勝手なこと言ってんの?そんなこと勝手に出来るわけ…」
「できます。幸い、こちらには反対する親はいないの。よかったね、これで利益のある結婚ができますよ。では」
私は彼に背を向け歩き出した。すると、腕を掴まれて振り向かされる。
「…あんた本気で言ってんの?」
「もちろん、何か問題でも?」
「問題だらけだろ、勝手に決めるなよ。」
「結婚を嫌がっていたのはそちらでしょう?思い通りになって喜ぶべきなんじゃないの?」
「そりゃそうだな。でも…」
ユーリ・クラウスは私の顔をじっとみた。
「なんかムカつく」
勝手はどっちよ!
「そんなの知らないわ。これで婚約者でもなんでもないのだから気安く触らないでよ。」
ユーリ・クラウスの手を払うと私は後ろを向いて歩き出そうとしたが、すぐにまた腕を掴まれ、振り向かされた。
「まだ話終わってない。」
「もう話すことなんてないでしょう」
私がそう言うと彼はニヤッと笑う。
「あー、あれで怒ったんだ?それで婚約解消?子供っぽすぎるんじゃない?」
「会ったばかりの人に対して最低限のマナーも守れないような人と結婚したくないと思っただけよ!」
「は?会ったばかり?」
「失礼なことばっかいって!結婚なんてこっちからお断りよ!」
私は肩にあったユーリ・クラウスの手を払った。そして今度こそ後ろを向いて歩き出す。
「まだ話終わってないって言って…」
私がまた振り向かされることはなかった。ユーリ・クラウスの声が途中で途切れたことを不思議に思った私が自分で後ろを振り返ると、ユーリ・クラウスの手を掴んでいるレオンがいた。
「お嬢様に気安く触れないでいただきたい。」
珍しくおこっているレオンはユーリ・クラウスを睨みつけている。
「何言ってんの?俺はこの子の婚約者だよ?身の程わきまえたら?」
「先程解消されたようですので、その必要はないかと。ご両親には私から連絡を入れておきます。お嬢様お部屋に戻りましょう。」
レオンはユーリさんの手を離すと私の後に来た。
「ふっ…」
それを見たユーリ・クラウスは小さく笑った。
「後で泣きついてきても俺は知らないからね?アリシア」
「どういう意味?」
「そのうちわかるよ。」
そう言ったユーリ・クラウスの顔は余裕があるように感じた。その表情を不思議に思いったがレオンに背中を押され、私は自室に戻った。
「気にするな、はったりだろう」
自室に入るとレオンがそう言ってくれる。
「…そうよね」
「あぁ、もう寝るか?」
「えぇ」
私がベッドに入ると、レオンは布団をかけてくれた。
「おやすみ、アリシア」
「おやすみ、レオン」
レオンは部屋の電気を消して私の部屋を出ていった。
「…………」
「…………」
目が覚めるとユーリ・クラウスらしき人が目の前にいた。
「…………」
「…………」
ずっとこっち見てる…
「…………」
「…………」
え…どうゆうこと…?
私が混乱していると、ユーリ・クラウスはニコッと笑って。
「おはよう」
と挨拶をした。
「…………なんで部屋にいるのよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
私はベッドから降りて部屋を出た。お城中走り回ってレオンを見つけるとレオンの胸ぐらを掴む。
「誰が入れたのあの人、ねぇ、誰が入れたの?というか、何でまだここにいるの?ねぇ!」
「落ち着いてくださいお嬢様…それは…とても深いわけが…」
私をなだめるとレオンは私を自室の方に歩かせた。
「どんなわけよ!言ってみなさい!」
「申し訳ございません、お嬢様。」
「?」
私の部屋の前に着くと何故かレオンは謝る。そして、私を部屋に押し込んだ。
ガチャッ
「え?」
今ガチャッっていったよね?鍵閉められたの?え?なんで?どうして?!
「え?!レオン!?レオン!なんで?え?!なんでー!!!!」
レオンは私の呼びかけに一切答えなかった。
嘘…どういうこと…?
私は状況がわからず部屋の中に入る。
「おかえり、アリシア」
そこで待っていたのはベッドの上で満面の笑みを浮かべたユーリ・クラウスだった。
「ていうか!どうしてあなたがここに?!」
「知りたい?」
「えぇ、まぁ」
「じゃあ土下座して?」
「はぁ?!」
「昨日は傷付いたなぁ〜、フィアンセの俺に対して?あんな態度とるんだもん、しかも婚約解消とか言い始めるし。不愉快だったから土下座して?」
「なっ!冗談じゃないわ!誰があなたなんかに!」
私はユーリ・クラウスに背を向けてクローゼットを開ける。こんな人に構ってても時間の無駄だわ。服を選んでいると、後ろで人の気配がして、振り返った。すると、ユーリ・クラウスにてをひかれ、しまったクローゼットの扉に体を押し付けられた。
「…………」
なななななな、なに!?!?
「俺を無視して服選びとはいい度胸してるね。アリシア」
そう言っているユーリ・クラウスはとても楽しそうだ。
「アリシアはなんとも思わないの?若い男女が、しかも婚約している男女が寝室で2人きり、俺は十分ときめいてるよ?」
「いじめて喜んでるようにしか、見えないけど…」
「そっちの方が正しいかもね」
「あなたはどうしてここに?」
「君を笑いに来たのさ。」
「どういう意味?」
「この国が今どんな状況か知ってるの?」
「え?」
「この国は先王が残した借金や、罪で真っ黒だ。同盟国とも縁を切られ、頼る所もない。」
「どういうこと?」
「やっぱり知らなかったんだね。この国は多額の借金にまみれ、君の父親はね人身売買をしてきたんだよ。この世の中、物より人の方が売れるからね。」
「嘘……」
「君の父親は事故にあって亡くなったってことになってるんだっけ?」
「えぇ……」
「でも実際はね、殺されたんだよ。」
「どういう……!」
「君の父親はもともとは立派な人だった。けれど借金がかさんだ時に闇の組織から目をつけられ、あっという間に罪に手を染め、口止めに殺された。」
「…………」
「そして、崩れかけたこの国を崖っぷちで支えていたのがレオン君だよ。彼はすごいね、あらゆる手段をつかって最悪の状態から少しだけ持ち直した。まぁ、もう後何年も続かないだろうけどね。」
「そんな…」
気が付けば、私は泣いていた。私は何も知らなかった。この国がどんな状況かも、お父様が何をしていたのかも………………レオンがどんな思いだったのかも。
いつも笑っていたレオン。その笑顔の下にどんな思いがあったの…?どれだけひとりで苦しんだの…?私は…私は…………
「…このことを知っている人は?」
「俺と俺の両親と、レオン君だけだと思うよ?まぁ、後は君の父親を殺した組織の連中ってかんじかな?」
「この国は…どうなるの…?」
「さぁ?このままなら確実につぶれるかな?」
「どうすれば…」
私がそう呟くと、ユーリはニヤッと笑った。
「君になら救えるよ?」
「え?」
「君がどこかの国の王族と結婚してこの国を夫に渡せばいい。妻の国をつぶすくらいなら誰でも立て直そうとするでしょ、レオン君もいるし、今必要なのはとりあえずお金だろうしね。」
どこかの国のって…そんなの見つかるわけ…借金まみれの国を助けようとする人がいるわけが…!
「そんな人…!」
「いないだろーねぇ?借金まみれの国を救おうとするお人好しがいたらこんなに困ってないだろうしねー、レオン君」
「……っ……」
レオン…ごめんなさい…私は何も…何も…私は…
私は無知だ…
「…………レオン…っ……うっ……レオっ……ごめんなさい……」
私は声を抑えながら泣いていた。もう感情を抑えることができない。私は何も知らなすぎた。私には何も出来ない。私は…どれだけレオンに甘えていたのだろう…
「助けてあげようか?」
「え?」
「俺が資金を提供するから、それでレオン君が立て直せばいい。お金があればきっとレオン君なら元に戻せる。借金は俺が返すし、お金の心配はいらない。」
「本当…?」
「まぁもちろん、ただじゃないけどね?」
「私にできることなら…なんでも……」
「ならまずは…俺と結婚すること、そして俺の国に来ること、これを条件にするよ。」
ユーリ・クラウスの言葉に私は目を見開いた。
「結婚…………」
「どうする??」
ユーリさんは笑いながら私に顔を近づけて聞く。
「します…結婚します…だから…レオンを助けて…!」
「………あー、やっぱやーめた」
「え?」
ユーリ・クラウスは私から離れるとベッドの横にある椅子に座った。
「だって俺にメリットないしー?それに言ったじゃん?」
ユーリ・クラウスはいじわるく笑いながら
「泣きついてきても俺は知らないからね?って」
と言い放った。
「……っ……」
あぁ、そういうことだったのね…この国のことを話したのも、助けるふりをしたのも、私をどん底に突き落とすため…そんなに嫌われていたのね。
私はフラフラとドアの方へ歩き出す。
「どこ行くの?」
「レオンのとこ」
ドアノブを引いてみると鍵は既に空いていた。
「なんで?」
「ふたりで考える…どうするかを…」
「だからさぁ?どうにもできないって言ってんじゃん?」
私は振り返ってユーリ・クラウスを見る。
「どうにかするわ!私はこの国の王女ですもの!これ以上大事な人に辛い思いを1人でさせるなら、私も同じ思いを背負うわ!」
ドアを勢いよく開けると、急に腕を後ろに引っ張られ、体が床に倒れ込むと、ユーリ・クラウスが私の上に覆いかぶさった。
「あぁ、もうイラつくなぁ〜」
「え?」
「ねぇ、アリシア、これ以上俺を怒らせないでよ」
「何言って…」
「なんであんたは執事のことしか頭にないわけ?どんだけ頭悪いの?なんで俺にもっと頼まないの?」
「なんでって…初対面の人に、しかも嫌われてる人にどう言ったって無理なものは無理でしょう…私も嫌いな人に頼み事なんて嫌だし…」
「なんだよそれ…泣いてすがり着けばいいじゃん、助けろって、なんでしないの?」
「だから私を嫌いな人に……んっ……」
気が付くとユーリ・クラウスの顔が目の前にあって、唇が重なっている。
これって………キ…
「やっ……んっ……」
逃げようと顔をそらすも、すぐにまたキスされてしまう。
やだ……なんで……
抵抗虚しく、なすがままにされていると、ユーリ・クラウスは私から離れた。私はすぐに起き上がるとドアを開けて走りだす。
どうして…こんな…!
中庭に出ると、そこにはいつもと変わらないレオンがいた。
「レオンっ!」
私はレオンの名前を叫んで、レオンに抱きついた。
「ごめんなさい…レオン…私、私何にも知らなくて…!ごめんなさい、1人で辛かったでしょう…ごめんなさい…」
レオンは泣きながら話す私の背中をさすってくれた。
「お嬢様が心配することではございません、これは私の仕事です。どうぞ、お気になさらないでください。」
その言葉に顔を上げると、私はレオンの頬を両手で包んだ。
「何が気にするなよ……1人でこんなこと隠し通して、つぶれそうな国支えて……あとどれだけ苦しむ気よ……」
「お嬢様…」
私は…もう後悔はしたくない…
「……私、ユーリさんと結婚するわ」
「……っ……あれほど嫌がっていらっしゃったのに!?」
「それがこの国の最善だもの」
「アリシア!」
レオンは私の名前を呼び、肩を掴んだ。顔を上げると、焦っているような、心配しているようなレオンの顔が目に入る。
「レオン、今まで国を支えてくれてありがとう。この先もきっと国のことは頼ってしまうけれど、私は私に出来ることをするわ。」
「………………」
レオンの手が肩から滑り落ちた。私はレオンに背を向け自室に向かう。
自分の部屋の前まで来た私は、ドアの前で迷っていた。
開けるべきか、開けざるべきか………………えぇい!どうにでもなれ!
勢いよくドアを開け、中に入ると、ユーリ・クラウスはベッドの上にいた。
「あれぇ?戻ってきたんだ?何しに来たの?」
怒った様子もなく、普通に接する彼に少し怒りを覚える。けれど、私はその怒りを沈めて彼の前に正座した。
「え?」
彼は驚いたように私を見る。私は床に手を付き、深々と頭を下げた。
「ユーリ・クラウス様、どうか私を、私の国を、大事な人を助けてください。私に出来ることは何でもさせていただきます。先王……お父様が道を踏み外したことが原因だと言うのなら、この命も好きにしていただいて構いません。どうか、お願いします。」
「なにこれ。さっきと全然態度違うじゃん。」
「…………」
私は何も言わず、頭を下げ続けた。するとユーリ・クラウスは私の目の前に立った。
「ふーん、国の為、いや、あの執事の為に好きでもない男に好きにしてとか言うんだ?」
「………………」
「じゃあ、俺が君を娼婦として売り出そうが、臓器売買しようが君は何も言わず言いなりになるって訳?」
私はゆっくり顔をあげると、彼を真っ直ぐ見つめた。そしてもう一度頭を下げる。
「どうぞ、ご随意に。」