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第53話 魔法の時間はもう終わり。


わたしはどこを歩いているんだろう。


 わからないけれど、アパートに帰る気はなかった。帰れるはずがなかった。


 そこにはもう、わたしの居場所はないから。


 ううん、違う。あそこにはもう、彼は帰ってこないはずだから。


 バカだ、わたしは。彼と一緒に帰ろうなんて。


 こんなわたしに、あんなに沢山の人が告白してくれたんだ。


 夏休みの始まり。あの子が今日という日を選ばないわけがなかった。


 今日までの時間は、ふたりの優しさが創ったものだったんだ。そして、今日がその終着点。


 だからわたしは独り、どことも分からずふらふらと歩いていた。


 気づけば、雨が降っていた。


 それはわたしの心と同じように、冷たい冷たい雨だった。



 夢乃に再会した日。二人だけで話をした。


 それはお互いに様変わりしていたわたしたちが現状を認識するためのもので。そして当然、想いを語るための場だった。


 『私は北見祐樹くんが好きです』


 はっきりと夢乃はそう口にした。


 それに対して、わたしなんて言ったっけ。どんな言葉を、彼のために練ったっけ。


 あの時は必死で、もう覚えていないけれど。でも夢乃の言葉を聞いたその瞬間に、わたしはすべてを知ったのだ。わかってしまったのだ。


 彼と彼女の物語を壊したのは自分なんだって。


 幼い日に敵対していた二人。


 彼女が彼に恋していたことは知っていた。そんなの、女の子なら一目見ればわかったと思う。


 知らなかったのは、彼だけ。


 彼女はきっと、彼のために変わったのだ。わたしのように間違った方向にではなく、ちゃんと彼好みに。


 そして彼もまた、そんな彼女に恋をしていた。


 それがきっと、彼をあんなにも苦しませていた原因。あの日にわたしの膝で涙を流した彼。図書室のラベルがついた『星の王子さま』。そしてバイト先にいた彼女。ぜんぶぜんぶ、繋がっていた。


 再会した二人は、お互いを想っていたのだ。


 ああ、なんて綺麗な物語なんだろう。彼らはまるで運命によって導かれたかのように再会して。少しずつ、少しずつ、距離を縮めていたんだ。


 そうしていつしか、結ばれるはずだった。


 それなら、邪魔者は誰だ。悪者は誰だ。本当の道化は誰だ。


 わたししか、いないじゃないか。彼らの間に横入りしたのはわたしだ。わたしが、たったひとつのあんな小汚い方法ですべてを壊してしまったんだ。


 わたしのエゴが、我儘が、孤独に耐えきれない弱さが、ぜんぶ悪いんだ。


 それが、彼らの物語への裏切りだったんだ。


 だから本当に彼のことを想うならば、わたしはもう消えるべきだ。


 もう十分だよ。もう十分もらったから。楽しかったから。嬉しかったから。彼の心に棲めたから。苦しんでくれたから。


 魔法の時間はもう終わり。


 最低最悪な方法で自分の物語を手にしれようとした悪者は舞台を去ろう。


 ひたひたと、暗くなってきた道を歩く。


 ふと、誰かから声をかけられていることに気づいた。


 それは知らない誰かの声だった。

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