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第39話 お待ちしています。


 以前、友人である遠野正義(とおのまさよし)に聞いたことがある。


 「小暮夢乃とはどんな子だ?」と。


 それに対する答えは大方予想通りのものだった。


 人当たりが良く誰からも好かれる優等生。勉強も運動もできる文武両道の少女。


 運動神経が良いという点は俺にとっては初耳のことだった。入学してすぐの頃は各部活による熾烈な獲得争いが起こったほどであるらしい。しかし彼女は本が好きだからと図書委員を選んだ。


 すべて、誰もが知っている小暮夢乃イメージに外れることではない。



「あの、俺を呼んだの店長ですよね?」


 夏も目先の休日。バイト先のドラックストア。その事務室にて俺は呆れを滲ませながら問いかける。


「へぁ!? い、いや何のことかなぁ!? 北見君は今日のシフトじゃないはずだよ!?」


「いや、今朝電話してきただろうが惚けんなよおい」


「え~そうだったかなぁ覚えてないなぁ僕ももう年かなぁ」


 わざとらしく下手な口笛を吹き始める店長。


 そろそろ胸ぐらくらい掴んでもいいだろうか。


「……どういうことなんすか」


「あ、あはははは……、と、とりあえずこれをどうぞ」

 

 店長は引き笑いを浮かべながら、一枚の小さな紙を差し出した。受け取ったその紙には、明らかに店長の字ではない丸文字のメッセージが書かれている。


「これは?」


「ま、まあ書かれている通りだよ。君はこの頃働きすぎだからね。少し羽を伸ばしてくるといい」


 店長はオトナのような表情を浮かべてそう言った。





 ドラックストアを後にした俺は、最寄りの駅に向かって歩いていた。


 紙に書かれていたのはたった一言。


 ――――駅前にて、お待ちしています。


 正確な駅名は書かれていなかったが、それは書く必要がないからだろう。最寄りの駅、この町に住む人間にとっての駅へ行けば間違いないはずだ。


 次に、メッセージの主について。


 これも考えるまでもない。心当たりなんて二人しかいなかった。そのうちの一人、もし瑞菜であるならばそもそもこんなふうに店長を介する必要などないはずだ。


 だから残りは一人。瑞菜以外に俺とバイト上の接点があって、こんなことをする可能性がある人間なんて一人しか思い浮かばない。


 普通に誘っては俺が断る、もしくは瑞菜の邪魔が入ることを見越しているのだろう。まったく、抜け目がない。


 駅前は休日なこともあってそれなりに人通りが出来ていた。休日に関わらずスーツ姿で慌ただしく歩くサラリーマン。友人と楽し気に歩く学生たち。


 そして、デート待ちであろうカップルの片割れ。


 そのあたりを少し見渡せば、探していた彼女はすぐに見つかった。


 見慣れた少女の顔がひとつと――――その少女に絡むガラの悪い男が3人。


「――――おい嬢ちゃんさぁ、いい加減にしろよ?」


 それは男の手が彼女の細い手首を掴んだ瞬間だった。

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