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第31話 なにこれ美味しい!


 ゆったりとした音楽の流れる店内は薄暗い照明とお洒落で高級感のあるインテリアに彩られている。


 休日のお昼時、俺と瑞菜がやってきたのは欧風カレーのお店だった。


「へえ、欧風カレーってヨーロッパのカレーってわけじゃないんだな」


 俺はテーブルにメニューと共に添えられていた冊子を見ながら呟く。


「え? そうなの? でもでも、日本のとは全然違うよ? なんかお洒落! カレーとライスも別々だし!」


「いやそれはカレー専門店ならわりとそうなんじゃねえの? なんならココサンのテイクアウトもルーとライス別々だろ」


 まあ、テイクアウトはまた別の理由があってのことだと思うが。少し考えてみれば、ルーがライスに染み切ってしまいそうなことはわかる。


「欧風カレーってのは日本生まれで、スパイスで仕立てたカレーをフォンや乳製品なんかでマイルドに仕上げたカレーなんだと。ちなみに、インドカレーってのはインドのものだが、カレーっていうよりもインドの煮込み料理全般を指すみたいだな」


「ほえー……ふぉん……」


「フォンはフランス料理で言う出汁のことな」


「あー、ダシ! ダシね! ダシはいいよね。なんか入れとけば美味しくなりそうな気がするもんね」


 深く納得したようにうんうんと頷く瑞菜。


 瑞菜にとって出汁というのは何出汁を指しているのだろうか。色々あるが、全部一緒くたに考えていそうな気がした。


 と言ってもここの欧風カレーのフォンには多くの材料が使われているようなのであながち瑞菜の思い描くものも間違っていないのかもしれないが。


 曰く、欧風カレーはフォンに始まり、フォンに終わるのだとか。


 出汁であるフォンを重要視していると言われれば、なるほど欧風カレーが日本独自のものというのも頷けるのかもしれない。


「どんな感じなのかなぁ。わたしでも作れるかなぁ」


 俺の話を聞いて、より期待を膨らませたらしい瑞菜は少し落ち着かない様子だ。


 そもそもなぜ俺たちが唐突にカレーを食べに来たかと言うと、それは先日瑞菜がカレーを作ったということにある。そしてそのカレーを食べた俺は初めて、瑞菜の作った料理に対して「美味い」と言ったのだ。


 そのカレーの味は平々凡々なもので具材も不揃いなものであったが、市販のルーで作ったカレーだ。余計なことをしていなければマズくなるなんてことはない。


 俺が監視していたこともあって、瑞菜はまともなカレーを作ることに成功したのだった。


 それからカレー作りにハマった瑞菜はお店でカレーを食べてみたいと言い出したわけで。


 その結果、突然バイトを休まされてまで俺はここにいる。


 瑞菜には「最近バイトしすぎ!」となぜかお叱りを受ける羽目にもなった。


(……そんなこと言われてもなぁ)


 最近はバイト仲間となった小暮の面倒を見ることが多かった。


 今日も、彼女は未だ慣れないレジと格闘しているはずだ。


 ――――頼りにさせてくださいね。


 そんなことを言われてすぐのこれは、さすがに少し申し訳なさを感じる。


「ゆう? ――――ゆう? ご飯来たよ? じゃがいもだけど」


「……あ?」


 瑞菜の声で思考がリセットされた。気づかぬ間に店員がサーブしてくれたらしい。


 瑞菜には「何考えてたの?」と少しだけ訝しむような目で見られた。


 そして目の前にはころんと皿に乗せられたじゃがいもと一切れのバター。


「え、ナニコレ」


「欧風カレーの前菜? みたいなものみたい」


「……へえ? じゃがバター、みたいだな」


 先ほどの冊子に書いていないかパラパラとめくってみる。


「なんか不思議。どうするんだろこれ。もう食べていいのかな」


 瑞菜は周りのお客の方はどうしているのかと様子を窺うようにきょろきょろと首を振った。


「いいんじゃないか、べつに。決まりがあるわけでもないだろ」


「う、うん。そうだよね」


 冊子によると瑞菜が言ったように前菜的役割であることは確からしい。


 まだカレーは提供されていないが、先に食べていいものなのだろう。


 じゃがいもなんて先に食べて腹が膨れてしまわないかが少し気になるが。


 おずおずと、俺たちはじゃがいもを口に運ぶ。


 その数秒後には、瑞菜から「なにこれ美味しい!」という呟きが漏れていた。


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