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第27話 バカバカバカ!



「んぁ……はぁ、はぁ…………あんっ……!」

 

 深夜。くぐもった声に導かれて、俺は目を覚ました。


(なんだ……?)


 疑問に思う間も、その声は続く。悩ましく、耐え忍ぶような、そんな声だ。


 まさか幽霊、とか。そんなこと言わないよな?


 この部屋に来て一瞬間、そんな気配は今までなかったと思うが……。と言っても俺に霊感などありはしないので分からないのだが。


 しかしそれなら、この声の正体は……。不法侵入の不審者……いや違う、よなぁ……。


 ほんとは最初から分かっていたつもりだ。


 なぜならこの部屋にいつ人間は初めから俺と彼女だけであり、その声はベッドの横たわる俺のすぐ背後から聞こえているのだから。


「ふぁ……すっごい濡れてる……。ゆうがあんなふうに触るからぁ……もう、我慢できないよぉ……」


 艶めかしく漏れる小さな声音。かすかに響く、ぴちゃぴちゃという水音。


 もう、間違いない。


 今、俺のすぐ背後で、幼馴染である瀬川瑞菜は自慰をしている。


(なにやってんだ……こいつ……)


 べつに、自慰をすることについてどうこう言うつもりはない。俺の名前が出ていることには少々思うことがなくもないが、女の子だって自慰はするだろう。むしろしてほしい。女の子は自慰なんてしませんとは言ってほしくない。


 だからそれ自体はいい……むしろ良い、のだが……。


(なんでこんなとこでやるのおおおおおおお!?!!?)


 頼むからそういうのはもっと、絶対にバレないところでやってくれ。


 隣で自慰されても気づかないで眠りこけられるほどの鈍感属性は俺には存在しなかったらしい。


「あっ……ゆう、激しいぃ……もっと、もっとぉ……」


 瑞菜の声がさらに色っぽさを増していく。背後に感じる体温が上がっていくのが分かった。荒くなっていく呼吸を感じる。


 そしてそれと同時に、当然俺のモノも反応していた。


 しかし俺は頑として寝たふりを決め込む。


 今、瑞菜を抱く気なんて毛頭ない。かと言って、ここで起きて瑞菜にやめさせるのも忍びない。そんなの、もし自分がと考えたら一生モノのトラウマだ。


 ああでも、ドM疑惑のある瑞菜なら或いは……本当は気づかれることを望んでいたり? だとしても、そんなことは考慮してやらないが。


「あっあっ、そこ、そこそこそこそこ……っ。んっ、ああンっ……っ」


 瑞菜の妄想がさらにヒートアップしていく。くちゅくちゅと、水音が増していく。


 10分、20分……どれくらい続いたんだろうか?


 それは途方もなく長い時間に思えた。


 そして瑞菜のそれが終わり、すぅすぅと規則的な寝息が聞こえてきたのを確認して、俺はひとりトイレへと向かった。


 俺がその後、しばらく寝付けなかったことは言うまでもない。







 翌朝。目を覚ますとベッドに瑞菜の姿はなかった。


 一足先に起きているらしい。身体を起こすと、ちょうど寝室のドアが開き瑞菜が顔を出す。


「ゆう起きた~? あ、おはよう~」


「おう。おはよう。今日は早いんだな」


「そ、そうかな? べつにそういうつもりもないんだけど……~~~~っ」


 なぜか視線を逸らして赤くなる瑞菜。


 そんな瑞菜の様子を見て、寝ぼけ眼の俺は深夜の出来事を思い出す。


(あーそういう……)


 よく見ると、瑞菜のピンクラベンダーの髪はほんのりと湿り気を帯びていて、先にシャワーを浴びていたことが窺えた。


「まああれだな。ああいうことはもうちょい細心の注意を払ってだな? 気づかれないようにしてもらえると助かるというかなんというか……」


「……え? え? ゆう? そ、そそそそれってぇ……? え? お、起きてたの……?」 


「へ? あ、いやすまん。今のナシで」


 慌てて訂正する俺。


 ふぅ、なんとか誤魔化せた。危ない危ない。気づかなかったフリをするつもりだったのに思わず寝起きの口が、ね? 


 決して故意ではない。


「ば、ばかぁ……っ! バカバカバカ! ゆうの意地悪! もうお嫁に行けないぃ……~~~~……」


 朝から目を真っ赤に腫らして泣き喚く幼馴染を俺は慰めることになったのだった。


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