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第17話 いっそ踏んでほしい!


「………………」


 昼休みの教室。一定のざわめき。その中で俺はひとり、自席にジッと座っていた。


 瑞菜は教室にいない。ギャルグループは基本的に空き教室で昼休みを過ごしているらしい。


 あちらはあちらで、今頃友人たちの質問攻めにあっている頃だろうか?


 俺はと言えば、クラスメイトの視線をひしひしと感じていた。


 朝から昼までの数時間。俺と瑞菜が一緒に登校してきたという噂が流れきるには十分な時間だ。


 無言の圧力をもって寄せられる、疑問の嵐。


 注目されるのは苦手だ。昔はなんともなかったのに、今では見られていると思うだけで脂汗がにじむ。心臓の鼓動が早まる。


 あの時の光景が、よみがえる。


 本当に勘弁してほしい。


 俺は少しでも気分を変えようと、購買で調達した卵サンドをかじる。こんなことならトイレにでも逃げ込めばよかったかとも思うが、それはさすがに惨めがすぎる。


 それに、一応待っている奴がいる。俺は決してボッチというわけではないのだ。


 しばらくするとようやく待ち人である見知った顔がひとつ、教室に足を踏み入れた。


 遠野正義(とおのまさよし)。転校生の俺にとっては数少ない友人の一人である。


 昼休みにも関わらず職員室に呼ばれていたらしい遠野は俺の姿を確認すると、ニヤッと笑った。


「ボッチ飯の味はどうですかな? 陰キャ転校生の北見きたみくん?」


「やっと来たかと思ったらいきなりそれかよ。ったく、まあ今朝よりはマシだなあ……」


 俺は思わず安堵の混じったため息を吐きそうになりながらも、何事もなかったふりをして会話を返す。


 遠野は遠い目をする俺を見て少し訝しんだようだったがさほど気にし様子もなく、慣れた手つきで近くの席にドカッと座った。


「ほれ」


 俺は遠野の分として買っておいたパンをいくつか手渡す。


「さんきゅ」


「で、おまえはまた何したんだ?」


「いやあ授業中にエロゲやってたのチクったやつがいたみたいでよ。小夜ちゃんにきつーく絞られてた」


 にひひ、と悪びれた様子もなく笑いながら話す遠野。たかが説教では何の更正も得られなかったらしい。


 小夜ちゃんというのは俺たちの担任教師だ。有村小夜ありむらさよ。新任ホヤホヤの美人先生である。


「死ぬほどバカでアホだな。ふつう授業中にやるかぁ?」


 エロゲとは神聖な儀式なのだ。それは自慰行為と同じようなもので。たった一人で向き合うからこそ美しい。


 しかし遠野にとってはそうでもないらしい。遠野は「ちっちっち」とうざったらしく指を振って話し始める。


「ばっかおまえ、バレるかもしれないから気持ちいいんだろ~? あのスリルがたまらないわけよ!」


「いや実際バレてるからな」


「それもまた一興。小夜ちゃんと二人きりでラブラブトークできるし?」


「有村先生的には引いてるだけだからな? 教え子じゃなかったらぜってえ関わりたくないと思ってると思うぞ?」


「それがまたいい! それでもオレなんかを構ってくれる小夜ちゃんマジ天使! もっと汚物を見るような目で見てほしい! いっそ踏んでほしい!」


「レベルたけえ……」


 変態としてのレベルが違いすぎる。いや、俺はただの純愛厨であって変態ではないけどな? 


 目の前の遠野正義を一言で表すとしたら、最上級の変態だ。


 キモオタでありエロゲーマーでありドMのヤバいやつ。ルックスはそれなりなのに、恋愛には縁のない悲しい男だ。


 俺は何を間違ったのかこの男と案外気が合ってしまい、エロゲの話なんかをするうちに縁が出来てしまった。


 今ではこうして昼飯も一緒する仲である。


「あ、そういえばさっき聞いたんだけどよ」


「あ?」


「北見おまえ、あの瀬川瑞菜と仲睦まじく登校してきたってマジ?」


 遠野があっけらかんとした間抜け面でそう口にした瞬間、クラスメイト全員が耳を寄せるのを感じた。


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