壊れた世界
〜プロローグ〜
「私たち大きくなったらゆっくり二人で生きよ!」
いつのものかも分からない小さい頃の記憶...
きっと僕自身も忘れている、忘れてはいけないはずの記憶
その記憶がいつも途中で途切れてしまう
第一章 〜壊れた世界〜
長い夢を見ていたきがするせいか意識が朦朧とする。
「こうや...こうや!」
どこからか声が聞こえてくる。
辺りを見渡すと母が青ざめた顔で手招いている。
どうやらずっと前から僕を呼んでいたようだ。
意識がはっきりしてきた僕は母のいる場所...具体的には自分たちがいる場所の景色を見て思い出す。
「あぁ...とっくにこの世界は壊れていたんだ」
壊れていると言っても正体不明の生物が攻めてきたわけでも、彗星が落ちたわけでもなければ、超常現象が起きた訳でもない。
ではなぜ世界は壊れたのか
事の発端は僕が産まれる4年前に黒人差別が問題になった。
最初は小さな黒人の暴動だけだったが、ある日を境にダムが決壊したように差別されている宗教をはじめ様々な人々が暴動を起こすようになった。
暴動を沈静化させるために多くの人を傷つけ時には国同士の争いも起きた。そうして世界は壊れて行った。
僕の父が住んでいた日本も例外ではなく父は4年前比較的安全だったオーストラリアに移住し母と出会い僕はこの"壊れた世界"で産まれた。
おおかた状況を理解した僕はすぐそこまで争いが迫っていることに気付いて母の元へ駆け寄って行った。
母は怒るでもなく僕の手を引っ張って争いの前線から離れていく。
僕が産まれた頃には学校というものはなかったが父に聞いた話によると僕は今高校1年生と同じ年らしい。
母は昔のことはあまり覚えていないらしく壊れる前の話はたいてい父から聞く。
そういえば息子の僕ですら母のことは僕と23才離れていることとフランス人であること、名前が天羽ローレイということ、父と同じくオーストラリアに避難したことしか知らないなと思った。
そんなことを考えているうちに父がいる瓦礫を組んだだけの簡易的な家に着いた。
母は小さい争いが近くで起きたこと、直にここまで火の粉が飛んできそうなことを父に伝えた。
父はすぐに支度をして僕達は家を後にした。