グッドラック
彼女は運が良かった。
小さい頃から俺はそれを隣で見てきた。
初詣の御神籤であいつが大吉以外引いてるとこなんて見たことないし、夏祭りの夜店でくじを引かせても無敵。もっと些細なことで言えば駄菓子屋で当たり付きアイスなんかを一緒に買っても大体あいつだけ当たりを引く。
あいつの運の良さと対照的に、俺の運は絶望的だった。俺の分の運まであいつに持ってかれているのではなかろうか、きっとそうだ。そうに違いない。
奪われた運を取り戻すべく、毎日あいつと遊んだ。結果は惨敗だった。
悔しかった。悔しそうにしている俺を見て、申し訳なさそうに当たったアイスを「食べる?」と差し出してくるのが尚更俺の悔しさを増大させる。
あいつの当たりを邪魔しようと、あいつが選んだ商品を横取りして自分のと交換したこともあった。結局横取りしたやつがハズレて、向こうに押し付けた本来俺のものだったはずの方が当たるのだから本当に神がかっている。
中学生になってからは、やれ当たり付きガムだのアイスだのと言う年齢ではなくなったから、彼女の強運を目の当たりにする機会は少なくなった。
クラスも別々になり、少しずつ疎遠になった頃、彼女が病気で入院することになったと聞いた。
心配で俺は病院に通うことにした。また彼女と毎日顔を合わせる日々が戻ってきた。俺が学校でのくだらない出来事を彼女に話すと、彼女はいつも楽しそうに笑った。
「しっかし、お前も運が悪くなったもんだよな。病気になんかかかっちゃってさ」
彼女は少し考え込んだ後、ううん、と首を振った。
「私はやっぱり運がいいよ」
その言葉の意味がよくわからず俺は首を傾げた。
ある日のことだった。いつものように学校帰りに病院によると、俺は彼女に飲み物を差し入れしようと病院の1階で自動販売機に小銭を入れた。ピピピピ、と音を出してパネルの数字が7に揃う。当たった。一瞬信じられなかったが確かに当たっている。人生で初めてだ。
俺はもう一本同じものを選ぶと、ウキウキして彼女の病室へ向かった。
エレベーターを降りると、彼女の病室にたくさんの看護師さんが集まっているのが見えた。病室の中を覗くと、酸素マスクのようなものをつけられて彼女が苦しそうに汗をかいている。慌てて近づこうとした俺は「離れていてください!」と切羽詰まった様子の看護師さんの背中に押し飛ばされた。衝撃で手に持っていた炭酸ジュースのペットボトルが床に落ちた。炭酸がしゅわしゅわと抜けていく。彼女は移動式ベッドに乗せられて集中治療室に運ばれていった。
結局彼女はそのまま帰らぬ人となった。
それから3日経って葬式を終えた今でも、俺には実感が湧かなかった。
———私はやっぱり運がいいよ
彼女がいった言葉を思い出した。
気がつけば涙がとめどなく溢れていた。
俺も本当は今までずっと運が良かったのだ。いつでも好きな人の側にいられたのだから。