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初恋でした。

梨央さんリクエスト「ほんのり淡いグロテスク」で書きました。

注意!残酷な描写が含まれております!

 サモトラケのニケにしろ、デパートの洋服売り場にあるトルソにしろ、躯幹に手足と頭が付属していないというのは非常に美しい。

 何故なら、それは人間を超えた存在だからだ。言い過ぎだと思われるかもしれないが、これはある種の真実だ。

 簡略美、とでもいうのだろうか。余分なものを削っていく美しさ。それは人間である内には到底出来ない完全なる美なのだ。



 常々僕は不思議に思っていた。何故「五体満足」という言葉があるのだろう。

 五体、とは、おそらく、右手、左手、右足、左足、頭の事だろうと思うのだが、何故それらに「体」という文字が使われるのだ。

 手足や頭部が独立して体となるのはなり得ない、つまり体のほんの一部のパーツだ。


 「体」とは即ち「躯幹」である。むしろ世間で言うところの五体を取り除いた体の中心こそが体たるに相応しいのだ。




 僕は夕暮れの帰り道、とぼとぼと歩いて家に帰っていた。

 路地に差し掛かった時、前方から車のヘッドライトが攻撃的に光を叩きつけてきた。目を細めて前を向く。


 すると、光の中に黒いシルエットが浮かび上がった。女性のシルエットだ。

それも、かなり細い。



 彼女は携帯電話を耳に当て、体から細長く突き出た足を前後に動かしてこちらに向かってきた。細い脚だ。腕も細い。

 そうだと分かるのは、彼女が秋であるにも関わらず露出の多い格好をしていたからだ。

車が横切って、路地は暗くなった。

 網膜に焼きついた光が余計に辺りを暗くした。

かつ、かつというヒールの音が近づいて来るかと思ったが、途中で足音が消えた。

 目を凝らすと、数メートル先の薄暗い電灯の下、彼女が自分の踵を抑えているのが分かった。

どうやら足に何かがあったみたいだ。


 彼女はブーツを履いていた。細身のロングブーツだ。体から延びた足を飾る装飾品。

 靴の踵に何かあったのか。

 それにしても細い脚だ。膝がまるきり骨の形だ。

 本当に折れてしまうんじゃないだろうか。

 本当に折れるかどうか試そうと思って、僕は彼女を殴りつけた。

 気絶させて、家と家の隙間に運び込み、また顔を殴った。


 声は出されなかった。素手で殴ったら逃げられるかな、と思って、民家にあった人の頭くらいの大きさの石を使ったのが良かった。


 それから、彼女の足に石を落としてみた。膝を狙った。

 鈍い音がしたけれど、折れることは無かった。案外人間の足というのは丈夫だった。

 コンクリにころりと横たわる彼女を見て、何だか無性に綺麗だ、と思った。

 美術の教科書に出てくる女のひとよりも美しいと思った。



 でも、体に付属している諸々は要らないな、と感じた。

 服にしろ、手足にしろ、頭にしろ。薄着をしているからこそ分かる彼女の体の形は、乳房の形やウエストラインが完璧だった。

 それだけに、付属する不細工な諸々は要らない。完璧な形だけが欲しいと思う。


 手始めに彼女の服を脱がせた。

 簡単だった。

 下着みたいなキャミソールを切り裂くだけで良い。つるつるした手触りだったけれど、手持ちのカッターナイフで難なく服は切れた。


 しかし、さぞかしきれいな体をしているだろうと思った彼女の中身に僕は興醒めした。

 彼女の体には無数の青痣や切り傷、火傷跡が残っていたからだ。


 決して服を着ている状態では見えない所に、執拗に、何度も何度も付けられた傷。これだけでもう完璧では無くなった。


「驚いた?」


 暗がりから声がした。彼女が声を発したようだった。


「あたし、こんなの慣れてるからこれくらいじゃ気絶しないのよね。貴方が何するか興味あったからじっとしてたんだけど、やっぱり襲うのが目的だった訳?」


 酷く明るい声だった。僕はどもりながら、何とか、足を折ってみたかったという旨を伝えた。


「あっは、あたし、もう何回も足折られてるから骨が丈夫になってんのよ。残念だったわね。ね、そしたら何で脱がせたの?」


 体が見たかった。君を躯幹にしたかった。

 そう言った。


「クカン?ああ、手足とか頭とか無い奴ね。でも残念。御免ね。あたし、もう先約があるんだ。」


 そうして彼女は「ばいばい」と言って、石を落としていない足と手を器用に使って立ち上がる。

 少しリズムの狂ったかつ、かつというヒールの音を響かせて歩いて行った。


 やはり、彼女の体は綺麗だ、と思った。


end.


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