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作者:

真っ暗な夜の川向うに光る 通行車のライトが、水面に長くサーチライトのように漂っていくの見ながら、自分はシートベルトに固定されたまま 黒く揺れる流れを見ている。町外れのここなら人通りも少なく 聞こえるのは 目の前をたまに通る木材運搬船のエンジン音くらいだ。この川沿い駐車施設にぽつりぽつにと留まった自分たち以外の車は、いったい何のためにここのいるのだろうなどと考えを回す余裕もないぐらいに、Aの心は引きちぎられそうなロープのように軋み、誰ともなく助けを求めたい気持だった。 先日にあった彼との意見の食い違いがもつれ、とうとう今迄見ないふりをしてきた問題までもが総雪崩になり、今夜二人で予約していたレストランの食事の最中泣き出してしまったAを彼はドライブに行こうと言いここまで連れてきたのだ。 もう二人とも虚脱感漂う空気を拭い去ることもできないまま、数十分の沈黙の中暗い川の流れを見つめていた。


手遅れだという雰囲気が二人にひっそりと寄り添うように佇み。Aは拭いきれない喪失感と無気力感にゆっくりと飲み込まれていくようだった。お互いがどんな言葉をかけても、改善されゆく見込みのない状況に、手持ち無沙汰な子供のようにじっと耐え抜くしかできないような気がしていた。彼は自分を見つめ直すためにも、距離をおいて生活をする必要があると言った。どうやら明日出ていく手順は終わっているらしく、Aが思っていたよりも早く別れがここに来てしまった。


数ヶ月前にやっと、十年越しの新婚旅行に行ったばかりだったが、その後というもの彼の厳しい意見に振り回されたり、また彼の気持ちの揺らぎに傷つけられっぱなしだった。なので、この別れ話は今までサンドバックのように叩かれたAの心に、ざくりと入ったナイフの切り口のようだった。サラサラともう止まることのない悲しみが溢れ出し、すべてが地面に流れていった。今まで耐え抜いてきた悲しみと、今ここで断ち切られた希望が、Aの心を縛り上げて苦しさだけが喉につっかえた。


もう帰ろう。

どちらが言ったのかはもう覚えていないが、彼はゆっくりとエンジンをつけ無言のまま車を動かし、徒労感が滴る雨の中二人は家に向かった。


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