蚊
夏のある夜、男は自分の部屋に一匹の蚊が飛んでいるのを見つけた。しばらくして、蚊は男の腕に止まり、円筒状の管である口吻を皮膚に突き刺して血を吸い始めた。男はすぐさま、蚊を叩き潰そうとしたが、そこでふと、一つの考えが頭に思い浮かんだ。
嘘か真か、腕に力を込めると、刺さった口吻が抜けなくなり、血を吸い過ぎた蚊が破裂して死ぬというのだ。
我ながら馬鹿馬鹿しいとは思いながらも物は試しと、男は自分の腕に力を込め、血を吸い続ける蚊の様子を観察してみる事にした。
「私も長い事この仕事をしていますが、全く不可解なんです。男性の遺体に血が一滴も残っていないなんて、一体何があったのか…」
ミイラになった男の遺体を前に、怪訝そうな顔で鑑識は刑事に報告した。