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二話 校庭にて

うまくまとめられるか不安ですが、がんばって書いていきます。

たぶん、夏ホラーの文字制限の限界(2万文字を)フルに使うと思います。うう〜

 錆びついたフェンスは当時と変わらず、静止画のようにくたびれた廃校を取り囲んでいた。立ち入り禁止と赤い文字でなぐり書きされた、くさった食パンのような看板が掲げられているあたり、このフェンスはここが廃校になったあとから設置されたとみていいだろう。目的としては不良集団の侵入を防ぐためだろうと予想はつきやすいが、果たして本当に役に立っているかというと……。

「壊されてるね。楽で助かった〜」

 押し倒されてねじ曲ったフェンスは、ちょうど人二人が同時に通ってもまだ余裕があるほどだった。さらに、役割を果たせなかった無念極まりないフェンスにつたが絡まっていることから、だいぶ前からこの防壁網が綿あめで金魚を救うことほど無意味なものだったとわかる。

「あいつらもいないな。しかし、銃を持った迷彩色のおっさん達がいないっていうのはどういうことだ」

 木造建てのセピアな校舎は、今では珍しくない黒煙をバックに(おそらく学校の向こうの山中から発生している)、とってつけた感じのする狭い校庭を挟んだ先にある。そこにはバリケードめいたものは何もなく、校庭が校庭らしい校庭を演じている。校舎は小規模で三階建てだ。三階と二階がところどころガラスが割れたりしている。一階は正面に昇降口、そしてその他は二階や三階と同じ……?

「……なんで、カーテン全部閉まってんだ?」

 一階とその他との違いがそこにあった。日光を通さぬ真っ黒いカーテンが、死臭を纏う風になびいている。しかし、中の様子は窺いしれない。俺は不思議と寒気に襲われた。

 あそこに、なにかがいる?

「ねぇ。なんかあれやばい気がする……」

 佐藤恵理も異変に気づいたようだ。向こうから視線を感じる。殺風景な上階と、生気を取り戻したような一階との対比が、俺の危機感知能力を刺激する。しかし俺は、

「大丈夫だ。生存者がいるんだろ」

 他に行くあてもない。ただそれだけの理由で、前に進むことを決めた。佐藤恵理は特に反対する意思を見せなかったが、珍しくおびえているようだった。

「待ってるか?」

 彼女は首を横に振った。そして、その左手がなにかを求めるようにおれの方に差しのばされた。俺は黙ってそれを握り返す。とても温かかった。俺たちは雑草を踏みしめ、どうも様子のおかしい廃校の校庭へ入っていった。



 校庭の中ほどまで進んだ時、彼女の手の抵抗が激しくなった。フゥー、フゥー、と蛇の鳴き声じみたものも出し始め、俺が無理やり引っ張っているような錯覚に陥ったので、振り向きざまに言った。

「おい、お前やっぱり待って――」

 おい、お前やっぱり待ってろ。そう、言うはずだった。しかし、俺が振り向きざまに見たのは佐藤恵理ではなかった。俺の手を握っている皮膚のただれた左手は、どう考えても彼女のきめ細やかな色白の肌を連想させない。先ほどまであったはずの温もりもとんと感じない。ただ冷たいだけだった。そして、もう一方の腕を見ると――肘から先が無い。

 俺はぎょっとしてそのまま顔を見上げた。見上げる過程で、血に汚れた白色の服が見えた。が、そんなことはどうでもいい。佐藤恵理は南高の紺色のブレザーとスカートを着ているのだ。こいつは一体――


「ユウ……あんた、誰引っ張ってんの?」

 俺の名前を呼ぶ声がした。謎の人間の背後を見ると、佐藤恵理が戦慄した表情で立ちすくんでいる。

「あっ……え……?」

 俺は、見たくもないのに、その女(と思われる)の悲惨な顔を見てしまった。

 ひどい火傷をしている。しかも現在進行形で、赤い網目状の焼き跡が彼女の顔を蝕んでいっている。俺はひどい吐き気に襲われたが、彼女から目を離すことができない。

「……カカ、カ…ダカ……メ……」

 口を魚のようにパクパクさせながら、今度はぶつぶつ言い始めた。大きく見開かれた目玉は、苦悶そのものを表しているように感じた。ブルブルと彼女の手が震え始めたので、俺は無意識にそこを見た。

 焦げ始めている。

「う、うわっ!」

 俺はぐいっと手を引っ張ったが、彼女の本格的に焼け始めた右手は、機械のように動くことがなかった。

 そのうち彼女の背中まである髪が燃え、服が燃え、体中を火が覆い始めた。ゼロ距離に感じる熱の波動。俺の右手が真っ赤に燃える。

「う、わっ、あっつ」

 紅に包まれた彼女はもう人としての原型を留めていなかった。口だったものが、最後にパクパクと、

「カー、テン……だ……メ……」

「うわあああああああッッッ」

 俺が叫ぶと、彼女と、彼女に纏わりついていた炎と、その他歪んだ空気が消え、元のデッドオアアライブな校庭の雰囲気を取り戻した。残されたのは、無傷の右手を握手でもしようかと差し出したままの俺と、口を両手で押えて失神しそうな佐藤恵理だけだった。



「今のって……あの時の?」

 言わずもがな。

「じゃあ……えっ、と。なんなの?」

 なにが?

「ゾンビ?」

 さあ。

「さあって。わたし、気づいたらユウに手離されてて、前見たらあんたが知らない女のこと引っ張ってたんだよ?どっちも気付かないなんておかしいよ。大体……」

 まあ、待て。おかしいことをあいつから掘り出したらきりがない。忘れよう。夢だ。

「そんな簡単に……」

 精神的におかしくなってんだろ。状況が状況だ。現実逃避したいという願望から生まれた幻、夢。そのどっちかさ。

「現実逃避したくて、あんな変な女生む?」

 ……。

「わたし……あれ、幽霊だと思う」

 はんっ。馬鹿言うな。そんなのいるわけないだろ。

「だって……それ以外に説明つかな」

「違うっ!!」

 俺が思いきり叫ぶと、彼女は黙った。戯言に過ぎない。彼女もそう思っているから、簡単に押し黙ったのだ。

「……とにかく行こう。廃校へ」

 俺はさっきから抜かしていた腰を持ち上げ、砂を払いながら廃校を見る。黒いカーテンが揺れている。カーテン……?

 歩き始めた刹那、俺は佐藤恵理に、

「カーテンには近づくな」

 とだけ言った。

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