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死の商会の聖骸世界大戦  作者: 黒桜旅団:狂王エノモト
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入学式後

「黒より黒き黒桜が、君たちに芽生えることを切に願う。」


 学園最強は、最後にこの一言で締めくくった。会場は静まっている。

一言の雑音も聞こえない。やっぱり俺はこの学園に合ってる。来るべくしてきたって感じだぜ。

 輝御先輩がマイクを京子先輩に返した。その顔は、さっきまでの厳粛な雰囲気は全くなく、温かく、和やかだ。


「最後に、新入生総代、【愚者】のアルカナの選定を行います。三年保有者各員は、一度ステージに集まってください。」


 ん?アルカナの選定?今なのか?


「【愚者】は、毎年の入学式で決まるんだよ。力が特別強いやつがなる。だから、三年保有者の投票で決まるんだ。知らなかった?」


 獅童が説明してくれた。便利だなこいつ。

 すると、会場のいたるところから、ステージに向かって人が歩いていく。全員、胸につけている紋章が違う。


「あれが、三年アルカナ保有者、、、、。」

「全員がすさまじい力を有しているのが、遠目からでもわかるよ。」


 食い入るようにステージに集まる保有者を見る獅童。その顔には、尊敬と畏怖の念が混じっていた。


「一人、足りない?」


 エレナさんがつぶやく。

 確かに、ステージ上には二十一人しかいない。俺たちを案内した高尾先輩の姿が見えない。


「【愚者】は【愚者】候補を選ぶ権利がないとか?」


 自分がこれから育てていく後輩だというのに、それは少し違うような気もする。


「そうだよ。【愚者】は後輩の【愚者】を選ぶことができない。【愚者】だけは特別なんだ。」

「特別?てことはほかのアルカナは違うのか?」

「貴方、そんなことも知らないの。」


 エレナさんが呆れるような声を出している。くっ折れるな!俺の心!


「何も知らない聖君にしょうがなく、この優しい陽太様が教えて進ぜよう。」


 う、うぜぇ。だが今後に関わってきそうだし、素直に聞いておこう。


「さっきも言ったように、【愚者】は特別なんだ。ほかのアルカナは、同じアルカナを持つ、三年生または、二年生のアルカナ保有者に、指名され、なることができるんだ。そして、指名されるにはそのアルカナ保有者が所属するクラブに入り、自分の実力を示すしかない。」


 ここでまた知らない単語が出てきた。クラブ?なんじゃそら。


「知らないって顔してるな。はぁ、まったく、入学前参考資料に書いてあったことだぞ?読んでないのか?」


 そういえばそんなようなのが家にあった気がする。分厚すぎて読む気になれなくて放置していた。俺だったらそんなもの読まなくてもどうにかなるだろうしな。


「まったく。クラブってのはな、中学の部活動みたいなものさ。ただ、規模や権力、そして何より実態が全く違う。クラブは各三年アルカナ保有者が管理していて、クラブにはサイタマの地域を等分して、領土として分け与えられる。その領土は、それぞれで管理され、常識の範囲内であれば、何をしても許される。そしてその領土内では、クラブに所属したメンバーが入れる寮がある。全生徒がそこから通うし、そこに帰る。クラブメンバーは仲間でもあり、家族でもあるってわけだ。だが、確実にその中から各学年一人、アルカナ保有者に選ばれる。ここは競争だな。選び方はアルカナごとに異なるが、ほとんどは実力だな。例えば、さっきの【死神】のアルカナ、伴野輝御先輩のところ〈死の商会〉は完全実力主義。まぁ最前線に立つんだからしょうがないよな。」


 は?最前線?戦場ってことだろ?学生の俺たちがなぜ?


「はぁ。お前の顔を見るだけで考えてることがわかるようになってきた気がする。」


 なんか気持ち悪いこと言っていやがる。だが気になるから続きを促す。


「うるさいなぁ。さっさと続きを教えろ。」


「ちっ、しゃぁないな。伴野輝御先輩。あの人の能力は、他者と魔力、能力を貸し借りできる能力だ。これを、先輩は、無理やり敵から借りるんだ。魔力も能力も。そうしてから殺すことによって、両方を完全に奪う。先輩曰く、“貸し倒れ利益”。奪った能力は自由に使えて、人に貸し与えることも可能。だからあの人はこの学園最強なんだ。この能力を全力で発揮するため、敵襲があった場合、〈死の商会〉は最前線に立つ。だから完全実力主義。最前線で敵国の兵士と渡り合える能力がなければ、【死神】のアルカナ保有者になることは出来ない。」


 なるほど。あの先輩のとばっちりみたいな感じで前線に送られるのだということはよくわかった。だが、なんで獅童はそんなことまで知ってるんだ?


「なんで獅童さんはそんなことまで知っているのですか?私も今聞くまで知りませんでした。」


 エレナさんも知らなかったようだ。だんだん獅童がやばいやつのようにも思えてきたぞ。


「入学前から家の用事で来ていたんよ。【力】のアルカナを持つ宗治さんのところにさ。」


 獅童が、ステージ上の一人を指さす。


「三年【力】のアルカナ保有者、室谷宗治。宗治さんは、うちの親父の恩人さ、んで、入学前に稽古付けてもらってたんよ。んで、宗治さんから色々聞いたわけ。」


 ん?稽古?


「てことはお前、入学前からこの特区サイタマにいたのか?」

「そだな。まぁ入学式の前々日には荷物まとめるために一回帰ったけどな。」

「なるほど、納得しました。」


 なるほど。筋は通っているな。


「ちなみに、俺はすでに【力】のアルカナとして指名受けてるから。これはみんなには内緒だゾ。」


 なん、、、、、、、だと!もう指名されてる?マジか。こいつ、マジで何者だ?よし、問いただそう。エレナさんが開いた口が塞がらないって顔しててかわいい。だがそんなこと気にしている場合ではない。


 だが、獅童を問いただす前に、集計が終わってしまったようだ。京子先輩が口を開く。



「お待たせしました。今年の新入生総代は、全二十一票総取り、日和双時郎に決定しました。おめでとうございます。」



 二十一票総取りだと!どんな人間なんだ!


「凄いな。総取りなんて聞いたことがないわ。」


 獅童も驚きを隠せないようだ。俺はお前に対しても驚きを隠せないがな。


「では、アルカナ継承の儀を行いたいと思います。日和双時郎さん、ステージへお上がりください。」

 すると、最後尾から一人の新入生が、ステージに向かい、歩いていく。

 あれ、あいつさっき美少女にひざかっくんしてもらっていやがったやつじゃねぇか!

 というか俺じゃないとか、三年保有者の目は節穴か?


 やつがステージに上がると、ステージ上にいたまこと先輩を除く二十人のアルカナ保有者たちが、部隊袖に吸い込まれていった。


「【愚者】アルカナ保有者、高尾将哉、ステージへ。」


 京子先輩の言葉により、舞台袖から高尾先輩が姿を現す。手には豪華な装飾が施された短剣を握っている。ふたりは、ステージの真ん中で、向かい合うように立った。



「黒より黒き黒桜よ、我、【愚者】の先達が願う。彼の者に、【愚者】のアルカナを授けたまえ。」


 高尾先輩がそういうと、日和とかいうやつを中心に魔法陣が現れた。

 先輩は、短剣を取り出し、自分の指に少しだけ刺し、血をたらす。血が魔法陣に浸透し、魔法陣は輝き始める。


「黒より黒き黒桜よ、我が神聖なる血は、彼の者を正統なる後継者として認め、彼の力を育むことを誓う。」


 魔法陣の光が増し、その光が日和を包み込む。まぶしい。とてつもない光量だ。

 その後、光は長く滞在し、そして収束、やがて消えた。

 日和は、手を開いたり閉じたりしている。しかし、高尾先輩に、何かをささやかれ、二人で一礼し、舞台袖に消えていった。


「お二人ともお疲れ様でした。これで、入学式の全工程が終了いたしました。この後、新入生は、所属したいクラブに分かれていただき、クラブ長によって、各クラブ寮に案内されることになります。なお、各クラブについては入学前参考資料に詳細が書かれておりましたので、説明は省かせていただきます。では、【魔術師】のクラブから順に、誘導していきますので、ご希望のクラブの番になるまで、席でお待ちください。」


 そういって、京子先輩は舞台袖に。

 どうしよう。参考資料なんぞ読んでない、、、、。どのクラブがどうかなんてわかりっこないぞ


「まったく、聖はどうしようもないな。」


 隣で獅童が言っている。そうだ、こいつに聞けばいい!


「獅童、そんな可哀想な俺にいろいろ教えてくれ。」


 というと、情報通の獅童君、ここで苦い顔をした。


「実は、宗治先輩のクラブに入ることが決定してたから他のクラブのことはよく知らないんだよな」


 ぐぬうううう。肝心なところで役に立たないな。


「そういえば、エレナさんはどのクラブに?」


 おっと、いい質問だ獅童。やればできる子だと俺は信じていたぞ!


「私は【女教皇】になるため、〈死の商会〉に行きます。あと、麻宮さんはその気持ち悪い笑みをやめてください。」


 なんと、毎度毎度辛辣だな。しかし、【女教皇】になるために【死神】のクラブに?


「【女教皇】のクラブと、【死神】のクラブは同一なんです。輝御先輩と京子先輩は夫婦ですから。」


 は?あの二人夫婦だったの!?うわマジか。輝御先輩やるなぁ。


「あの人たちすごいよなぁ。けど最前線いきだけど大丈夫なの?」

「大丈夫です。【女教皇】になる夢は伊達じゃありません!」


 それでも女の子が最前線に行くなんて危なすぎる!絶対危ない!

 俺はエレナさんを守らなければいけない。いや、守りたい!美少女が傷つくなんて、男として許せるわけないじゃないか。



「俺も〈死の商会〉に入る。」



 俺は宣言した。


「ほう。」

「うわ」


 獅童がニヤっと、エレナさんが心底いやそうな顔を俺に向けてきた。


「俺が、【死神】のアルカナを手に入れ、この世界を守ってやる。」

「まあ、せいぜい身の程をしるといいと思います。」

「そうだな。〈死の商会〉は全クラブ中一番厳しいからな。いつ音を上げるか楽しみだ。」


 ふっ、馬鹿にできるのも今のうちだぜ、こっから俺は上り詰めていくんだからな!


「次に、力のクラブ、〈関東平野連合遊戯部〉」


 京子先輩の声に合わせ、舞台袖から室田宗治と思われる人が出てくる。短髪の天然パーマに、平べったく細長い顔、ついでにたらこ唇。いわゆる魚人顔だ。

 キャラこいなぁあの人。あれが獅童の慕ってる人かよ。


「んじゃ、またどこかで会おうぜ!」


 そういって、獅童はホールから一足先に出ていった。そこから、俺たちの間に会話はなくなった。京子先輩が司会をしているので、〈死の商会〉は、最後に回されているらしい。うん、長い。

獅童が出ていってから、十五分くらいが過ぎ、ついに、最後の【世界】のアルカナのクラブが出ていった。


「さて、最後に、私たちのクラブ、〈死の商会〉に入りたい方、私たちについてきてください。」


 いつの間にか京子さんの隣にいた輝御先輩が、京子先輩の車いすを押していく。それに、俺たちもついていく。残ったのは約三十人。男女比はちょうど半々くらいだろう。男子は皆かなりの決意を抱いた目をしている。女子も同じような雰囲気。正直いづらい。


「みんなそんなに固くならなくていいのよ。リラックスしてリラックス。」


 京子先輩が声をかける。これにより、皆肩の力を抜いた。特に男子は、表情筋も緩んでいる。かくいう俺もたぶん同じような顔しているんだろうな。


「お前ら。京子に手を出そうとしたら、その首撥ねるから注意しとけよ。」


 男子全員の顔が凍り付く。輝御先輩こっっっわ!


「脅しちゃダメですよ。私があなた以外に身を許すと思っているんですか?」

「そうだな。すまない。」

「いいんですよ。わかってますから。」


 二人の醸し出す雰囲気がとても暖かい。長年付き添っているかのようだ。

 うん、誰も二人のムードについていけない。ただ、女子はこの光景を見て恍惚とした表情を浮かべている。エレナさんも、笑みを浮かべている。

 え、可愛い。写真撮りたいレベル。

 

 俺たちは、入ってきた扉とは違う扉から、外に出た。すると、広い空間があり、奥に扉、その左右にたくさんのエレベーターがあった。


「ここがエレベーターホールだ。授業の際にここから各教室に移動するから、迷ったらまずここに来るといい。今回は教室には用はないから、奥に行くぞ。」


 奥の扉を抜けると、長めの直線通路だった。動く歩道が採用されている。


「この通路の奥の駐車場に、高速バスを用意している。それに乗って、俺らの町に行くぞ。」


 通路を抜けた先には、大きな一台のバスが止まっていた。俺たちはそれに乗って、〈死の商会〉本拠地、“コウノス”へ向かったのだった。


コウノスはええとこやでぇ

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