入学式の朝 登校
階段を下りていくと、ホームが見えてきた。そこに新幹線が止まっていた。
「おはようございます。麻宮聖君」
「っ!おはようございます!」
横から急に話しかけられ、びっくりしてしまった。ていうか、この人全く気配が感じ取れなかったんだが、、、、
俺と同じような学園指定の服、だが、校章が少し違う。この紋章は、、、、、、
「さぁ中へどうぞ。ご学友がお待ちです」
新幹線の扉が開く。中に、新入生らしき人たちが座っていた。
「席は自由ですので、空いている席にお座りください。座席には余裕がなく、全席埋まる予定ですので、なるべく詰めてお願いします。」
「は、はい」
一言しか発せなかった。なんだこのプレッシャー。乗った瞬間、後ろでドアがしまる。あのすごいプレッシャーは、そこで止んでいた。
少しだけ、背筋が凍るような感覚を覚えたが、すぐに収まった。
あのひとヤバイ。流石アルカナ保有者。
車内は通路を挟んで左右に三列ずつ。
俺は最後列の進行方向右側の奥に座りつつ、そのようなことを考える。
アルカナ保有者
学園に認められた、1学年に22人いる、能力優良者。普通の能力者とは比べものにならないような強さを持ったひとたち
アルカナとは、タロットの寓意画が描かれたカードを指している。
そのなかでも、アルカナ保有者とは、大アルカナをもとに22人選ばれており、選ばれなかった人間は、その能力特性から小アルカナである4つに分類される。
つまり、アルカナ保有者は、エリート中のさらにエリート。まさに選ばれしものだ。彼らは、他者との区別のために、胸の校章が、少々違っている。
校章が基調になっているのは一緒だが、アルカナによって、模様はかなり違う。さっきの人の模様は、たぶん、、、、
「【愚者】」
おっと、口に出てしまっていたようだ。
すると、その言葉に反応し、前の席に座っていた男子生徒が、身を乗り出してことらを見てきた。
「お前さんも新入生だな、やっぱりあの人のこと気になったか。」
うわ、話しかけてきやがった。なれなれしいやつだな。まぁ俺もそこまで人嫌いではないから、気軽に答えてやろう。俺と話せることを幸運に思うんだな。
「ああ、あの人の放つプレッシャーはすごかった。最初に話しかけられたときは気配もわからなかった。」
「だよな。正直チビルかと思ったぜ。」
「いやそれはないだろ。むしろ燃える。」
あんな強そうな人がいる学園。楽しみしかない。
「愚者のアルカナ保有者。たぶんあれは三年生だな。」
「三年【愚者】、、、、高尾将哉か。戦ってみたいな。」
「そういやお前なんて名前なんだ?俺は陽太獅童陽太だ。」
へえ、あの獅童か。なら、この学園に来てもおかしくないな。
獅童家は日本でも有名な柔道一家だと前にテレビでやっていた。身体が特に柔らかく、ネコ科の猛獣の
ような動きをするらしい。まぁ俺のほうが強いだろうが。
「麻宮聖だ。気軽に聖と呼んでくれ。」
「おう、よろしく!聖。ところで隣行っていいかい?」
「ダメだ。初登校の席なんだ。隣は可憐な女子がいい。」
俺は青春をかけに黒桜学園に行くんだ。最初だからとブレーキを踏んだりはしない。フルスロットルだ!
「なるほど、ならば一個あけて隣に座ってやる。」
ぴょんと軽い身のこなしで席を飛び越えてくる。確かに、ネコ科だ。
特別車両は天井が低かったが、頭はぶつけていない。上手くすれすれを飛んできている。にしてもなかなかの跳躍力。やはり獅童は鍛え方が違うな。まぁ俺のほうが強いだろうが。たぶん。
「へっへっへ。どうよ」
得意げな顔をしてやがる。
「好きにしろ」
「連れねーやつぅ」
ふてくされたと思ったが、すぐに笑顔に戻る。表情がころころ変わるやつだな。
どうやら、この駅周辺で選ばれたのは俺だけらしい。おもむろに新幹線は動き出した。
何度か、新幹線は止まり、そのたびに人が乗ってきた。そろそろ全席埋まるころだろうか。見渡すと、俺たちの間の席以外は埋まっているように見える。
男女比は6:4くらい。前年度は、女子が多かったらしいが、今年は男子のほうが多いのだろうか。
くっ俺の青春に女子は必須だというのに!
「やっぱかわいい女子が多いなぁ」
獅童がそんなことをつぶやいている。
確かに多い。だが、それは当然だ。クリスタルに選ばれる人間は総じて顔が整っている。例外もいるにはいるが、あまり能力の強くないものや、強いが、顔以外のところで優れている部分がある人だ。
例えば、
三年生で、【正義】のアルカナ保有者 櫛田堅児。彼は顔はそこまでいいとは言えないが、並外れたパワーと防御力を有している。その防御力は他の三年アルカナ保有者でも苦戦を免れないレベルだという。
さて、そんなことを考えていたら、また新幹線が止まった。
少しして入ってきたのは、
う、美しい、、、、、、、!
なんだあの女の子めっさ可愛い!
ヤバス。整った顔立ちにショートヘア。おとなしそうな、ミステリアス。
それでいて少々色気出しちゃったのかな?胸元のアクセサリーはハート形。
豊満でなく、それでいてまな板でもない控えめながらもちゃんと主張するバスト。
細くきれいなウエスト。タイツに包まれた流れるように美しい脚線美!!
そんなめっさ綺麗な彼女は、空いてる席を探しているのか、キョロキョロとあたりを見回している。だが、残念なことに空いているのは、最後の一か所のみ
キタコレ!
「おい、獅童。どけ。彼女が入ってこれないだろ。」
「お前なぁ」
苦笑しつつも、獅童は彼女を入れてあげるため、一度席から立つ。
その様子を見て悟ったのか、綺麗なあの子がこっちにやってくる。
「失礼します。」
ちょこんと座る彼女。立っているときは気が付かなかったが、意外といいヒップサイズ。うん、なかなか、、、、、、。
彼女が座ったのを見届けて、獅童が座る。
空けといてよかった。こんなきれいな子が隣に座ってくれるなんて、、、、、、、。
「なんで涙眼になってるんですか?」
「へっ!?あ、すみません、嬉しくてつい」
いつの間にか感情が表に出てしまっていたようだ。いけないいけない。慌てるなんてカッコ悪いところみせるわけにはいかない。俺の理想の青春ライフが崩れてしまう。
「今日あったばかりですが、こいつは結構変なんですよね。」
「へ、へぇ~」
おい、獅童。変なこと吹き込むな。
「変なのはこいつのほうです」
「はぁ」
彼女が呆れている。これは良くない兆候だ。嫌われたくない。
(ボソッ)「おふたりは仲がいいんですね。」
なんと小さな声だったであろうか。だが、隣にいた俺には聞こえた。たぶん、獅童にも聞こえただろう。
「お友達になりませんか?俺は麻宮聖。こいつは獅童陽太です。」
「えっ」
一瞬彼女は驚いたような顔をした。
しかし、
「初日からナンパとは。手が早いんですね。お断りします」
ショック、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、。完膚なきまでに断られてしまった。
うう。だが俺はあきらめたわけではない。まだ青春は1ぺージ目なのだから!
この時、ネコ科の獅童陽太だからこそ気づいた一つの変化があった。
彼女から出る空気が少しだけ温かいものになったのだ。だがこれは、聖はわからなかったらしい。なので陽太は言うのを黙っていた。
(お似合い、なのか?まぁスタートラインには立てたんじゃないか?聖)
そんな風景が車内に流れ、新幹線は目的地、黒桜学園に向けて走っていった。
次回は入学式