バイト
心地いい風が吹き付け、桜の花がそれに合わせて踊っている。
「今日からこのクラスの担任になったーーーー…」同じような言葉の羅列。これを聞くのももう10回目になる
これから新生活が始まる。
高校ではいろんな人と友達になって下校の時に寄り道したり、これまで行けなかったところに行ってみたいな。
そんな淡い期待を胸に秘め周りを見渡すと、すでにグループが出来上がっていた。
中学のころは引きこもりニートで安定のコミュ障。個々でいるならまだしも、グループのところに飛び込む勇気もなく、ただ幅を広めていくグループを見ることしかできなかった。
部活にも入る勇気もなく、なんとなく入学と同時に近くの喫茶店でバイトを始めた。
バイト先の喫茶店は、ブラウン色とナチュラル色を基調とし、隅にはピアノが置いてあり落ち着いた雰囲気の店だ。
時々小さな子供が不慣れな手つきで原板を叩くと店内のお客は初々しい顔で演奏者を眺めながら、ワッフルやパンケーキを頬張る。
演奏が終わると暖かな拍手が店内を包み込み、小さなピアニストは照れ臭そうにお辞儀をする。
僕はこの瞬間が好きだった。
学校が終わりバイトに行くと、普段とは違う音色が聴こえた。丸くふんわりしていながらも若干の緊張している音が耳に入ってくる。
バイトの制服を着てフロアに出ると、ピアノに座っていたのは、ここの制服を着た、染めてつくられた色ではなく、ナチュラルな金色の髪、スラリとし、揺れるたびになびく髪からいい香りがし、か細い指でお客さんを魅了していた。
僕は言葉を失った。
カラフルな音色が僕を引き込ませた。
演奏が終わると拍手が店内を包み込んだ。いつの間にか店長が隣に立って
「新しいバイトの子。名前は久城あい、これまではイギリスに住んでいたらしく、最近引っ越してきたんですって、私帰国子女とか初めて見たわ」
レアキャラでも見つけたような表情で、あいを眺めていた。あいは周りに一礼し、こちらにテクテクと小走りで駆け寄ってきた。
「どうも、今日からバイトをすることになりました、久城あいです。よろしくお願いします」
綺麗な目をしていた。じっとこちらをみてどこか見透かされているようにも思えるその瞳は、あいの性格を表していた。
お互いの自己紹介を終え仕事に取りかかる。
今日はいつもより忙しかった。




