宿
「お、戻ったか要。で、登録は終わったのか?」
「はい、終わりました」
「そうか、じゃあ早速クエストを受けるか」
「待って下さい。もう夕方になるよ。今から受けるのは町の仕事でもやめておいたほうがいい」
「それもそうか、分かった。明日にしよう」
「あの、いきなりで悪いんですけど、お金を返すって大体どれぐらい返せば良いんですか?」
「銀貨50枚で良いよ。お前にやった食費とか合わせてだ」
銀貨50枚⁉︎え、その程度ならあるぞ。さっき90枚ギルドからお釣りとして貰ったし...というか、金貨1枚で銀貨100枚分か...これってもしかして今の俺の所持金、結構やばいんじゃ。でも、返す物は早く返すことに越したことはないよな。
「あの、銀貨50枚ですよね。持ってるので、今すぐ返せますよ。どうぞ」
俺は袋から取り出して渡した。
「なっ...⁉︎持ってたのか。まぁ、良いだろう。またな...」
「あ、ありがとうございました」
と、お金は返した。じゃ、他にやることは、そうだ。宿を探さないと駄目だな、というか聞いておくべきだったな...。そして、空を見上げて既に赤くなってきていることを知る。
「宿は、どうするか。ん?あぁ、なるほど。道行く人に聞けば良いのか。でも俺にそんなプライドはないし。そうか、ギルドに聞けば良いんだった」
さっき出て行ったばかりだというのにまた直ぐに入るというのは何か気がひけるが、別に問題はないはずだ。
入ったらその辺のテーブルに座っている冒険者に話しかけた。
「すみません。宿って近くに有りますか?」
「宿?宿だったら近くに『たびと亭』が有るが、ギルドを出たら、右に曲がって、そのまま真っ直ぐ行く。そしたら大きな通りが見えてくるから、そこを左に曲がって真っ直ぐ歩きながら左を見てればたびと亭って看板が見えてくるはずだ」
「たびと亭...分かりました。ありがとうございました」
と、言って俺が直ぐに出て行こうとすると肩を手で叩かれた。
「おい、教えてやったんだから情報料だ。銀貨1枚で良い。無いとは言わせねーぞ?」
うわっ、確かに情報はくれたけど、いきなりこんな事言う奴いるのか。言うんだったら普通前に言う必要が有るだろうに。あ、ここは日本じゃ無いんだよな。こういう人がむしろ当たり前の世界なんだよな。まぁ、銀貨1枚ぐらいなら別に構わないけど。
「ほい」
「これだから...」
最後の方は俺がギルドから出たので聞き取れなかったがどうせ、世間知らずは、とでも言っていたのだろう。まぁ、間違ってはいないが。
「さてと、たびと亭か...。ギルドを出たら右だったな。まぁ、探してみるとするか」
そこから先はたいして探すのに時間はかからなかった。なぜなら、大通りというのがギルドからかなり近かったし、左側に曲がって真っ直ぐというのもそんなに距離はなかったからだ。本当にギルドからかなり近かった。
看板は木の板で墨かな?それでたびと亭と書かれている。それがドアにぶら下がっていた。
「こんばんは...」
宿なのか間違っていたら怖いので、恐る恐るという感じで入ったがその行動は間違いだったようだ。
まず、入った時に聞こえてきたのは喧騒。そして、美味しそうな料理の匂いだった。
そして最後に、聞こえてきたのは、ハキハキとした幼い少女のような声、それも大声だ。
「いらっしゃいませー!」
「えっあ...いらっしゃいませ...?」
その声につられて自分も言ってしまった。って、想像してた宿と全然イメージ違うんですけど⁉︎こんなに騒がしいものなの?
「一人ですか?一人部屋ですか?2人部屋ですか?」
そして、右から聞こえてくる自分よりも明らかにテンションの高そうな少女の声っていうか今日の朝ごろ乗ってた馬車の持ち主も少女だったし、いや、あれは3人いたな。でも、どちらにしろ普通に働いているような歳には見えなかった。
この世界は何かと子供なのに働いている人が多い気がする。事情が有るんだろうけど。
「一人部屋で大丈夫です」
「分かりました!それでは、お代は後払いとなりますのでご注意ください!1日、銀貨8枚となりますが大丈夫ですか?こちらは部屋の鍵です。2階の209ですので間違えないで下さいね!それではまたー!」
「分かったんですけど、夕飯とか...あ、風呂とかって有りますか?」
「えっ...えっと、えっと...あ、夕飯は有りますよ!そこの食堂で食べれます!風呂は無いです、でも、湯かけなら銅貨80枚で大丈夫ですよ!」
「銅貨80枚か...銀貨でも大丈夫かな」
とりあえず俺は、階段を上り2階に行った。客は普通にいるっぽいけど。え?少女の容姿に驚かないのかだって?たぶん、もうナレタヨ?緑髪、金眼じゃあ、驚かないって...その辺ですれ違う人の大半が日本でいうコスプレだよあれは、、あははは。
逆に、俺のような、前の世界でいうアジア系の黒髪、黒眼が少ない...というか見当たらない。
扉にはそれぞれ、201、202、203、204と、番号が書かれていた。
「あった、あった。ここであってるよな」
鍵穴に銀色の鍵を差し込む。回すとガチャンッという開く音がした。
「よし、開けるぞ。おぉ」
ドアの向こうには、中世ヨーロッパで見るような宿があった。ベットは少々硬いが、もはや知っていたようなもの。置物のような物は余り無い。有るとしても空の棚が1つあるのみ。
俺はベットで横になってみた。すると、今までの疲れが抜けていくような感覚が有った。
「こっちの世界は最悪だな。だって、料理だって日本とは比べられないし。治安だって悪い。大通りは商店街も有ったけど、よく分かんないような物が沢山売ってるし本当にこんなの、どうすれば良いんだよ。今日一通り街を歩いて見たけど万引は発生する。みんな何かしら武器を持ち歩いている。誰が見たって、危険な世界だって言うよ。そう言う自分も剣を持ってたな...。帰りたいな。あの俺が生きていた世界に...戻りたい」
俺は気づくと寝ていた。目から微かに涙を出しながらー
「よし!クエストを受けに行こう!」