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第2話 予定調和の旅立ち

市立聖堂院中学校の教員、田丸欽一たまる きんいちは目覚めた。

社会科見学で訪れたサークル社で、

自分が小学生の頃にプレイしていた『ドラゴンファンタジー5』の

次世代機バージョンの体験版をリュウトがプレイするのを皆で見ていた。


リュウトの操る主人公がボスを倒しクリアしたと思ったところ、

画面から発せられた強い光に包まれ、部屋全体が振動し、そのまま意識を失った。そのはずだった。



しかし、どうもおかしい。

サークル社にいたはずなのに、何故か布団の中に横たわっている。

それに、辺りを見渡すと全体的にレトロな雰囲気を醸し出す洋風の木造の家のようだ。

この家に他に誰かいるような気配はしないが、一体誰の家なのだろうか。


実はあのとき、ゲーム会社がテロリストに襲われて、それで自分の中に眠る謎の力が覚醒して、

テロリストを全員倒したところで力が抑えられず意識を失って誰かに保護されて今に至る。


なんて、バカげた話があるわけがない。

多分夢だ。

こういう時は動き回って、夢をとことん満喫してやろう。

そう思い、田丸はドアを開けた。


すると、もっとバカげた光景が広がっていた。


「ここは……セラレーラの町?」

先ほどスクリーンで見た、『ドラファン5』の最初の町、セラレーラの町だった。


「おいおい、いくら好きなゲームだったからってこんなにもリアルな夢見るのかよ俺……」


石造りの道、虹のようにかかるアーチ橋。

そういえば、『ドラファン5』の最初のリメイクで

セラレーラの町はとても美しいヴィジュアルになったという評価を見たことがある。

確かに美しい町だと見上げながら歩いていると、人と肩をぶつけてしまった。

どうやら衛兵のようだ。

自分より一回り大きい屈強な体つきで、薄めの鎧を身にまとい、腰にはロングソードを下げている。

もし夜道で出会ったら、こんな大層な武器を持っていなくても泣いて逃げ出すかもしれない。


「す、すいません!私の前方不注意でした!どうかお命は!」

田丸は勢いよく頭を下げ命乞いをした。

生まれてこの方ゆとり教育の下でのほほんと育ったのでケンカの経験など全くない。


「レ、レヴァン?」


「え?」


「え?って、なんだよ。いいなあ、お前今日は非番で。

暑くて鎧の中が蒸れてしょうがない」


レヴァン?

レヴァンというのは、『ドラファン5』の主人公のデフォルトの名前である。

基本的にみんな好き好きに名前を付けるので、

レヴァンという名前のままプレイしていたのは少数だったが。


レヴァンはこの町の衛兵という設定だ。

きっとこの衛兵もレヴァンの同僚なのだろう。


いくら教員生活が細々としたものだからって夢の中でゲームの主人公になるなんて。

でも、久しぶりに楽しそうな夢だ。

この夢を、心ゆくまで楽しんでやろう。

そう思い、田丸はレヴァンになりきってみることにした。


しかし、そういえばゲーム中で彼は全く話さない。

人とのコミュニケーションは、はいといいえの二択だ。

ストーリーは今の自由度が求められるゲームとは違い一本道なので、

人に言われるがままに世界を救うだけだ。

よく考えてみるとレヴァンの人間性はよく分からない。


「おい、どうしたんだよ。固まっちゃって」


どう振る舞えばいいのか分からず、ただ立っていると、


「おーい!大変だ!首長の息子さんが東の洞窟から戻ってこねえんだとよ!」

別の衛兵が大慌てで走り寄ってくる。

こちらの衛兵はそれほど大柄ではないが、

鋭い金属の穂先がついた槍を背負っているため、恐ろしいことに変わりはない。


「なに!?おいレヴァン、お前も来い!とりあえず首長の家に行くぞ!」


同僚の大柄な衛兵に連れられ、首長の家へと向かった。



先ほど目覚めた家とは違い、首長の家は2回建てで、広々とした石造りの家だった。

床には大きなカーペットが広げられていて、内装は豪華だ。


首長が悩ましげな様子で座っている。

3人横並びになり、膝を着く。


「首長さま、レヴァンを連れてきました。

今日は非番ですが、このまま救出に向かわせます」


「事情は分かっているのか、それなら話は早い。

息子が子供たちの度胸試しで東の洞窟に向かったきり戻ってこなくてな……

無事に救出してくれれば報酬を出そう」


「承知しました。すぐに向かいます」


「頼んだぞ」


「はい!」


この話の流れを、田丸は何度か見ていた。

『ドラゴンファンタジー5』の最初のイベントそのままだ。

そう気付いて、なんてゲームに忠実な夢なんだと嬉しくなった。


田丸はゲームのストーリー通りに、

首長の息子を助けに東の洞窟に向かうことにした。


しかし、まだ何も装備していない。

初期装備は皮の鎧と盾、銅の剣だったはずだが、田丸は社会科見学のときの服装のままだ。

こんなオフィスカジュアルのような服装と素手でモンスターなど倒せないだろう。


「おい、俺の装備どこだっけ?」

ゲームと違う展開なので、横にいた同僚の兵士に尋ねた。


「え?個人の装備は個人管理だろ。家じゃないのか?」


「そ、そうだよな。すぐ行ってくるよ」


いきなりだったので気づかなかったが、位置的に考えてみると、先ほど目覚めたのはレヴァンの家だ。

プレイ中に特に行く用事はないのであまりはっきり覚えていないが、主人公の家にはタンスがあったはずだ。中に装備が入っているかもしれない。

田丸は急いで家に戻ることにした。


もし装備が無かったら、このままの状態でダンジョンに挑むことになる。

最初のダンジョンなので死ぬことはないだろうが、ローンバトルを強いられるはずだ。

夢の中なのに、そんな地味な戦いは続けたくない。

せっかくなら、気持ちよくモンスターを倒していきたいものだ。


そんな理想は裏切られた。

家のどこにも装備がない。

タンスを開けても、ベッドの下にも、トイレにも。どこにもない。


「じゃあ、城に置いてあるのか…?

でも、すぐ行くと言った手前、城には戻りづらい。

まあ、ちょっとレベルを上げればなんとかなるはずだ」


装備を整えるのを諦め、田丸は東の洞窟へ向かうことにした。

町の門まで行き、門番に開けてくれ、と言うと

「そんな装備で大丈夫か?」と言われ、

ついつい吹き出して不思議な顔をされてしまったが、大した問題ではない。

冒険の始まりだ。


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