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第一章〜「冬の訪れ」〜



 どんよりとしたくもった空。

 昼の十二時を過ぎたばかりだというのに空はまるで夕方の六時をまわったような感じ。

 なんとも鬱な気分にさせてくれる。

 

 僕はいまちょうど取引先の仕事の帰り道を歩いているところだ。

 

 僕の勤めている会社は薬品会社である。通っていた大学が理系の大学であったため、関連のある会社にとりあえず勤めることにした。

 当時、僕自身とくにこの会社に入りたいという気持ちはなかったのだが、僕が四年時に所属していた研究室の担当教授の推薦ということなので仕方なく入社したわけ。





 入社してしばらくたつが、どうもこの会社は規則に対してあまり厳しくないようだ。

 会社での実績があればとくになにかと言われることはないらしい。このことは以前に上司である坂上さんという人から教えてもらった。


 坂上さんとは、僕の教育係りとして入社したての研修期間中にお世話になった上司である。

 年は五十代であるとしか聞いていない。身長はあまり高くはなく僕と同じくらい。ちなみに僕の身長は167センチと小柄である。

 この人の趣味は将棋で、僕はよく会社の休み時間とかにつき合わされていた。そのおかげで僕は将棋の腕が少しずつあがっていってしまった。

 研修期間が終了に近づいたときには坂上さんを倒すまでの実力になってしまい、もうしわけない気持ちになってしまったことを覚えている。

 研修期間を終えて、一人前になったいまでは坂上さんとの交流はあまりなくなってしまった。





 僕の仕事の内容は主にウチの会社が取り扱っている工業用などの薬品を他社に対して売り込んだりする事、まぁ簡単に言うといわば営業のようなものだ。

 本来僕は薬品に対して研究や開発といった部門で仕事をするはずだったのだが、会社の都合により営業といった形の仕事をすることになってしまったのである。しかし、とくに僕は落胆するわけでもなく、これが社会というものなのかなくらいにしか思わなかった。実際、営業の側の仕事をしていても坂上さんにはセンスがあると褒められた。最近ではその営業の仕事も一人で実績をあげることができ会社での立場もそれなりにいい位置にいると思う。





 今日の仕事は、某会社に注文された薬品の説明なんやらで取引先に顔を出していた。

 予定では結構時間がかかるはずだったのだが、なぜか今日はスムーズにことが運び、僕にとってあまり必要のない暇な時間ができてしまった。

 会社に早く帰ってもとくにすることはないので、この必要のない暇な時間をつぶすことにした。こうやって仕事をサボることができるのも僕が営業を頑張っている特権だ。





 取引先からの帰り道を歩いていると、途中に喫茶店があった。

 外見はちょっと古い感じで、店の前にあった看板には『サボテン』と書かれてある。ちょっとユニークな名前のお店。僕はそのユニークさが気に入り、なんとなく入ってみた。

 喫茶店の中はこじんまりとしていい雰囲気をかもし出していた。店の中はあまり広くはなく、カウンター席があり、それからテーブル席が3席ほどある程度だった。店の中にいる人は喫茶店のマスターとお客さんが一人、そのお客さんはカウンター席でコーヒーを飲んでいた。

 僕は窓際のテーブル席に座るとマスターにコーヒーを注文した。

 よく見るとテーブルには小さなサボテンが置かれている。さらによく見ると他の2個のテーブル席にもサボテンが置かれていた。なるほど、この喫茶店のマスターは無類のサボテン好きが称してこの店の名前も『サボテン』になったのかもしれない。

 しばらく窓の外の景色を見ているとマスターがコーヒーを持ってきた。

「コーヒーです、どうぞ」

 よく見るとマスターは坂上さんと同じくらいの年代の人に見えた。おまけにふさふさとひげを生やし、なんともこの喫茶店の雰囲気とあってる感じがした。

「ありがとう」

 そう言って僕はコーヒーを受け取るとマスターはカウンターに戻ってしまった。僕は味音痴なの方だけれど、このコーヒーの味はというとおいしいと思えた。たいてい僕が飲むコーヒーはインスタントなので、こうやってコーヒー豆をしっかりとひいてくれたコーヒーはおいしいに決まっている。

 コーヒーを味わいながら僕はカバンから本を取り出した。この本はいつも僕のカバンの中に入っている。大きさは文庫本と同じくらいの大きさ。時間がちょっとあるときはたいていこの本を読む。何回も読んだせいかちょっと見た目はボロいかもしれない。ちなみにタイトルは…



「タイムマシン」



 タイトルの通り、あのタイムマシンについての小説である。現代の科学では実現不可能とされているタイムマシン。けれど、SF映画の世界や漫画の世界ではよく登場する。


 実現は不可能なのにそれを描くというのは、きっと人間にとって誰の夢でもあるからに違いないと僕は思う。時間を自由に行き来できる便利な機械。この機械があれば学校で習った歴史なんかはどっかの誰かさんが考えた推測なんかではなく、すべてが事実のことを歴史としてそれを知る事ができるのに。地球にどうやって生命が誕生したのかも、さらに恐竜はなぜ絶滅してしまったのかだって。もしかしたら歴史を変えることだってできるかもしれない。もしくはそれだけでなく、やり直したい時間に戻ってやり直すこともできるかもしれない。



 本を読みふけっていると結構時間が立っていた。腕の時計を見ると午後三時を回っている。そろそろ会社に戻らないとさすがに怒られる。

 マスターにコーヒー代を支払い、また来るよと言って店を後にした。

 店を出ると空はさっきよりもどんよりとした感じがする。いかにも雨が降ってきそうな空模様。そんな空を見上げていると余計鬱な気分にさせられる。


 会社への帰り道、すれ違う通行人はみな傘を持っていた。やっぱり雨が降るのかなと思い、早く会社へ戻ろうとさっきより多少早足になった。天気予報をしっかり見ておけばよかったとちょっと後悔。

 歩いているとちょうど信号にひっかかり、青になるのを待っていた。待っている間に雨が降ってこないかと心配して空を見上げてみる。すると空からは雨ではなく雪が降ってきた。この冬初めての雪。


「雪か…」


 僕はそういって手のひらを上に向けた。すると空から降ってくる雪の一粒が僕の手のひらに落ちてきた。落ちてきた雪は結構な粒の大きさ。ひんやりと冷たい。その感覚を感じると僕の目から自然と涙がひとすじこぼれていた。そのことに対して僕は驚きはしなかった。


 そして実感する。


 また、この雪の降る冬の季節がやってきたのだと…。












ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


これから少しずつですが連載していきたいと思います。


また読んでもらえたら嬉しいかぎりです。


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